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誰が為の魔導技術  作者: 白牟田 茅乃(旧tarkay)
リンドヴルム内、模擬戦
28/63

シャロンⅧ

 模擬戦が負傷した怪我人が、全員病院棟から戻って来るのを待ってから、リンドヴルム寮では全体ミーティングが始まる。

 新魔術の実験台にされていたハジも、無事何事もなくリンドヴルム寮に戻ってきた。流石にうまくいく確信も無しに人体実験をするほど、ミレーユも外道ではないということだろう。

 全員が一階の黒板の前に集まっている。

 五人がソファセット、四人が小上がりの畳の上。残りが椅子に座っている。班ごとに分かれているわけではなく、各々が居心地の良いところにいるようだ。

 シャロンは全員に注目されているのを確認してから、

「みなさんお疲れ様、みんな大した怪我も無く、戦術長として嬉しく思うわ」

 ハジあたりは全身ズタボロなのだが、その程度では怪我扱いしないあたり、戦闘手アタッカーと言う生き方の熾烈さを物語っていた。


「本日の議題は対抗戦における基本戦略。特にリーグ戦での戦い方を決めたいと思います。リーグ戦を回す場合、セレクト式とローテーション式とがありますが、当分はローテーション式で行こうと思います」


 クローネは呼ばれてもないのにスッと立ち上がり、扇子で口元を隠しながら、

「反対ですわ、やはりここはセレクト式で行きましょう。高度な柔軟性を維持しつつ、対戦相手のよって臨機応変、これぞまさに戦術ではありませんか。ローテーション式など、怠慢もいいとこですわぁ」


 セレクト式は対戦相手のオーダーを予想し、それに優位を取れる様に自らのオーダーを毎回変える方式。逆にローテーション式はオーダーを決める際に、予め決めておいた組み合わせを順次使っていく方式だ。

 セレクト式は相手の弱みにつけ込み、ローテーション式は自分の強みを押し付ける戦いになる。


 小上がりに畳の上で、仰向けに寝転がっているアナスタシアは、

「要するに、決まった部隊チーム作って交代でリーグ戦に出るってこと? それって、相手に対策取られない?」

「取られるでしょうね。ただ、序盤は相手からしても情報不足で明確な対策は取りにくいから、優位は取れるでしょう」

「わたくしを無視しないッ! なんと言っても特別顧問の言葉ですわよッ!」

「クローネはいいとして……」

「よくありませんわッ!」

 ソファセットにゆったりと座っているオウルがクローネを遮って口を開く。


「いいとして、実際ローテ式で勝ち目あるか? 戦力で不利なんだから、定石通りじゃ厳しいぞ?」

「一戦ごとの勝率に関しては、無理に奇をてらうこともないでしょう。それは自分たちの強みを殺すことになりかねない」

「強みってなんだよ?」

「質の高さよ。今日見た限り、みんな戦闘手アタッカーとしての練度は充分に高い。活きた情報があれば、やりようはあると思うけど?」

「……そう言われると悪い気はしねえな」

 情報長オウルは自慢のリーゼントを撫でる。

 負けたら情報班のせいだと、暗に責任転嫁しているのだが、そんな事は気にならない様だ。


 代わって黒板の直ぐそばのパイプ椅子に座るグラディスが、

「現実問題、戦闘手アタッカーの数が少ないのは致命的なのでは? 現状、六戦は不戦敗ですよ?」


 リーグ戦は一戦につき四対四の戦いになる。それが全二十一戦。つまり出場枠が八十四枠あることになる。

 リンドヴルムの戦闘手アタッカーは九人、そして一人七回までしか出場できない決まりがある。その為六十三枠しか埋まらず二十一枠ギャップがある。


「私の責任は、今ある戦力で勝ち筋を通すことだから、戦力不足まで私の埒外。そっちの文句はボスに言ってよ?」

「エッ? 私?」

 自分は無関係とでも思っていたのか、ロッキングチェアに揺られていたエレンはビクッと驚く。


「他のレギオンからどうにかして戦闘手アタッカーを引っ張ってきて。九人と十人じゃ全然違うから」

「ですってオウル、引っ張ってこれそうなのリストアップしていてもらえる?」

 そう言ってウインクをオウルに飛ばす。


 オウルは顔を青くして姿勢を正し、

「……分かった、なるべく早く上げる」

「それはいいとして、六戦不戦敗するのが回避できたわけではありません。戦術長として、どのように考えているのです?」

 グラディスは追及する。彼女の数字というものに対する拘りは強い様だ。


「確かに無条件に六敗は厳しいけれど、六不戦できるとも考えられる。上手く使えば残りの十五戦の勝率はかなり上がるでしょう。とりあえす初戦は棄権(なが)して、準備をしっかりしましょう」


 リーグ戦のルールでは、オーダー表の提出日は木曜日の十八時。対戦相手のオーダーと対戦日時が発表されるのが金曜の十二時。そして土日のどちらかに対戦となる。

 今が水曜日の夜なので、早いと準備に費やせるのは三日しかない。

 だが初戦を見送ると準備に費やせる時間が一週間延び。十日となる。この差は練度が重要なローテーション式にとって比較にならない大きさだ。


「具体的な部隊チーム分けは?」

「考えてある」


 シャロンは黒板に部隊(チーム)分けを書いていく。

 ハジ隊 ハジ、アナスタシア、ドロッセル、ニトラ。

 ハイディ隊 ハイディ、タイロン、ネーナ、ダン。


「ハジとハイディが隊長ってこと?」


 アナスタシアがそう聞いたのでシャロンは端的に、

「そう」


 それまで畳の上で胡座をかき、卓袱台に頬杖をついていたハジは冷水をかけられた様に驚き、

「うぇ? 俺? ちょっと待て聞いてない」

「いやね、本人に確認せずに役職につけるのはリンドヴルムの伝統でしょう? ねぇボス?」

「そうね、伝統ね」

 シャロンは嫌味のつもりで行ったのだが、エレンは全く意に返さない。


「にしても…… 他にできそうな奴が……」


 ハジは他の戦術班の面々を見渡す。

 だが、その中に自分より適任者を見つけられなかったのだろう、ハジは悲しそうに眼を伏せて、

「うん、俺がやる」

「ハイディも良い?」


 椅子に座って脚を組んでいたハイディは、

「ああ、それで? どっちの部隊(チーム)からリーグ戦に出るんだ?」


「怪我人の少ないハジ隊からにしましょう。ハジ隊は来週末の第二節までに、ハイディ隊は再来週末の第三節までに、部隊チーム戦術を仕上げること。じゃあ、他に意見のある人いる?」


 クローネは自分の言葉を聞いてもらえないのが不満な様で、顔を真っ赤にし、

「ですから、セレクト式できましょう。その場合わたくしが……」

「賛成多数のようだし、これでいいわね」


 一同は「賛成」「異議なし」など、シャロンを支持する。

 それに対してクローネは持っていた扇子を噛んで悔しがる。


「もうッ」


 クローネが不憫だったのか、ハジが強い口調で、

「シャロン、聞くだけ聞いてやれよ」

「……それじゃあ、三分だけ」


 シャロンは銀時計を眺めながらしばらく黙ることにした。

 クローネの顔がパアッと明るくなる。するとまたクローネの大演説会が始まる。自分の血統がどれだけ優秀か、身ぶりを交え、情感たっぷりに。

 リーグ戦とは全く関係無い話なので、一同はこれっぽっちも聞く耳を持たない。


「……つまり、我がラインフロスト家はこの帝国においていかに」

「はい三分経った、それじゃあ解散で」


 シャロンがそう言うと、一同はゾロゾロとバラけていく。

 クローネはそれに気づかず演説が終わったのは更に三分経った後だった。


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