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誰が為の魔導技術  作者: 白牟田 茅乃(旧tarkay)
リンドヴルム内、模擬戦
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ミレーユⅢ

 魔導学校病院棟、救急救命処置室には、次々と怪我人が運び込まれる。

 別段珍しいことでもない、戦闘手アタッカー同士の模擬戦や決闘、魔術の実験中の事故などで、命の危機に瀕する事案は枚挙に暇がない。

 救命救急医の仕事は、そんな彼らの容体を安定させ専門の医師に引き継ぐ事である。

 大抵の怪我は再生魔術を施し安静にしておけばなんとかなるので、直ぐに他科に回す事は意外と少なく、内臓や中枢神経が無傷であれば即日退院の後、各科に通院する事になる。

 魔導学校には寮があり、病院棟までそう距離もないのだから、それで充分事足りる。

 ミレーユが救命救急医を志したのは、人助けのためではない。純粋に人体を弄る事が愉しくて仕方がないからだ。どこか一部の器官のみを専門としている他科と違い、救命救急科であれば“人体”という物の、頭の先からつま先までを余すことなく愉しめる。

 彼女にとって患者とは、実験動物モルモットではなく愛玩動物オモチャである。

 そしてまた患者オモチャがやって来た。


「ねぇねぇハジもっかいやって、さっきの斬れないやつもっかいだけ」

「はいはい今度な」

「ミレ…… ザイスマン教授、彼で最後です」


 身体中に斬り傷を負ったハジと、彼の服の袖を引っ張ってオモチャを強請ねだっているようなアナスタシア。その付き添いでシャロンがやって来た。

 ハジの足取りは軽いが、絢豪装甲アラクネ・ベストのバイタルカラーはイエロー。普通は自力歩行困難のレベルだが、とてもそうには見えない。

 予めリンドヴルム内で模擬戦をすると聞いていたし、何人かリンドヴルムの学生が運べれてきた事もあって、ハジが運ばれてくるかもしれないとミレーユは予感していた。

 ミレーユは記憶を紐解いて、アナスタシアの事を思い出す。


「君は…… クロイツェルの所の」

「はい、アナスタシアです。その節はどうも」

 アナスタシアは右手を額に当て敬礼する。


「いやいやこちらこそ、お陰で非常に興味深い検体ものを回収できた。お父上によろしく言っておいてくれ」

「そうなんですか? 詳しい事は知らないけど」

「そうか、君は知らないのか…… 奇妙な縁だな」

 ミレーユは感慨深く遠い目をする。


 話についていけないシャロンは、

「なんの話? 二人は知り合いなの?」

「ああ、少し前に仕事で一緒になってね」

「そう……」

 頬に手を当て考え込むシャロンは憂いを帯び、妙な色気が出る。


 ハジは申し訳なさそうに、絢豪装甲アラクネ・ベストの襟を指差し、

「あのう、何か大事なことを忘れていません?」

「そうだった、そうだった。あんまりにも平然としているから失念していた。それでは、こちらへ来たまえ」

 そう言ってミレーユはハジの腕をとって別室に連れて行こうとする。


 すると、シャロンは悩ましげな格好のまま、

「……処置室ここでしないの?」

 処置室には空いたベッドがある。手の空いた医者もいる。ここで充分事足りるはずなのに、よそに連れて行くのがシャロンには不思議に思えたようだ。


 ミレーユは大事そうにハジの頭を撫でながら、

「私はこの子の後見人だよ? 治療にかこつけて二人っきりで話をしたいというのが親心という物ではないかね?」


 シャロンは猜疑心にまみれた視線をして、

「これまたしおらしい事。いつから人の心を持つようになったの?」

 相当失礼なことを言われているのだが、反論できるほどミレーユの過去は白くない。仕方がないので本当のことを言う。


「フフッ、実は新しい魔術が出来たのでね、彼には実験体になってもらう。発表前の魔術だからあまり人の目に触れたくないのさ」

 シャロンはチラリとアナスタシアの方を見る。


「本当? 嘘ついてない?」

「ん〜? ほんとっぽい、教授はハジのことを実験体としか思っていない」


 シャロンはホッとした様な笑みを浮かべ、

「そうそう、その方があなたらしいわ。何よ、てっきり人で無しから真人間に転職したのかと心配したじゃない。まあいいわ、この後ミーティングがあるから、生きて帰してくれれば良いわ」

「ああ、一時間もあれば済む。大丈夫、死にはしないさ、多分」

「あれあれ? 俺の命軽すぎじゃない?」


 ミレーユはハジの腕を引っ張って処置室を後にした。

 それを見つめるシャロンの瞳には、猜疑心が微かに残る。


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