表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰が為の魔導技術  作者: 白牟田 茅乃(旧tarkay)
リンドヴルム内、模擬戦
24/63

ハジⅨ

 予科生のカリキュラムは午前中が必修科目、午後が選択科目となっている。

 必修科目は語学、数学、社会、科学、魔導の五つ、それぞれ週に二回ずつ講義を受ける。国の要人としてとして身につけておくべき教養を学ぶことになる。

 午後の選択科目は直接魔導と関係ないが、知っていると身につけておくと役立つものが揃っている。

 現在一三時三十分、午後の講義の始まっている時間であり食堂の人影はまばらだ。


 リンドヴルムの“午後の講義受けない組”の内、これと言ってやる事のない者たちは、昼食の時間をわざとズラして食堂に来た。今日のところは四人。

 ハジは学生寮の食堂で、パンとシチューをたらふく食べ、食卓に突っ伏す。

 他の三人も食事はすでに終えている。


「魔導技術って…… なんだろな」

 午前中の必修科目は、あくまで初歩的なものとされているが、ハジにとっては十分難解で、脳みその中身がミルク粥になった気がした。


「ですからまず特異能力ってのが原点にあってですね」

「いや、そう言うんじゃない」


 ハジの愚痴にリーリスは律儀に答えた。

 再生魔術とはすごいもので、リーリスの脚は昨日切り離されたばかりだというのに、今日にはもう松葉杖で歩けるようになっていて、講義も受ける事ができていた。


「特異能力ッ? もしかして今私の話をしましたかッ?」


 一人の小柄な女の子が突然立ち上がり、身体をくねらせ頭の悪そうな決めポーズを取ってそう言った。

 彼女はドロッセル。

 人の顔と名前を覚えるのが苦手なハジですら、彼女の名前は一発で覚えた。

 黒髪を三つ編みにし、怪我をしていないのに眼帯を欠かさず、両腕に包帯を巻き、首からはドクロを模したアクセサリーを下げ、三角帽子と手製の杖を常に持ち歩く。

 その上発言は空想じみて、聞いている方が痛々しい。

 自称、天使と悪魔の間に生まれた穢れた存在らしい。


「してない」

「してないですよ」

「ドロッセルはバカだなあ」


 ハジとアナスタシアと、リーリスまで冷たくあしらう。


「我は天使と悪魔の間に生まれた穢れた存在、二つの異能を身につけた私にとって、魔術など猿真似にしか見えません。さあみなさん、異能について話し合いましょう。具体的には私について話しましょう」


 生物には肉体と霊格があり、霊格を加工して魔術を起動するための術式を作る。

 逆に言うと、霊格が生物の備わっている段階で、術式として成立していれば魂魄から流れる魔導力エーテルを消費して神秘的な力を行使することができる。

 これを特異能力と呼ぶ。何故か女性にしか発現しない事もあって、特異能力者を指して魔女と呼ぶ。

 異能を再現し、それを少しでも多くの人に使えるように研究が始まった。それが魔導技術だ。魔導技術が特異能力の猿真似というドロッセルの言い分もそれほど間違ってはいない。

 ただ、別に異能というものは別に天から授かるものでもない。ドロッセルがそう言っているだけだ。

 これが敬虔な修道女の台詞ならまだわかるのだが、ドロッセルのそれは、単なる空想好きな少女のものだ。


「アーニャ、あなたも魔女でしょう。ほら、二人に異能の素晴らしさを教えましょう」

「別に素晴らしいとか思ってないし」

 二人の会話を聞いて、ハジはギョッとする。


「え? おまえ魔女なの?」

「あれ? 言ってなかったっけ?」


 アナスタシアは舌をペロリと出してトボける。


「聞いてない」

「確か、その話ってお風呂場でしたから、男の子は聞いてないよ」


 アナスタシアは頭の上にはてなマークを浮かべ、

「なんて名前だっけ…… “強化洞察力スーパースレッショルド”だっけ?」

「いやいや、疑問系で言われても」


 一口に異能と言ってもある程度カテゴリーで分けられている。その中に強化系というカテゴリーがある。強化系は普通の魔術師が全身に魔導力エーテルをめぐらせるだけの活性化ドライブでは、到底到達できないレベルまで身体能力を跳ね上げるタイプの異能だ。

 強化洞察力スーパースレッショルドは簡単にいうと、“どんな些細な変化でも気づくことができる”というものだ。対人に関して言えば、目の前にいる人間の心拍数や体温、呼吸などを正確に把握し、経験則から心理状況や体調を推察できる。ただしひどく感覚的なものであり、アナスタシア自身にもそう感じるまでのプロセスが曖昧で“直感”としか説明できない。


「昨日、黒コートがいるのがわかったのはそれか」

「別に便利ってわけじゃないよ、知りたくもないことも知っちゃうし」

「へえ、例えば?」


 アナスタシアは苦虫を吐き出すように舌を出し、

「ニコニコ顔で握手してくるくせに、腹の中では嫌ってるやつとか」

「そいつは嫌だな」

「あとねぇ、すっごく眠くなるの、脳に負担がかかってるんだって」

 アナスタシアはそう言って背筋をググッと伸ばす。腹も膨れたせいで眠いのかもしれないとハジは思う。


「と言うかアーニャ、言っちゃっていいんですか? あなたこの後ハジと戦うのでしょう? 敵に塩送ってますよ」

「うーん、いいんじゃない、隠してないし、言ってもどうこうできるものじゃないし。ドロッセルも言いふらしてるじゃん」

「私は異能の本質については言いふらしてませんから、まあ見ているが良いです、後で皆さんを恐怖の底に落としてみせますよ」

 ドロッセルはクックックと頭の悪い笑いをした。


「ここから私の英雄譚が始まるのですよ〜」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ