ハジⅧ
ハジ達は、連絡を受けて助けに来たシャロン達と合流すると、そのまま魔導学校の救急処置室に駆け込んだ。リーリスをミレーユに預けると、リンドヴルム寮で事の次第を説明した。
「仲間ごと斬るなんて…… 言語道断ですわッ」
クローネがそう言った。
彼女は昨日、エレンにこっ酷く言われてから丸一日静かだったが、ここに来て元気を取り戻している。
戦闘手にはハジの行いに理解を示してくれる者も居たが、その場の雰囲気はハジを咎めるものだった。
無理もない、いざとなれば仲間ごと敵を斬る奴と、これから一緒に生活するとなったら不安で仕方ないだろう。
寮の一階ではハジを椅子に座らせ、一同がそれを囲み問い詰める。ハジは淡々とそれに答えるが、それが尚更気に食わない様だった。
「他に何か手はなかったのですかッ? せめてまず威嚇するとか?」
「俺は昨日あの黒コートと斬り合っている。威嚇して身を引くような奴じゃない」
「それについては同意見」
ハジの言葉をシャロンがすぐに補強した。
昨日、ハジとシャロンが黒コートと戦闘しているのは周知なので、シャロンの言葉には説得力があった。と言っても全面的にハジを弁護している風でもなく、むしろ批判的な態度にハジには思えた。
「……では、足元の地面を斬って体勢を崩すとかは?」
「地面と言わず、太ももの辺りを斬った理由を聞きたいわね」
クローネの詰問をシャロンが修正する。
「その時は咄嗟だったから、今になって思えばって事になるけど、良いか?」
「結構よ」
「身体を輪切りにする時って、普通頭に近いところを斬るほど致命傷になりやすいだろう……」
大半のメンバーがそんなことを考えたことがないので驚き、息を飲む。
「で、胴体を斬っちゃうと、魔導学校に運び込む前にリーリスが死んじゃうと思ったから脚を狙った。あんまり下を狙うと、リーリスだけ斬って黒コートには避けられるかと思ったから、太ももかなぁと。地面を薙ぐのは一番ない。黒コートの魔術…… 転移魔術? あんだけピョンピョン跳び回ってる奴が地面が揺らいだくらいじゃどうにもならんよ」
「つまり、斬る場所を決める際、リーリスの事を考慮に入れているという事?」
「でなけりゃ、袈裟懸けに斬ってる。殺すだけならその方が確実だからな」
「リーリスの事を考えていると言いますが、そのせいで彼女は重体、今も意識不明です。彼女に申し訳ないと思わないのですかッ」
「ハジくんは…… あの場で一番冷静でした。少なくともハジくんが居なければもっと状況は悪かったはずです。その事を考慮に入れてください」
グラディスは少し頭を下げた。ハジの弁護というよりは、何もできなかった自分への贖罪なのだろうとハジは思った。
不敵な笑みを浮かべクローネは、
「冷静? どうでしょう? 世の中には人の嫌がる事をしたがる輩もいることですし?」
会議室から戻ってからはずっと行く末を見守っていたエレンは、パンパンと手を叩きメンバーの気を引く。
「みんなの気持ちは分かるけど、人を非難するには、ちゃんとした代案を出さないと。誰かいる? 代案のある人」
エレンの言葉に返答はなかった。もちろん、ハジの行いがベストだと思っている者はいないだろう。たっぷり時間があって、ちゃんと対策していればきっと回避できた事態である。
ただ、話を聞いてから随分時間が経ってもまともな代案は出ず、ましてリーリスが襲われた時点で対応するなど無理難題だ。ハジを非難する者にもそれは分かっているから、追及にキレがない。
「じゃあこの件は一旦保留で、リーリスの回復を待ってから決めましょう。私も呼び出し食らってるから。そっちに顔を出さないと」
そう言ってエレンは手に持った一様の手紙をユラユラ揺らした。
「それじゃあみんなは食事にしてちょうだい。こういう時こそ、ちゃんと食べないと。用意は出来てる?」
エレンに聞かれたグラディスが答える。
「はい簡単なものですが……」
「じゃあそういう事で」
エレンはまたパンパンと手を叩いた。
それを受けて一同は各々動き出す。
ハジは椅子から立ち上がろうと前屈みになると、誰かが椅子を蹴ったのか、ガタリと衝撃が走り、体勢を崩してよろける。
振り返ると、クローネがにやけた口元をを扇で隠し見下ろしていた。
「失礼」
それだけ言い残してクローネは去っていく。
周囲の人はそれを咎める事もなく、傍観しているだけだった。




