エレンⅡ
入学式が終わると、すぐにリンドヴルムの一同は寮に戻る。一階のソファセットにエレン、シャロン、オウル、グラディスの四人が顔を突き合わせる。遠巻きにメンバーが何人か四人のことを気にしているようで、チラチラと四人のことを伺っている。
エレン以外の三人の手元には、メモやら資料やらがあるが、エレンは手ぶらだ。
「それじゃあ第六十七回執行部会をはじめま〜す」
「第一回執行部会を始めます」
エレンの事をナチュラルに無視してグラディスが進行をする。
「今回の議題ですが、メンバーの人事について、お二人の意見をお聞きしたいのですが」
「ともあれ、各班長の権限の範疇を確認したいのだけど、ボス?」
ソファに深く腰掛けたエレンは、リラックスした表情で、
「エレン的にはぁ面倒なことは全部放り投げたい」
「ぶっ殺されたい?」
重い威圧感を撒き散らしながら、シャロンは左手の人差し指をエレンに向ける。それが集束煌の照準を合わせるものだということをエレンは知っていたので、思わず遊盾が起動していた。
「シャロン、過激すぎない?」
「無能な上官は背中を刺されて死ぬものでしょう?」
「優秀な上官だって背中を刺されて死ぬものよ」
シャロンは唸るような溜息をついて腕を組む。
咳払いしたグラディスが、
「エレンくんが楽をしたいのは分かりました。そのためにも決めることは決めてください」
「そうね、人事権くらいは私が掌握しておこうかしら? そうしないとクローネがゴネるでしょう」
血統主義のクローネが、自分より社会的地位の低い者の指示を聞いて、首を縦にふるとは思えない。
「エレンくんは主計と言いましたが、具体的な内容は?」
エレンは指折り数えて、
「金銭、備品、烹炊、寮の保守、あとスケジュールの管理」
「戦術班は?」
シャロンはゴミを見るような眼でエレンを見る。
「まんまよ、戦術の管理。まあ対抗戦でポイントを稼ぐことを考えて」
「それは、優勝を狙うということで良いのよね?」
「もちろん、その方がやる気、出るでしょ?」
「戦術班のスケジュールの管理は?」
「人間の管理は主計、全部。一元管理した方が良いでしょ?」
オウルはソファテーブルに足を乗せて、
「つぅことは、情報班の班員のスケジュールは主計にあるってことか?」
「そう言うことになるわね、不満?」
「いいや、主計長さんに“情報班のスケジュールは情報長に一任する”って一筆書かせりゃいいんだし」
「情報班の仕事は…… 厳格に決めておく?」
「いいや、曖昧にしておいてもらった方がこっちとしちゃ都合がいい」
情報班はより多く情報を集めるのも仕事だが、情報を漏らさないようにするのも仕事だ。場合によってはリンドヴルムのメンバーの素行調査もすることもあるだろう。
かいってそれをこの場で明言しておくのは、望ましく無い。出会って日が経っていないこの時期に、“お前たちを監視する”と言うのは、リンドヴルムの中に疑心暗鬼を招くことになりかねないからだ。
「それでは、人員を振り分けましょうか」
「ともあれ、戦術班は数が欲しい。挙手した八人は全員欲しい」
「うちは能力次第だな、出来そうなのはもう唾をつけている」
「主計は? 誰か欲しい人のいる?」
「うちは余り者で構いません。魔術の腕が役に立つわけでもありませんから。情報班で欲しい人は何人いますか?」
オウルは手元の資料を見ながら、
「三人だな、とりあえずトマスと、ジャスパー、アサミン」
「それではうちは残りの五人ということで」
「あら?」
シャロンは指折り数えて確認する。
「一人数が合わないわね」
シャロンとオウルとグラディスは互いに顔を見合わせ、
「クローネさんですね、うちでは要りません。どちらかで引き取ってください」
「いらね」
「あの人戦えないし」
三人は申し合わせたように溜息を吐く。
明らかに不和を起こしそうな人材を自分の所に抱えたくはないのだろう。
「私に案があるわ」
「エレンくん?」
エレンは指で三人を自分に近づくように促しながら、
「お耳をはいしゃーく」
また何か素っ頓狂なことを言うのかと思ったのだろう、三人は訝しみながら耳を向けエレンに近づく。
エレンは自分の考えを三人に言うと、それは予想外に真っ当なものだったので三人は満足した。
「それは妙案です」
「意義なし」
「同じく」
エレンは嬉しそうに微笑んで、
「じゃ、決まりってことで」
「発表は? いつ?」
「今晩の食事の時でいいと思いますが?」
「異議なし」
「同じく」
「他に、議題はありますか?」
シャロンは小さく挙手をしながら、
「そうね、戦闘手。なんとかならない? 私入れて九人じゃ厳しいわよ?」
シャロンがエレンの座る椅子を足でグリグリと押しながらそう言った。
「情報長さん、いい子探しといてね」
「……わーったよ」
グラディスは三人の顔を見て、もう議題がないのを確認すると、
「それでは、第一執行部会を終わります」




