ハジⅤ
帝国歴四百五十六年、四月三日、火曜日
魔導学校入学式当日である。
大講堂には真新しい制服を着た新入生が揃っていた。
魔導学校は予科一年、本科二年の計三年間かけて魔導を学ぶ。
予科は魔導協会の一員として世に出しても恥ずかしくない者を育てる期間だ。
そのため、武勇を作る為の場を設けたり、魔導と離れた一般教養や社会人としてふさわしいマナーを修める期間である。
そんな魔導学校の入学式には各界の有識者が集まる。
講堂は、扇状に座席が置かれ、要の位置に壇上がある。
千以上の座席がある大講堂の中に、各レギオンにそれぞれ割り当てられたスペースがある。後方の座席は有識者用になっており、既に多くの人で埋められている。
最前列にはエレン、二列目にはシャロン、オウル、グラディス、クローネが座る。
ハジはアナスタシアに手を引かれ隣に座る。丁度シャロンの真後ろだ。
何を思ったのか、急に身体を密着させてきたアナスタシアは、ハジの腕を取るとギリギリと関節を決めてくる。
まだ式は始まっていないが、厳かな雰囲気の中で格闘をする訳にもいかず、その時はもう諦めてひたすら耐える事にした。
しばらくするとシャロンは身体を捻り、リンドヴルム一同の方を向く。
「そう言えば、この中で戦術班に入りたいってどのくらいいる?」
彼女がそう聞くとチラホラと手が挙がる。
ハジとアナスタシアも空いてる手を挙げた
指折り数えたシャロンは、
「八人…… ありがとう、もう良いわ」
ハジは態勢を元に戻そうとした彼女と目があった。
その時口パクで、“やめろ”と言うので生きた心地がしない。
アナスタシアをどうにかしようと、
「なあ、そろそろ離してくれ」
「ええ、暇なんだもん、構ってよ」
「離れてください。本当、お願い」
「ぶぅ、あとでチョークスリーパーだかんね」
アナスタシアは渋々腕を解く。
するとタイミング良く、式は始まった。
「皆様、長らくお待たせしました。これより第百四十八回、魔導協会付属学校の入学式を開始します。それでは国歌の斉唱を行います。皆様、御起立願います」
進行がそう言うとその場の全員が息を揃えたように立ち上がる。
「シャロン、俺国歌知らないんだけど」
「口パクしてなさい」
テンポの早い伴奏が流れ、全員が声を合わせ歌う。元が軍歌なのか、やたら過激な歌詞だ。
「御着席下さい、続いて、魔導協会会長、ヴィルヘルム・ヴィンセント・フォン・ホーエンハイムより祝辞を述べさせていただきます」
紫色の豪奢なローブを身に纏った、長い白髪に白い髭を蓄えた老人が壇上に登る。
かなりの高齢のようで肌にハリはなく、皺くちゃの顔は樹木の皮のようだ。だが、貧弱には見えず、人間離れした厚みを感じさせた。
「諸君、入学おめでとう。諸君らが学校生活を通し、一層の成長することを願ってやまない。しかし、それは諸君らを甘やかすということでは無い、むしろ真逆だ。蠱毒というものを知っているだろうか? 東方に伝わる儀式の一つだ。壺の中に百種類の蟲を入れ封をし、一年を待つという。すると生き残った蟲は最初に入れた百種類の蟲、どれとも違う逞しい姿になると言う。私はそれに倣おうと思う。つまり、魔導学校が壺で、諸君らは蟲だ。対抗戦を通して一年後、どれだけの者が生き残っているかはこの際どうでも良い。ただ逞しく成長することだけを私は望む」
言い終わるとホーエンハイムは拍手を浴びて壇上から降りる。
アナスタシアはホーエンハイムの祝辞の意図が分からなかったようでハジに聞く。
「どゆこと?」
「しらね」
同じくよくわかっていなかったハジに代わって、シャロンが答えた。
「要するに、死ぬ気で頑張れってことよ」
「じゃあそーいえばいいじゃん」
「老人は難解な表現を好むのよ、偉く見えるから」




