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誰が為の魔導技術  作者: 白牟田 茅乃(旧tarkay)
魔術師の卵たち
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シャロンⅥ

 レギオンの振り分けも半数を終えると、最初にあった高揚感も大分冷める。

 特に既に自分のレギオンが決まった生徒にとっては、することもなく手持ち無沙汰でしょうがない。

 ただ、シャロンに関しては、そうではなかった。


「やあ」

「……はぁ」


 こともあろうにハジがシャロンと同じレギオンになった。宣戦布告じみたことを言っておきながらこの展開は恥ずかしい。

 シャロンは気を静めるために大きく息をする。


「スゥー…… フゥー」

「そうだシャロン、耳貸してくれ」

 ハジは耳打ちしようと顔を近づけてくるので、髪を掻き上げて耳を向ける。


「俺の記憶が無い件、秘密にしておいてくれないか。余計な心配させたく無いからさ」

 そう言うとハジは顔を引っ込める。

 今日一日行動を共にして見て、多少知識に問題があると思ったが、言動としては落ち着いていた。


 だからシャロンは、大丈夫だろうと思って、

「ええ、分かったわ」


 そうしている間に、ハジに一人の女の子が話しかけてくる。


「ハジぃ」

「アーニャ、お前もリンドヴルムになったのか。偶然だな」


 アナスタシアはニコニコ顔でハジにもたれかかり、バンバンと彼の背中を叩きながら、

「やだなぁ、ハジと同じとこになりたくて狙ったに決まってんじゃん」

「なんだ? 魔術でもつかったのか?」


 アナスタシアは鼻で笑って、

「まさか」


 振り分けに使われたダイスは対魔導処理を施された物だ。会場中にも厳重な魔導対策が施されているため、魔術でダイスの目を操作するのは不可能だ。


「こう、サイコロに回転をかけて…… だから…… 説明しづらいな」

 アナスタシアは身振りを交えて説明するが、上手く伝えることが出来ない。


 ハジは手で制しながら、

「まあ方法はいいや」

「そう? そだね」


 アナスタシアは懐からスカーフを取り出して、

「返すの忘れてたから」

「ああ、別に今度でも良かったのに」

「やだなぁ別のレギオンになったら、会う機会なんてないし」

 ハジはスカーフを受け取ると違和感を覚え、それを広げた。


「水びただな」

「うん洗っといた」

「まあ、いいか」


 ハジはそのまま自分の制服の胸ポケットに突っ込んだ。


「ハジくん、この娘は?」

「さっき会った。名前がアナスタシア…… だっけ?」

「そうそう」

 自信なさげに言ったハジにアナスタシアが頷く。


「フルネームは?」

「アナスタシア・ハユハ・フォン・クロイツェル」

 それを聞いたシャロンの戦闘手(アタッカー)としての部分が、ドクドクと音を立てて動き出す。


 極力それを悟られぬ様に尽くして、

「……“あの”クロイツェル男爵?」

「そうそう」


 確認したシャロンにアナスタシアは頷く。

 アナスタシアの楽しそうにしていた目つきが攻撃的に釣り上がる。アイスグレーの瞳がシャロンを捉えて離さない

 二人の間に緊張の糸が張り詰める。

 急に息苦しくなった雰囲気にハジは戸惑う。


「えっと、なに? これ」

「執務官って知ってる?」

「知らない」

「警察の親戚みたいな者よ。クロイツェル男爵は執務官だけど、彼はやり方がかなり過激で、付いた渾名が血まみれ男爵。この娘はその鉄砲玉よ」

「そうそう」


 執務官の仕事は、国事犯の処理だが、その方法は執務官に委ねられている。

 警察の様に捜査して逮捕する者もいるが。警告なしで殺害する者もいる。

 クロイツェル男爵は後者だ。

 彼は、魔術の才能のある子供を養子に迎え、殺しの道具の様に使っていることで有名で、非常に優秀な成績の反面、殺した国事犯の数も断トツだ。それを快く思っていない者も多く、シャロンもその一人だ。

 アナスタシアは今にも跳びかからんと腰を落とす。


「それは悪いことなのか?」

「法的にはセーフ、道義的にはアウト」


 シャロンは手を腰の高さまで上げて、人差し指を伸ばす。シャロンが集束煌(レンブラント)の狙いをつける際のルーティンだ。指先はアナスタシアに向いていた。光球こそ出していないものの、その気になれば一瞬で射ち出せる。

 アナスタシアも腰を落とし、前傾姿勢になって、いつでも飛びかかる準備はできているようだ。

 二人の異様な様子に周囲の生徒も気が付いたのか、距離をとってざわつきだす。


「シャロン」


 ハジは二人の間に割って入って、

「その渾名はこいつんじゃない。文句を言う相手が違う」


 シャロンはハッとして手を下ろす。

 クロイツェルの名前を聞いて警戒したら、アナスタシアが殺気立って、そうしたら自分がさらに煽る格好だ。

 自分で思っている以上に、自分は好戦的なのかも知れない、と反省する。


「ごめんなさい。つい」

 シャロンは頭を下げて詫びる。元はと言えば自分が過剰に警戒してしまった事が原因だ。


「いよいよ、いきなりブッパしない分まだマシだし」


 アナスタシアはサムズアップ。その表情は穏やかなものに戻っていた。

 二人の緊張が解けると、周りの生徒も弛緩する。

 するとリンドヴルムのレギオンマスターが声をかける。


「シャロン」

「エレン、騒がせてごめんなさい」

 エレンは、クリーム色で緩いウェーブのかかった華奢な長身の男だ。全身をシナッとくねらせ、その仕草はどこか女性的だ。

 公爵家に生まれてすでに家督を継いで当主になっているので、外の社会では相当な権力者という事になる。

 だがそんなところ全く思わせない、軽い雰囲気を纏っている。


「いいのよぉ別に。それより、もうここを出る用意をしておいた方が良いんじゃない?」

 エレンは会場の真ん中を指差す。


「これにてレギオンの振り分けを終了と、歓迎式典を終了とさせていただきまぁ~す。皆様、おかえりの際は……」


 タキシードの男がそう言うと、会場中が一気にざわつき、途中からはもう聞き取る事ができなかった。

 エレンは一度手を叩き、レギオン・メンバーの気を引いた。


「さて、これからリンドヴルム寮に移動するけどその前に。もう転属が決まってる人いる~?」


 するとスッと手が伸びる。

 シャロンがさっきのアインハルトと話した時に一緒にいた従者の女の方だ。


「私、ジークリンデ・フォン・リュウトラルは、既にアインハルト様のグリフィスレギオンに転属する事で話が付いている」

「そうじゃあ行っていいわ」

 エレンは引き止めなかった。


「失礼」

 そう言ってその場を離れる。


「何? どういうこと?」


 ハジがシャロンにそう聞くと、アナスタシアも気になったのかハジにおぶさる格好で乗っかり、シャロンに耳を向ける。


「レギオンは他のレギオンの人間を引き抜いて、自分のレギオンに加えることができるのよ」

「それじゃあ、わざわざ振り分けた意味ないじゃん」


 アナスタシアがそう言う。

 ハジはともかく、なんであなたが知らないんだ、と言ってやりたいが、さっき変な空気になったこともあり、普通に答える


「そんないいものじゃないわ。各レギオンが受け入れられる人数は三人まで。しかも転属元になったレギオンに補填金を渡さないといけないし」


 へぇ~、と二人が声を合わせて言った。

 

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