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2 中学生時代

 中学にあがり、もう12月。

 ボクは裕也たちと一緒にいることはなくなった。中学にあがったとたんに、彼らはボクと会おうとせず、ボクが近づいたり、話しかけようとしたりすれば、何も言わず、そそくさと逃げ出していった。


 ボクを救ってくれた彼ら。その面影は今の彼らにはなかった。


 原因はわかっていた。

 ボクはいつだったか見た。上級性にいじめられている彼らの姿を。


 みんなに元気がないのは、いじめられているから。

 ボクと会おうとしないのは、昔のボクと同じで人を信じることができなくなっているから。


(どうにかしなくちゃ……)


 そうは思っても、ボクはそこから動くことはできなかった。みんなに暴行が加えられていくその様をただただ見ていることしかできなかった。


 何をやっているんだボクは。

 早く助けなくちゃ。

 ボクをこの世界へと導いてくれた彼らをボクが救わないでどうするんだ。


 それでもボクは動くことはできなかった。足が震えた。


 ボクは弱い――。

 今出て行ったとしても、何もできずに終わってしまう。


 そう思うと、体が楽になった。

 ここは逃げよう。自分に言い聞かせてその場を離れた。


 何もできなかった、ボクは本当に弱い。


 離れていく間そこでは殴られる音がボクの耳に鈍く響き渡っていた。


 そうしてボクは願った。

 強い力が欲しいと。サンタさんはきっと叶えてくれる。そう思った。


*****


 クリスマスの日は過ぎた。

 だけど、ボクには何も変わりはなかった。願いは……叶わなかったんだ。


 でもボクは、本当はこの願いは叶わないと心のどこかでわかっていたのかもしれない。


(サンタクロースなんていない)


 クラスのみんなはそう言っていた。

 だけど、ボクは信じていた。

 ずっと1人ベッドの上にいたとき、そこにきてくれていたサンタ。

 それはボクにとって唯一の世界とのつながりだった。

 早く外に行きたい。そう思わせてくれるボクの希望の支えだった。


 でもわかっていた。いないということは。

 子供を喜ばせるための大人のしていることだと。


 世界のことを知らなかったボクはそのまま中学生になった。

 そうしてみんなの言葉を聞いていき少しずつ、「世界の常識」を受け入れ始めた。


 純粋な信じる心。


 それが失われてしまった。

 じゃあ、このボクの願いは一体だれが叶えてくれるというのだろうか?


(叶えてくれるわけないよね)


 もう少しで今年も終わりを告げようとしている。

 何もできず、大切なものは失い終わっていった。そんな1年だった。


*****


 すがるものが他にないだけ。

 2年となった。そしてまた12月。

 僕はまだ願っていた。強い力を。

 ここで信じることをやめてしまったらすべてが消えてしまう。そう思ったから。

 サンタを信じる純粋な心が消えていてもボクが願う、彼らを救いたいという気持ちは本当だから。いると信じ続けた。その間もずっと彼らをいじめられ続けた。


(どうして)


 サンタさんはなぜ、願いを叶えてくれないんだ。早くしてほしい。

 こんなボクでも救いたいんだ。早く、助けたいんだ。

 この願いは今度こそ通じるだろうか。


 クリスマスの日。9時ごろだった。ボクの目の前に人が現れた。


「君は海人くんだね」

「え……」


 それはまさにサンタ……その格好をした人物だった。


「はいそうです」


 ボクは少し興奮気味にそう答えた。

 やっと願いが叶う。その時が来たんだ。

 彼らをやっと助けることができる。


 でもサンタさんの言った言葉はボクの望んでいた解答ではなかった。


「残念だが、君の願いを叶えることはできない」

「え……なんで」


 サンタさんはボクの願いを聞いてはくれない。

 去年も今もボクは同じままなのか?

 僕では彼らを救うことはできないのか?


 どうして願いを叶えることができない。

 今の彼らは苦しんでいるのに。どうして

 それはだんだんと怒りへと変わっていった。


「どうしてできないんだ!」


 口調は強かった。それは自分の中にためこんでいた思いすべてをさらけ出す勢いだった。


「ボクは……ボクは願い続けていたんだ。2年間もずっと。ただそれだけを……ボクは救いたいだ! ボクをすくってくれた彼らをボクに手をさしのばし、希望を与えてくれた彼らをそれなのに、どうしてダメなんだ!」


 彼らと過ごした楽しい記憶。口にするとその日々を思い出す。

 サンタは申し訳なさそうにしながらも、堂々とした声でボクに言った。


「私は形のあるものなら叶えることはできるがそうでないならできない。つまり君の言う『強い力』は叶えることができない」


 その言葉をボクの怒りを一瞬にして落胆させた。

 彼らを救うことはできない――。

 それをわかってしまったとたんに、全身の力が抜けていった。


「じゃあ、じゃあボクは……どうしたらいいんだ。ずっと信じ続けてきたのに……。その信じる者を失ったボクは……何をすれば」


 サンタさんはどうして今頃になってやってきたのだろう?

 去年に来ても今年に来ても結果は同じはずだ。


 それだったら早く来てくれたほうがよかった。

 そうして教えてほしかった。

 そうすれば、もしかしたら未来は変わってたかもしれないのに。

 無駄なことをせずに済んだのに。


「私は君に力を与えることはできない。でも、私は君に彼らを助けるための手助けをすることはできる」

「え……」

「いや、私はそのためにきたんだ。君とともに彼らを救うために」


*****


 意外な言葉だったそれはどういう意味だろう。


「ついてきなさい。君をそのための場所につれていってあげよう」


 サンタさんは歩いていく。ボクはあまりにも多くの状況と、自分の感情。それらが激しく変化していて頭が追い付いていかなかった。でも


(いこう……いや、行くんだ!)


 ここで立ち止まってはいけない。それだけはわかった。

 そしてボクは先に歩いていったサンタさんの後を追いかけた。

 その時ボクは少しの希望を持ちながらも、この先で起こる『何か』を不安に思っていた。


*****


 着いた場所。そこは路地裏の一角だった。ここになにがあるというんだ?


「ここだ」


 指さされた場所そこに目を向けると、


「ぐっ……」

「今日はこのぐらいでいいだろう」

「でもまぁ憂さ晴らしにはちょうどいいし感謝してるぜ、後輩君」


 みんながいた。ボクの大切に……大切に思っているみんなが


(助けなきゃ……)


 でもボクはやっぱりいつかのときのように足が震えた。動けなかった。

 何も変わっちゃいない――弱いままだ。


「ほら帰るぞ」


 誰かがそう言って、その場には彼らだけが残された。いじめていたその人たちがいなくなった。途端にボクの足の震えは止まった。


「あなたはいったい何がしたいんだ」


 湧き起こる怒り。


「ボクにこんなところをみせてなにがしたいんだ! 助けに出られなかったボクを見てなにがしたいんだ! ボクだって……ボクだって助けたいんだよ。でも無理なんだ。ボクは弱いからボク1人じゃ彼らを救うなんてできないんだ。助けを呼ぼうともした。でも、それがなんになる? その後の標的が別に変わるだけじゃないか。ボクが助けを呼べば、その標的はボクになるんだ。ボクが助けに出たのとおんなじじゃないか。……怖いんだ、それが。だから強い力を持たなきゃ意味がないんだ。そのために、ボクはあなたに願ったんだ。だけどそれは無理だった。叶えられないと知った。落ち込んだ。それでも、あなたはボクの手助けをしてくれるといった。少しは希望を持った。だけど、これのどこがそうんんだ! ボクには何もできなかった。ただそれだけじゃないか! そんなボクをみてなにがしたいんだよ……」


 ボクは泣き出していた。

 自分が情けなさ過ぎて。

 何もできなかった自分が嫌で。

 そのくせ恐怖が去った途端に体は軽くなる。

 そんな自分が嫌で――。

 全部が嫌で――。

 その結果人にやつあたりまでして――。

 ……最低だ。


「君は今わすれているんだ強さとは何かを。昔持っていた手に入れた強さを」

「忘れているもの?」


 なんだろう?

 何を忘れているというのだろう?

 手に入れた強さ――そんなものは知らない。

 ボクは前から何も変わってなんていないはずなのに。


「それは勇気だよ」

「勇気……」


 勇気、それはなんだろうか? 自分の中に眠る記憶その中で何が――?


「強いものに立ち向かう。それは誰もが怖く、恐れることだ。でも勇気を持てば立ち向かえる。それが君の手に入れた強さなのだから」

「でも、でもボクはそんなもの――」


 持っていない。そう言おうとしたが、果たして本当にそうだったか。


「持っている。君は願い続けた。私に力が欲しいと。それはもう、君の持っている強い力なんだ。君の中にある強い心の力なんだよ」


 その言葉を聞き、ボクは昔のある記憶を思い出した。勇気とは何か、その記憶を。


 裕也に手を伸ばしたとき――。

 外にでたとき――。

 みんなとあったとき――。

 そしてみんなとともに遊んだとき――。


 そのみんなと過ごしたあの日々にあったもの――それが勇気だった。

 彼らが教えてくれたもの――そのすべてがそうだった。


 ボクは強くない。


 それはボクの彼らに対する否定だった。彼らと過ごした日々に対する。

 でもその後ボクは願い続けた。

 強く……強く。力がほしいと。

 彼らを救いたいと。

 それも強さなのだとしたら、ボクは弱くはなかった。

 勇気とは何か? それを思い出せればすぐに救えた。


「ありがとうございます」


 ボクはそう言っていた。勇気をというものを思い出せたから。


「いや、これからが君に対する本当のヒントだよ」

「え?」


 そしてサンタさんの視線をたどっていくと


「あいつらはもういったか?」

「ああ」

「でも無茶するよな、お前も」

「すまないな。お前たちも巻き込んでしまって」

「いいよ別に。腐れ縁ってやつだろ?」

「でも、裕也。いいの? 海人は今も一人でいるんだよ?」

「仕方がないさ。あいつは弱い。こんなことには巻き込みたくない。それはあいつには荷が重すぎる」

「だけど海人は私たち以外に一緒にいる人なんていないよ。学校でもいつも1人で。寂しそうにしてる……」

「……オレだってあいつのそばにいてやりたいさ。あいつを外に連れ出したのはオレなんだからな。……でもそのためには他の同じ学年のやつらがきずついちまう。そんなのはいやなんだ。オレたちが代わりになれば誰も傷つかないなら、それでいいじゃないか。一緒にいたらあいつも傷つく。だから一緒にいれない。これがオレの答えた」

「……」

「それよりも早く帰ろう。いつまでもここにいてもしかたないからな」

「ああ……」


 ボクは唖然とした。彼らがこんなことをしていたなんて。

 でもそれと同時に彼ららしいとも思った。昔のことだ。みんなと一緒に遊んでいたとき信二が教えてくれた。


「お前、感謝しろよ」

「え? なにが?」

「裕也はお前のことを想って行動してくれたんだ。お前が元気ないって心配してたんだよ。みんなは楽しく笑っているのに、お前はいつも1人で悲しい顔をしているってな。だからあいつは一緒に遊ぶことで海が楽しく笑ってくれたらいいなって思ってたんだよ」

「……そうだったんだ。……うん。ありがとう」


 わらいかける。


「う……か、感謝するならあいつにしろよ! オレは別になんもしてねーし」

「ううん。ありがとう。一緒にボクと遊んでくれた。それだけでボクにとってはとても大きなことなんだ。とても大事なことなんだ」

「う、あ、ほら! 早く行こうぜ! みんなが待ってる!」

「あ、まってよー!」


 ――そう、これが彼らだ。

 彼らは他の人が悲しむのなんて見たくない。そういう人たちなんだ。

 そしてその人たちにボクは居場所をもらった。救ってもらった。だから今度はボクが彼らを救うんだ。


 何度思ったか分からない。このこと。

 でも今なら胸を張って言える。

 絶対に助けると――。

 ボクは彼らから立ち向かう勇気というものをもらった。

 立ち止まって怯えていても何も始まらない。

 怖いものにも立ち向かう勇気が必要だと。


 そしてボクは心の力を手に入れた。立ち向かった結果、その勇気が否定される。そしてそこでくじけてしまう。それが弱さ。

 彼らがいじめられているとき、ボクは勇気を持てなかった。

 でもたとえもっていたとしても、その後にくじけてしまう。それを自覚した。それが心の強さなのだ。自分自身を理解することが心なのだ。そしてそこでくじけぬ心をもつことが本当の強さなのだ。


 ボクは手に入れた。この2つの「勇気」と「本当の力」を。だから――


「サンタさん。本当にありがとうございました」


 今は泣かせてください。彼らとの日々に。自分のことに。すべてに。

 ボクはこらえることもせず、声をだし大泣きをした。大粒の涙が流れるとともに、空も一緒に白い涙を流してくれた。


*****


 ばきっ!


 昼休み。体育館裏で幾度となく聞いた人が殴られる鈍い音。それが響いていた。

 今は3学期。クリスマスは過ぎた。でも、その日に起きたことはちゃんと今でも覚えている。


 曇った空の下を歩きながら、目に見えるところまできた。やっぱりまだ怯えている……。でも大丈夫だ。ボクはもう弱くはない。本当の強さを知っている。


「なにやっているんですか? 先輩」

「?!」


 全員が驚いて声の主であるボクを見た。その中で最初に口を開いたのは裕也だった。

「海人……お前どうして……」

「なんだお前。あいつ、知り合いか?」

「え、あ、いや……」


 戸惑うように否定する。


「ボクの大切な友達なにをしていんですか?」


『?!』


 みんな驚いている。きっとボクがこんなことをいうとは思ってなかったからだろう。


「大切な友達ぃ? はは! 笑わせるぜ! こんな場面、お前だって1度くらいはみたことあんだろ? それなのに、お前はお前はずっと放っておいたんだろう? そんなやつらを大切な友達だぁ? なにいってんだてめぇはよぉ!」

「確かに、そうですね。ボクは何度も見てきた。……でもこれじゃあダメだって思うようになったんです。彼らを救わなくちゃって」

「助けるだと? どうやってだ」

「もちろん。あなたたちを倒してです」

「っ! ふざけてんじゃねーぞ、おらぁ!」


 そういい、ボクのもとへと走ってくる。今までなら逃げただろう。ボクのもっていた力の限界だ。

 だけど今は――


「う!」


 殴り返してやった。


(にげたりなんかしない!)


 その場の全員が唖然としていった。その中で僕は言った。


「これからはボクが守る。この場のみんなも。学年のみんなも。絶対に誰も傷つけさせたりなんてしない。みんなボクの大切な友達なんだ。ボクはまだまだ弱いけどボクが大切など思っている人は絶対に守って見せる」


 曇っていた空が晴れ、太陽がボクの後ろから輝いていた。

 これは『昔考えた設定まとめ』という、今は非表示にしている投稿作品の中にまとめていた設定の一つです。中学のときにノートに書いたもので、このまま眠らせておくのも……と、それを少し手直ししつつ、アップしました。


 最後のほうがすごく駆け足だったり、テンプレみたいないじめをする先輩たちとか、なんかむしろ自分ではみてて笑いがこみ上げてきてしまったのですが、すごく大真面目な内容だし、当時の自分の伝えたいことがちゃんと伝わってきました。


 ただそれで、「思いついたのがテレビを見ていたらサンタクロースにお願いしたいのは番組のレギュラーですね(笑)とか言っていて、そんな形のないもの与えられるわけねーだろ」と言うものでなければこその話ですが。


 そして一番言いたいことは……サンタほとんどかんけーねー!

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