第七話「いやだな、そんなの」
「だめだ、全然わからねぇ・・・・」
涙を取り戻そう、そう心に決めてから早三か月。
俺の疲労もストレスもピークに達そうとしていた。しかし、色々なことを調べたり試したりしたものの何一つわからなかった。
心理学の本から医学書、妙なオカルト本に至るまで受験勉強の合間を縫って読み漁ったものの進展は無かった。
それどころか思い出そうとする度に頭痛に苛まれ、イライラするばかりで勉強にも支障が出てくるのだ。
そんなことが続き、俺ら受験生には一大イベントである大学入試が明日に迫っていた。
俺はコツコツ勉強をするのが好きで、ちゃんと試験勉強と涙を取り戻すことが両立出来ていた・・・・ように思う。確信はないが。
だから志望校への準備も怠りなく、先生からもかなり期待されている。
後はもう一つ、涙のことと受験勉強以外で心残りがある。
佑治のことだ。
あの時、喧嘩をしてから俺たちは必要以外に話をしていない。
俺も、きっと佑治もどこかで距離を置くことを意識しているのかもしれない。俺ら二人は一定以上の距離から近づこうとしないのだ。
それも寂しい。まるで涙をなくした時とは違う苦しみが俺を襲う。
胸が締め付けられて、泣きたくても泣けない苦しみを一層強くした。
そのことを思うだけで、また目頭が熱くなった。でも、涙は零れない。
「あー、すっげぇつらいな。これ」
服の上から胸をつかむようにして宙を仰ぐ。何もない自分の部屋の天井が見えるだけだ。
誰も見てはいないのに、無理やり笑顔を張り付ける。
こんな風に、永遠に涙が取り戻せなかったら俺は上っ面な笑顔を張り付けて生きていかないといけないのかな。
あいつは・・・佑治はもう推薦の合格が決まった、って誰かが言ってたな。
目を閉じて想像する。これからの俺らを。
佑治とも仲が悪いまま俺ら二人とも卒業して、お互いが遠い町に行って・・・・。それで、印象の悪い最低最悪の『元』友達としてあいつの心の中で生き続けるのかな。
いやだな、そんなの。
本当は、仲直りしたいのに。前みたいにくだらない話をして、笑いあっていたいだけなのに。
どうしてこんなに気持ちが、言葉が伝わらない?伝えることが出来ない?
「俺は、佑治みたいに強くなりたくて。だからあの夜に願ったのに。なのに、いざ泣き虫じゃなくなったら佑治は俺の隣にいなくて。俺、おれ・・・・っ!」
ぽつりと、独り言が小さな部屋の中に零れては消えた。
「そんな強さはいらないよ。佑治と仲直りができないくらいなら、泣き虫なままでよかったよ」
一人ならこんなにも素直に言えるのに、どうして向き合うと言葉が出ないんだろう。
いくら願ったところで、夢に夢魔が出てくることはない。
もう卒業はすぐそこだ。




