第五話「本当のようだ」
「ふぁ~わ....」
いつもと変わりない朝だった。
起きて、朝飯を食って、歯を磨いて、着替えて、準備をして学校に向かう。特に変わったことなどなかった。
妙な夢を見たことも、さして気にはしなかった。あの夢魔とやらの言ったこともどうせ夢だと信じることはない。
妙な夢を見た、と心の中で完結させて。
だがしかし、その考えは俺を大いに裏切ることとなった。
それは登校中のこと。
俺の家から学校までは片道三十分。自転車、電車、徒歩の三つを移動手段とする。
その自転車をこいでいる時。
通学路には多少地面がでこぼことしている所があり、毎日俺はおっかなびっくりでそこを通過している。
だが今日はバランスを崩して、転んでしまった。
周りは通学通勤中の学生や大人がいて恥ずかしかったし、転んだ拍子に腕や膝を擦りむき痛かった。
....が、それだけだった。
いつもだったらそこで泣くのが当たり前だったのに、泣くことはなかったのだ。
不思議なこともあるものだと考えていたが、それはただ偶然泣かなかったのではないと後々思い知らされた。
その後、学校では祐治と喧嘩した影響で空気が重かった。
だがそこでもおかしいことに、俺は一滴たりとも涙を流さなかったのだ。
普段ならいたたまれなくて、話すことが出来ないのが辛くて泣いてしまっていたのに。
さすがに俺も不可解だと思ったが、何をどうあがいても泣くことはなかった。
はじめは混乱したが、冷静になって考えるとやはり思い当たる節はあの夢以外見当たらない。
....あの夢魔の言ったことは本当なのだろうか。
まぁ別に俺はこの体質にうんざりしていたことだし、困ったことも今のところ何もないし、願ったり叶ったり。
という訳で俺、不動こころは泣かないようになったのだった。




