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魔王な教師と魔法少女~まお×きょう  作者: ごまみそ
一魔王と出会った日
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―魔王と出会った日

 


    ―魔王と出会った日

 


 

 魔力で満ちた世界『アステア』、それがこの世界の名称である。

 

 

魔法の力は人々に影響を与え生活を支えている。

 

 

 そんな魔法を正しく扱う術を学ぶ学園が世界の至る場所に存在するのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 その世界の至る所に存在する学園の一つ名門『アートフォン学園』、数多く存在する学園の中でも最大級と言われている。

 

 

北大陸最大の魔法都市『グランセイル』に存在しており名門と呼ばれてはいるが、生徒は貴族ばかりという訳ではなく普通の一般市民も多々在籍している。

 

 

 

 多くの学生が登校していく中、一際人々の注目を浴びている二人組がいた。

 

 

 

 一人は身長163cm程でもっちりとした白い肌にスタイル抜群、ぱっちりとした赤い瞳に赤く染まる艶やかな長い髪をしている。

 

 

 彼女の名前はアリス=クレメンティス、今年アートフォン学園に入学してきた一年生である。

 

 

 

 もう一人は同じく身長164cm程の腰まで伸びた金髪をした女の子。

 

こちらの女の子も真っ白な肌にスタイル抜群、優しい黄色の瞳をアリスに向けている。

 

 

 彼女の名前はティア=テスタロッサ、彼女も今年アートフォン学園に入学してきた一年生である。 

 

 

アリスにティア、今年学園に入学してきた美少女として有名な二人組だった。  

 

 

  

 

 アリスとティアの二人は周りの生徒達の視線に気付いていないらしく、仲良く話しをしながら学園に足を踏み入れた。

 

 

学園の巨大な門をくぐると、二人は話しを止めて足を揃えて敬礼すると緊張した顔で門の近くに立っている老人に挨拶する。

 

 

『おはようございます!グラン教官』

 

 

「うむ、アリスにティアおはよう」

 

 

 片目に巨大な切り傷が入った細身で白髪の老人。

 

どこぞの筋者としか見えない表情だけでなく、厳しさから生徒達から恐れられている。

 

 

彼の名前はグラン=ペイン。アートフォン学園の教官をしている。

 

 

 

 二人は挨拶を返してもらい歩いて行こうとすると、思い出した様にグランは二人の背中に声をかける。

 

 

「ああ、二人共……学園長が呼んでおるから授業前に行くように」

 

 

「学園長がですか?分かりました」

 

 

「はい、直ぐに向かいます」

 

 

 グランの言葉を聞いてアリスとティアは振り返ると頷いた。

 

 

 

「何の用かな?学園長」

 

 

「心当たりはないけど……とにかく行ってみよう」

 

 

 アリスが少し首を捻ると、それを見たティアは微笑むと学園長の元に向かって歩き出した。


 

  

 

 噴水やベンチなどある広く快適な校庭を抜けて校舎内へと入る二人、真っ直ぐ向かった先は学園長室。

 

 

学園長室の前で立ち止まり、扉をノックすると女性の優しい声が聞こえてくる。

 

 

「開いていますからどうぞ」

 

 

『失礼します』

 

 

 中から声が聞こえてくると、二人は学園長室へと足を踏み入れる。

 

 

中に入り真っ先に目に入ったのはソファーに腰掛け、紅茶を飲んでいる穏やかな表情の老婆であった。

 

 

紫色の髪に穏やかな表情、決して老けている訳でもない若々しい老婆は入ってきたアリスにティアを見ると微笑んだ。

 

 

彼女の名前はシャルロット=フォニア、アートフォン学園の学園長をしている。

 

 

「いらっしゃい、ごめんなさいね?呼び出したりして」

 

 

「いえ、気にしないで下さい」

 

 

「それで、御用というのは?」

 

 

 アリスとティアがシャルロットに向かって口を開くと、シャルロットは二人に正面のソファーに座るように促した。

 

 

 

「まあまあ座って、あなた達も紅茶でいいかしら?」

 

 

 シャルロットは笑顔を崩さずそう言うと、二人の前に紅茶を二つ置いた。


 

 

「飲みながら聞いてくれるかしら?」

 

 

 シャルロットは二人が紅茶に口をつけると笑顔を崩さず口を開き、二人が頷いたのを見て話しを切り出した。

 

 

 

「あなた達二人を呼んだのはちょっとお願いがあるからなの、以前からこの学園で教官をしてくれないかと頼んでいる人がいるんだけど中々いい返事が貰えなくて困ってるの。

 

あなた達二人でその人の所に行って連れてきてほしいんだけど頼めるかしら?」

 

 

 シャルロットの言葉を聞いて、アリスとティアの二人は同時に首を傾げる。

 

 

学園長が要請して駄目な人を私達二人が行っても無理ではないだろうかと考えたからだ。

 

 

「あの……学園長、私達二人が行って意味があるんですか?」

 

 

 アリスは疑問に思った事を直ぐに質問すると、シャルロットは紅茶に口をつけて笑顔のまま口を開く。

 

 

「その人は若い人でね、あなた達一年生の担任をしてもらう予定なの。

だから、可愛らしいあなた達二人を見たらやる気を出すかなと思って」

 

 

 笑顔でとんでもない事を言い出したシャルロットにアリスとティアは何も言えなくなってしまった。

 

 

 

「お願い出来るかしら?」

 

 

 冗談かと思ったが、改めてお願いしてきたシャルロットを見て二人は顔を見合わせると頷いた。


     

 

  

 

 結局新任の先生を迎えに行く事になったアリスにティア。

 

 

その日の授業は受けなくていいと言われ、列車を乗り継ぎ学園長に指示された場所へと向かった。

 

 

着いた場所は田舎の街、人が少なく民家以外特に目立った建物が無い場所だった。

 

 

「随分と寂しい場所ね」

 

 

 周りを見渡しながらアリスがボソリと呟くと、隣のティアは学園長から貰った地図に目を通して遠くを見た。

 

 

「向こうの方角みたいだね……行こうアリス」

 

 

「うん」

 

 

 ティアの言葉に頷くと、二人は街外れの方角に向かって歩き出した。

 

 

ただでさえ少ない人通りなのに、学園長の書いてくれた地図の場所が近付く頃には全く人を見なくなっていた。

 

 

 

 少し薄気味悪い雰囲気が出てきた時、ポツンと一つ民家が建っているのが見えティアが指差した。

 

 

「あれだね」

 

 

「ちょっと薄気味悪いわね……」

 

 

民家の扉の前で立ち止まり、アリスは息を呑むと扉を軽くノックした。

 

しかし、返事はおろか人の気配もせずアリスとティアは顔を見合わせた。

 

 

 

「留守かな?」

 

 

「ゼロ先生!居ませんか!」

 

 

 ドアをノックしながらアリスが学園長から聞いた教官の名前を口にすると、中から音が聞こえゆっくりと扉が開いた。

 

 

「んだよ……誰だ?人が二日酔いで苦しんでんのに」

 

 

『……………』

 

 

 扉が開き、中から現れた男性を見てアリスとティアは言葉を失ってしまった。

 

 

身長180cm程の長身で耳より少し伸びた綺麗な白銀の髪、タバコをくわえてアリスとティアを見ると目を細めた。

 

 

澄んだ黒い瞳とダルそうにしているが美男子な男に見つめられ何も言えなくなってしまう二人。

 

 

 長い沈黙、それを崩すように男はくわえたタバコを吸うと煙を吐き出した。

 

 

「けほっ!ごほっ!……何するのよ!」

 

 

吐き出した煙はアリスの顔にヒットすると、アリスは咳き込みながら涙目で男を睨みつける。

 

 

 

「ああ…悪い悪い、で?何か用か?」

 

 

「あ、あの……私達シャルロット学園長から貴方を連れてくるように頼まれたんです。ゼロ=マグナスさんですよね?」

 

 

 悪いと言いながら全く悪びれていない男に怒り心頭のアリスにティアが割って入ると、男はあぁ…と思い出すように空を見た。

 

 

 

「なるほどな……確かに俺はゼロだが、やる気ないからお前ら早く帰れ」

 

 

「なっ!」

 

 

「あ、あのっ!」

 

 

 それだけ言って再び家の中に入ろうとしたゼロにティアは慌てて呼びかけた。

 

 

 

「何だ?」

 

 

「どうしても……無理ですか?」

 

 

「ああ、無理だ。帰りな」

 

 

「行こうティア、こんな最低な奴!」

 

 

 ティアの最後の呼びかけにもNOサインを出し、煙草の煙を顔面にかけられて怒っているアリスはティアの手をとり来た道を引き返し始める。

 

 

 

去って行く二人の後ろ姿をゼロは振り返り見つめると口を開く。

 

 

「おい、お前達名前は?」

 

 

 

「ティア=テスタロッサです」

 

 

「ティアは素直すぎるよ!名前なんて教える必要ないのに……アリス=クレメンティスよ!」

 

 

 素直に名前を口にしたティアにアリスが言うも、ティアはなだめるように教えよう?と言うと渋々アリスも名前を口にして歩き去った。

 


 アリスとティアが去り家の中に入ったゼロは酒を手に取り口に運ぶと、棚の上に飾ってあった写真立てを手に取った。

 

 

ただ無言で見つめる写真立てに移るのは凛々しい黒髪の男に優しく微笑む赤髪の女性、そして白銀の髪をした笑顔の少年の三人だった。

 

 

「     」

 

 

 ゼロは何かを呟くと黒いコートを羽織り、携帯を取り出し足早に家を出た。

 

 

 

 

 一方、ゼロに追い返されたアリスとティアは駅で列車を待っていた。

 

 

アリスはまだ怒りが収まっておらず、ティアはそれをなだめている。

 

 

「あり得ない!うちの学園は確かに変な教官が多いけど、あの人は絶対にない!」

 

 

「落ち着いてアリス、確かに言動は問題あったけど悪い人じゃなさそうだったでしょ?それに……」

 

 

 ティアはそこまで言うと一度言葉を切り、アリスも怒りを抑えてティアを見た。

 

 

 

「あんな人初めて見た、あんなに強そうな人」

 

 

「そ、それは私も思ったけど……」

 

 

 そうなのだ、一目見た時異様なまでの魔力をあの人から感じた。

 

 

もしかしたらうちの学園のどの教官よりも強いと思わせる程であった。 

 


「でも最低なのは間違いないの!」

 

 

 頭を振り叫ぶと列車が到着し、ティアと一緒に列車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 列車に乗り込み二人で席に座ると、列車は静かに走り出した。

 

 

「残念だったね」

 

 

「むしろ良かったわよ、あんなのが教官になったら大変よ」

 

 

 列車が走り始め、まだツンとしているアリスを見てティアが微笑むと同時だった。

 

 

 

「うわっ!何だお前達!」

 

 

「きゃああああ!」

 

 

突如列車が急停車すると、乗客達の悲鳴と同時に銃声が聞こえてきた。

 

 

「なにっ!?」

 

 

「アリス!あれっ!」

 

 

「お前等動くんじゃねえ!動いたらぶっ殺すぞ!」

 

 

 ティアが指差した方角を見ると、機関銃で武装した複数の男達が列車の中に入ってきた。

 

二人は椅子の陰に隠れ、アリスは白く輝く細い剣を抜くとティアも黒く輝く細い剣を抜いた。

 

 

 

 

 アリスとティアは息を呑み椅子の陰から隙を窺っていると、列車が動き始める。

 

 

「これで外からの助けは期待出来ないわね……」

 

 

「そうだね……私達で何とかしよう」

 

 

 アリスの言葉にティアは頷くと、手に持った剣の柄を握る力が強くなる。

 

 

「おらぁ!全員地面に伏せろ!下手な真似しやがったら殺すぞ!」

 

 

 列車テロの一人が銃口を客達に向けて威嚇しながらアリスとティアに近付いてくる。

 

 

アリスとティアは顔を見合わせると一呼吸置き、男が近付くのを見計らい同時に飛び出した。

 

 

「雷よ!」

 

 

「なっ!?」

 

 

 ティアが飛び出し叫ぶと、黒く輝く剣の先端高密度の雷が纏われる。

 

 

突如飛び出してきたティアに対応出来る訳もなく、男は雷の刃で切られるとその場に倒れ込んだ。

 

 

そして次々にテロリストを切り捨てるが、遠くにいた男がティアに銃口を向けた。

 

 

「このっ!」

 

 

「させないわよ!」

 

 

 銃口を向けた男に向かってアリスが剣を振り上げると、白い剣の先端に炎が纏われ男を切り捨てる。

 

 

これでテロリストは全て倒し、後は動けない様に縛るだけという時だった。

 

 

「てめえら!動くんじゃねえ!このガキがどうなってもいいのか!」

 

 

 全員倒したと思ったがまだテロリストは残っていた。

 

 

テロリストは女の子の頭に銃を押し付け、嫌らしい笑みを浮かべてアリスとティアを見た。

 

 

「あ……あうっ……」

 

 

「へへっ、まさか魔道具を持ってる奴が乗ってるとはな……おら!早く武器を捨てろ!」

 

 

 涙を流して震えている小さな女の子の頭に銃を突き付け、男はアリスとティアに剣を捨てるよう指示する。

 

 

アリスとティアは厳しい表情で顔を見合わせると一度頷き、剣を前に放り投げる。

 

 

それと同時に、残りのテロリストがアリスとティアを後ろから捕まえると顔を触った。

 

 

「へぇ……二人共むちゃくちゃ可愛いじゃん」

 

 

「どうしちゃうかな?」

 

 

「離して!触らないでよ!」

 

 

 嫌らしい笑みを浮かべている男にアリスが叫ぶも、男達には逆効果であった。

 

 

 

「おお、おお……威勢が良いね!これは可愛いがり甲斐があるぜ」

 

 

「アリス……んんっ!?」

 

 

「へへっ……こっちの子も上玉だぜ、さてと……どこから可愛いがってやるかな?」

 

 

 男がティアの顔を見て舌を出すと、ティアは目を見開いた。

 

 

 

「い、嫌っ!止めて……」

 

 

「ははっ!震えてるぜ……可愛いよな」

 

 

「こっちもやっちまうぜ?」

 

 

「ティア!!嫌っ!止めて!触らないで!」

 

 

 ティアに顔を近付ける男にアリスが叫ぶも、アリスの顔にも男が舌を這わせようと近付けてくるのを見てアリスは目に涙を溜めて叫んだ。

 

 

その時であった。走行する列車の屋根にガンッ!と巨大な音が響き渡った。

 

 

「なっ、何だ?」

 

 

 突如響き渡る音に男達は頭上を見上げると、目に涙を溜めていたアリスとティアも頭上を見た。

 

 

音は止むと直ぐにカンカンと列車の上を歩くような音が聞こえてくる。

 

 

「上に何かいやがる!撃て!ぶっ殺せ!」

 

 

 正体不明の何かが列車の上を歩いている事に動揺しているテロリスト達は一斉に銃弾を放つ。

 

 

当たっていないのか何かが歩く音は止む事がなく、列車の出入り口の前に人影が着地したのが見えた。

 

 

窓ガラスは曇っており誰かは分からないが、そのシルエットから人である事は間違いなかった。

 

 

「まだ誰かいやがったか……構わねえ!ぶち殺せ!」

 

 

「駄目!止めてっ!」

 

 

 アリスの叫びも虚しく、男達はありったけの銃弾を乱射させる。

 

 

銃弾は壁の突き抜け人陰に次々と直撃していく。

 

アリスとティアは目を逸らし、銃弾を撃ち切ったのか銃声が止むとゆっくりと目を開いて扉を見た。

 

 

 

「何だ?この列車は……随分うるせえな」

 

 

「あ、あんた!」

 

 

「ゼロさん……」

 

 

 何事もなく扉が開き入ってきたのゼロ、アリスとティアは信じられない表情でゼロを見た。

 

ゼロは煙草の煙を吐き出しアリスとティアに近付いてくると、二人の近くの席に腰掛けた。

 

何事もなく席に座ったゼロに何も言えなくなっているテロリスト達、それもその筈である……銃弾は確かに命中していたのだから。

 

 

列車の中に流れる異様な雰囲気、そんな事を全く気にしていないのかゼロは捕まえられているアリスとティアを見た。

 

 

「どうしたお前等、座らないのか?ああ……なるほど」

 

 

 全く状況を理解していない、興味がなかったのだろうかゼロはようやく納得したように声を漏らすとティアに小声で話しかける。

 

 

 

「おい、痴漢は黙ってたらつけあがるぞ?助けてやりたいがこういうのは自分で対処しなければ……」

 

 

「違うわよ馬鹿!テロよ!何でそうなるのよ!」

 

 

 見当違いな答えに対してアリスが怒鳴ると、その怒鳴り声でテロリスト達はハッと我に返る。

 

 

 

「て、てめえ!どうやってこの列車に……てかどうして生きてやがる!」

 

 

怯えるように銃口をゼロに向ける男、ゼロは銃を見ると辺りを見回してようやく理解したように頷いた。

 

 

 

「ああ……なるほどな、とりあえずその二人を離せ。これは返してやるから」

 

 

 ゼロは握った手を前に出して開くと、魔力を圧縮する事で出来た銃弾がバラバラと地面に転がり落ちては消滅してしまった。

 

 

 

「ひっ……」

 

 

「聞こえなかったか?早く離さないと手が無くなるぞ」

 

 

 そう言ったゼロの口元が怪しく緩むとアリスとティアを捕まえていた男は慌てて離れた。

 

 

 

「まあ座れ……俺の初授業だ」

 

 

「う、うん……」

 

 

「……はい」

 

 

 ゼロの言葉に二人は大人しく頷き、ゼロは正面の席に腰掛けた二人を見て微かに微笑むと周りのテロリスト達を見渡した。

 

 

「まず第一にこういう奴等を相手にする時は状況をよく見ろ。

人数は何人いるか?武装は何か?乗客は何人いるか?これが最低条件だ」

 

 

「テロリストの数と武装だけじゃ駄目なの?」

 

 

 アリスは辺りのテロリスト達の様子を気にしつつも、ゼロに質問する。

 

 

アリスが質問した事により我に返った男達は一斉に銃口をゼロに向ける。

 

 

更に先程人質にとっていた小さな女の子の頭に銃を突きつけたまま近付いてきた。

 

 

「どんな化け物か知らねえが……動くんじゃねえぞ!

ガキを死なせたくなかったら武装解除して地面に伏せろ!」

 

 

「知るのはテロリストの数と武装だけでは駄目か?だったな、こういうケースはな……予め乗客の中に仲間を入れておく事が多いんだ。

仲間が襲撃するタイミングを教えたりいざとなれば、この馬鹿みたいに人質をとって脅す為に」

 

 

 男達から銃を向けられても、人質の女の子を見せられても動じずにゼロはアリスの質問に応える。

 

 

「せ、先生……でもそんな事咄嗟に……それより女の子が」

 

 

 ティアが周りの状況を見て焦りつつ口を開くも、ゼロは淡々と話しを続ける。

 

 

 

「注意してみれば分かる、ここから斜め後ろの家族連れに男が一人混じってる。

 

こんな状況なのに小さな女の子は涙を流して両親に守られる事なく動かない、何故だ?答えは決まってる」

 

 

 そこまで言うとゼロは立ち上がると腰にかけたホルダーから銃を取り出すと二発の銃声が響き渡った。

 

 

 

「家族連れが子供を人質にとられて動くなと脅されてるからだ」

 

 

 一発は目の前の女の子を人質にとっていた男の額、もう一発は斜め後ろの男の額に命中して男二人は倒れ込んだ。


 

 鳴り響く銃声、テロリスト達は何が起きたか理解出来ていないであろう。

 

 

それ程ゼロの動作は流れるように早く、アリスとティアが何が起きたか理解出来たのは銃声だけすると光の弾が男の頭に命中して倒れる寸前であった。

 

 

「ほら親の所帰りな、一人で大丈夫だな?」

 

 

「う、うん……ありがとう!不良のお兄ちゃん!」

 

 

 倒れてピクリとも動かない男から解放された女の子にゼロが話しかけると、女の子は力強く頷くと両親の元に走り出した。

 

 

「不良は余計だ……ったく、最近のガキは」

 

 

「て、てめえ何しやがった!化け物があああ!」

 

 

 煙草の煙を吐き出しながら不満を口にしたゼロの背後から男が銃口を向ける。

 

 

「先生!」

 

 

「危ない!」

 

 

 ティアとアリスが同時に叫ぶと、ゼロはため息をつきふと姿が消えると肩を組み銀色に輝く銃口を頬に突き付けていた。

 

 

「まあ化け物ってのは間違いじゃないが失礼すぎんだろ……あと魔道具ぐらい作り出せるくらい魔力を上げてテロを起こせ、機関銃に魔力込めて発射するなんざ三流ですって言ってるようなもんだぞ」

 

 

ゼロは躊躇なく引き金を引くと、光の弾が顔

に直撃すると男はその場に倒れ込んだ。

 

 

倒れ込んだ男を見て、アリスはダルそうに煙草を吸っているゼロを恐る恐る見つめた。

  

「ねえ……死んでるの?その人達」

 

 

「はっ!襲われかけたのに優しいな、心配すんな魔力の弾ぶち込んで気絶させただけだからな……他の馬鹿共も同じだ」

 

 

 倒れ込んだ男を見て不安げな表情を浮かべるアリスにティア、そんな二人を見てゼロは鼻で笑い銃を構えるとあっという間にテロリスト達を殲滅してしまった。

 

 


「これで終わりっと……」

 

 

 気絶しているテロリスト達全員を魔術で構成された光のロープで縛り終え、ゼロは再びアリスとティアの前に腰を降ろした。

 

 

アリスとティアは安堵の表情を浮かべゼロは乗務員に飲み物を注文すると、直ぐに三人分の飲み物が運ばれてきた。

 

 

「それでも飲んでまずは落ち着け」

 

 

「何でここにいるのよ、さっき断ったくせに」

 

 

「初授業と言ってましたけど……先生になってくれるんですか?」

 

 

 運ばれてきたドリンクに手をつける事なく、同時に質問してくるアリスにティア。

 

 

ゼロはため息をつくと、自分の元に運ばれてきた酒の瓶を開けて一口飲んだ。

 

 

「いいからまずは飲み物飲んで落ち着け、アリスは強がってみせてもまだ震えてんだろ……ティアも表情には出さなくても震えてるぞ?質問の前に一度落ち着け」

 

 

 ゼロの言った事が図星だったのか、アリスとティアは顔を見合わせると素直に頷き飲み物を口に運ぶと気持ちを落ち着けるようにホッと一息ついた。

 

 

 少し落ち着いた様子の二人を見ると、ゼロは煙草に火をつけ静かに口を開く。

 

 

「まあ先程の質問だが、教官の要請を受ける

事にした。これからはゼロ先生と呼べよ」

 

 

「うぅ……昼間お酒飲んでる奴を先生って呼ばないと駄目なの?」

 

 

 飲み物を飲みながら目の前で勝ち誇ったかのような笑みを浮かべているゼロを恨めしそうに見つめるアリス。

 

 

そんなアリスとは対照的にティアはあまり表情を変える事なく淡々とゼロに話しかける。

 

 

「あの……先生」

 

 

「ほれ、お前もティアみたいに素直に先生と呼んでみろ」

 

 

「うぅ………」

 

 

 悔しそうにゼロを見つめるアリスだが、ティアは立ち上がると煙草を口から取り上げて消すとゴミ箱に捨ててしまった。

 

 

「あ………」

 

 

「列車内でお煙草は駄目です」

 

 

 いつもの調子を取り戻したらしく、ティアはそれだけ注意すると再びドリンクを口に運んでいた。

 

 

 列車を乗り継ぎ魔法都市へと帰り着いたアリスにティア。

 

そして出発する時はいなかったゼロも列車を降りると、直ぐに煙草に火をつけるとティアを見た。

 

 

「ったく、列車の乗客も吸っていいって言ってただろうが……真面目すぎるぞ」

 

 

「すいません、でもお煙草を吸わない人も沢山いますし……列車は基本的に禁煙なので」

 

 

「謝る必要ないのよティア、思考回路が壊れてるんだから」

 

 

 ゼロに軽く頭を下げて謝るティアを見て、アリスは煙草を吸って歩いているゼロの横顔をムッとした表情で見つめる。

 

 

 

アリスの視線に気付いているのかいないのか、ゼロはスタスタと学園に向かって歩き出す。

 


 それから三人で学園まで歩いて来ると、門の前に立っている人物を見てアリスの顔が少し明るくなる。

 

 

「どうかした?アリス」

 

 

「グラン教官ならあいつにガツンと言ってくれるわよ」

 

 

 アリスとティアの二人を待っていたらしく、校門前に立ちいつもの険しい表情で見つめているグランを見てアリスの表情が明るくなった。

 

 

「どうした?あのヤクザみたいな爺に何か光を見たか?」

 

 

「その軽口もそこまでよ!あの人はグラン教官と言ってこの学園で一番厳しい人なんだから」

 

 

 ゼロが軽口を叩くと、アリスはその態度もここまでだと言わんばかりにグランを見た。

 

 

しかしゼロは動じる事なくふーんとだけ言うとグランに近付いていく。

 

 

「グラン教官、アリス=クレメンティス只今戻りました」

 

 

「同じくティア=テスタロッサ戻りました」

 

 

「うむ、ご苦労じゃったな……」

 

 

 姿勢を正し報告するアリスとティアを見て、グランは厳しい表情で頷くとそこにゼロが割って入ってくる。

 

 

 

「よう久しぶりだなグウグウ、グラン教官なんて呼ばせてんのか?相変わらず堅物だな」

 

 

『………………』

 

 

 場に戦慄が走る。この学園で最も恐れられているグランにとんでもない事を言い出したゼロを見て、アリスとティアは息を呑んだ。


 

「あ、あんたね!何て事を!」

 

 

 アリスはゼロに向かって怒鳴ると、グランは額の血管をピクピクとさせながらゼロを睨みつける。

 

 

「お前らもグラン教官なんて苦しい言い方じゃなくて、グウグウ先生って言ってやれ。

この爺はツンデレだから顔は怒っていても内心喜びに溢れてんだよ」

 

 

「あ……ゼロ先生…」

 

 

 グランを指差しているゼロと拳を握りしめて震えているグランの両方を見て、ティアは恐る恐る止めようとするが遅かった。

 

 

ブチッとグランの血管が切れた音がすると、槍の先端の刃がゼロの顔に向かって突かれる。

 


しかしゼロはその一撃を顔を動かしただけでかわすと、続くグランの打ち込みを表情を変える事なくかわしてしまった。

 

 

「フンッ……腕は鈍っておらんようじゃの?」

 

 

「あんたもいい歳なのに元気だな……」

 

 

 攻撃を全て避けたゼロを見てグランはニヤリと笑うと手を振り槍を消した。

 

 

 

そんな二人のやり取りを見ていたアリスは

 

 

「あの……グラン教官?この人と知り合いなんですか?」

 

 

「儂の教え子じゃ……儂にこんな軽口叩くのは後にも先にもこいつだけじゃ」

 

 

 アリスの質問にグランはため息をついて応えると、ゼロはスタスタと学園に向かって歩き出した。

 

 

 

「シャルロットに会いに行ってくる」

 

 

「……二人共ご苦労じゃったな、学園長には儂から報告しておくからもう帰って良いぞ」

 

 

 学園内へと歩いて行くゼロの後ろ姿を見送ると、グランはアリスとティアに向き直るとそう告げた。

 


 グランからもう帰っていいと言われ、アリスとティアは顔を見合わせる。

 

 

「どうするアリス?何処か寄って行く?」

 

 

「ごめんティア、今日はお墓参りに行くから」

 

 

「あ……そっか、じゃあまた後で寮でね」

 

 

 アリスの言葉にティアは納得したように頷くと、手を振り別れて歩き出した。

 

 

アリスとティアが校門前で別れて行く様子を学園長室の窓際からシャルロットが眺めていた。

 

 

その様子を見て微笑むとシャルロットは笑顔のままソファーに腰掛けているゼロを見た。

 

 

「どうでした?可愛いでしょ、あの子がアリスですよ」

 

 

「その感想聞いてどうするつもりだ婆、それより俺を何で呼び出した?この学園には教官揃ってんだろ」

 

 

 ゼロは煙草の煙を吐き出すと面倒くさそうに足を組んだ。

 

 

そんな様子を見てシャルロットが次に発した言葉でゼロの瞳が鋭くなる。

 

 

 

「約束したんでしょ?今年入学してきたアリスにはあなたクラスの人物が付いていないと」

 

 

「……帝国や魔族にはアリスの事は知られていないのか?」

 

 

 鋭い視線を向けたままゼロが質問すると、シャルロットは首を縦に振る。 

 

 

「ええ、帝国にも魔族にもアリスの事は知られていませんよ」

 

 

「そうか……ならいい、俺はこの学園に住むからな?」

 

 

 それだけ言い残すとゼロは部屋を出て行ってしまい、一人部屋に残されたシャルロットは目を瞑り微笑んだ。

 

 

「ナグマ、エリシア、安心していいですよ。アリスはゼロがちゃんと守ってくれますから」

 

 シャルロットが口にした言葉にはどんな意味があるのか分からない、誰にも伝わる事なく消えていくのだった。

 

 

 もう日も傾きかけてきた街外れの丘の上、無数に十字架の墓が並んでいる。

 

 

そこには花を持って歩いて行くアリスの姿があった。

 

 

いくつもの墓を通り過ぎ、アリスは離れた場所に建てられた墓の前までやってきた。

 

 

 

「お父さん、お母さん、ただいま」

 

 

 にこりと笑うと花を墓に供えアリスは目を瞑り手を合わせた。

 

 

目を開くとアリスは自分が供えた花とは別に供えられていた花を見る。

 

 

「まただ……誰なんだろ?」

 

 

 毎年必ず供えられている花、お父さんとお母さんの知り合いだと思う。

 

 

一度会いたいと思って小さい頃ずっとここで待っていたけど、現れないからここで寝てしまった。

 

 

起きたら学園長室のソファーで、学園長が運んでくれたと言ってたが多分違う。

 

 

学園長はお婆ちゃんだから無理だと思う、意識は本当にぼんやりしてたけど誰かに抱っこして連れてきてもらった気がする。

 

 

 

「今年はもう会えないな……全部あいつのせいよ、聞いてよお父さんお母さん。

今日教官になる人を迎えに行ったんだけど、そいつが最悪で……」

 

 

 アリスは残念そうに供えられた花を見つめた後、しばらく墓に向かってゼロへの不満を話していた。


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