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歩きながら、俺達は話した。
なぜ俺があそこにいたか、仕事だったこと、万屋をやっていること…
「ヨロズ…ヤ、ですか?」
「そう、いわゆる何でも屋だよ。頼まれたら何でもやる。…まぁ俺も入社したばかりだしな。」
「なんか、すごいですね。」
「たいしたもんじゃない。」
「でもかっこいいじゃないですか?」
そうか?
と話す。
前園も最初に比べたら大分自然体になっていた。
ただフラフラと歩いているだけで時間は過ぎていた。空は茜色へかわり、そして藍色に変わっていく。
結局どこによるでもなく、前園の家の前まできていた。
「今日はたくさん話せてよかったです!」
前園は笑顔で言う。
「ああ、あと今日話したことは秘密にしてほしい。」
「…はい。」
確認した後、俺は歩きだす。
しかし、前園の声で立ち止まる。
「今日、ありがとうございました。心配してくれてたんですよね?私嬉しかったです。」
俺は…心配してたのか?自分でそんなことは気にしてなかったが、ああ、確かに心配だったのかもしれない。
「俺、万屋。だからなんかあったら、すぐに助けてやるよ。何からでも、どんな時でも―」
「―金次第で」
前園が笑っているような気がしたけど、気にしない。
俺はそのまま、夜子が待つ仕事場へ向かう。
◆
最初は、何が何だか分からないままだった。
ただ、手が真っ赤。
床も真っ赤。
目の前には真っ赤な肉片。
バラバラに千切れたら、それは綿でできた人形みたいだ。
ただ軽くちぎっただけなのに簡単にさけて壊れてしまう。
その壊すことが楽しくて楽しくてしょうがない。
薄く満足にその肉片を見下ろす。
思い出した。これが最初の殺人だ。
血のように紅い髪をした少女は、口を歪にゆがめる。
彼女は浅い記憶の中で、それを思い出す。
あそこから変わってしまったのか。
それとも変わることができたのか?
分からない。
1つ分かるのは、今は人を殺してしまうことだけが生きがい。唯一の生きる喜び。
だから、彼女は殺し屋になった。