8
「行くぞ」
「は、はいっ。」
学校が終わると俺はすぐに教室を前園とでる。
好奇の目も浴びせ浴びせられたが、無視する。
ほどなくして、俺達は街まで歩いていく。
学校は比較的、中心地の近くにあるから歩く距離も苦にはならない。
結局、教室をでてから終始無言。前園の緊張はいっこうにほどけないので、後ろをかちこちと歩く彼女に話しかけた。
ちょうど朝にあった場所。
「お前、迎えは平気なの?」
「あっ!はい。えと、お母さんには、寄り道をしていくと伝えあるから、平気です!」
寄り道を許す。ということは彼女は昨日のことは親にも話していないらしい。
「ふーん。……にしてもあんた見かけによらずタフだよな。今日はてっきり、学校にも来ないと思ったよ。」
返事はない。
しかし、これは素直な感想だ。
昨日、見知らぬ男らに陵辱されかけたばかりなのだ。その傷が1日やそこらで癒えるわけがない。
なのに前園は、その恐怖を親にも打ち明けない。心配させたくないと思うこともあるのだろうが、彼女はたしか、親が世界的一流企業の社長、言えば途端に前園の今のこの生活は崩れるだろう。
だから彼女は、恐怖を抱いてでも、今の自由を選んだんだ。
だから、何も表さず振る舞ってきた前園を俺は、素直に驚いていた。
「タフなんかじゃないです。」
彼女がゆっくり喋りだした。
「私、本当はこわいです。」
俺は立ち止まり、振り返る。前園は今にも泣きそうな、だが凛とした表情でこちらをみていた。
「でも、あの、南月君が助けてくれました!えと、だから、あの……
平気です。と顔を伏せていった。
ただ事務的に、こちらの仕事を漏れないように口止めだけする予定だったが、気が変わった。
俺は歩きだす。
彼女は動かない。
もう一度振り返り、俺は言った。
―色々話すよ。よかったらついてこい。
不器用にそれだけ。