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私、前園 雛にとって今日はとっても楽しい日でした。
理由はとてもささいなこと。他のひとに聞かれたらばかにされるようなことかもしれない。
何故なら私はただお友達と遊んだだけだからです。
本当にありふれたことだけど、家の厳しい私にとって、この外出はお父さんが許してくれた久しぶりの機会なので私は一番お気に入りの白いワンピースを着ていきました。
お友達と過ごせたその時間は本当に大切なものでした。
――知ってる。私はこの時幸福な気持ちだった。
お友達と別れた後、私は少し遅くなってしまった中を歩いて帰ることになりました。
夜の街は、忙しなくうごいています。
行き交う人達もとても急いでいる様に見えます。
私もそれに急かされように歩を早めました。
――知ってる。私はこの時胸騒ぎがしたんだ。
私はビルや色んな建物の下をあるいてきます。郊外にある私の家の方向はだんだん人通りが少なくなってきました。
男の人が後ろから何人かついてくる。ガラの悪いその人達は、白いワンピースを着て歩く私の後を嫌な笑いを浮かべながらついてきている。
でも、私はその光景を知らない。
だって見ていないから、
今後ろが分かるのは、きっと、ここは脚色した世界の中だからだ。
つじつまは合うように最後は同じ結末にたどりつくはず。
賑やかだった通りを抜け、私は少し寂しい道へ出ました。昼間は豊富なお店が並ぶここも今はシャッターが降りていて、とても心細いです。
――知ってる。けれど
けれど、後ろに人の気配があるのがわかったので私安心して、歩きました。
――知ってる。何も知らなかった私は、この時怖かったのは、お化けと幽霊だけ。
本当にそんなものしか、怖い対象をしらなかったバカだった私。
後ろからは、さっきよりも近い距離に、男の人達がいる。
相変わらずの嫌な笑み。
だけど、そこの私はまだそれを知らない。
私は、横断歩道で止まります。信号を待っていたら、向かい側に変わった人を見ました。
その人は、ジーンズに体にぴったりとあった白いTシャツをきています。女の人にしては飾り気のない服装でしたが、緋色のとても綺麗な髪をしていました。
外にはねる髪型もその人によくあっているような気がしました。
そして彼女は、とても、とても冷たい目をしていました。
思わず、目を奪われました。
信号が変わると、彼女はさっさと通り過ぎていきました。
――知ってる。私はその女性を覚えている。緋色の髪もそうだけど、あの氷のような瞳が焼き付いてはなれないから。
その通りもぬけると、私は大きな森林公園に入りました。
――知ってる。私はそこで振り返るのだ。
やっぱり、一人で歩いてると、寂しいです。
私は公園に入っても後ろから人の気配がするので、思わず振り返りました。
――知ってる。そこには恐い人たちがいた。
後ろには、若い男の人達がいました。
それを見た途端、私は急に不安になって、すぐに前を向き、せっせと歩きます。
気がついたら、私の中にあった幸福な気持ちはなんにも、なくなっていました。
――これはどっちだっただろう?
この私の中で幸福な気持ちが消えたのは、男の人達を見てからだろうか、けど、いまの私は思います。
私の中で幸福な気持ちが吸い取りきられてしまったのは、あの、震えてしまいそうな冷たい目をみてからだということを。
今、私は不安で不安で仕方ありません。
――知ってる。
このあと私は少しだけ悪夢をみる。この世界は私の思いどおりに脚色できるのに、私は最後まで結末を見守ることにした。
大丈夫。苦しいのは最初だけ。
最後はきっと嬉しくおわれるから。
私は急いで歩いていましたが、目の前に一人男の人が、ぬっと出てきました。
とても驚きましたが、私は私を押し殺して、進路をかえて歩きます。
けど、その方向も別の男の人に塞がれます。
嫌な笑いをしながら、私をみおろします。
私は急いで後ろへ走り出しますが、その方向には男の人達が数人いました。
走り出せず、私はそのばに立ち往生してしまいます。
もうパニックで、泣きたくて、何が何だかわかりません。
周りをみると高揚した感じの男の人達は私にどんどん近づいてきます。
「ねぇ、キミ。俺達と遊ぼ?」
一人が声をかけてきます。
「イ、イヤです。」
私は、かすれる声を絞り出し、その人の横を抜けようとします。
けれど、別の人がまた、邪魔をしてきます。
「そんなこといわずにさ?ね?」
嫌な笑いに囲まれて、気がついたら、私は人気のないところまで誘導されていました。
「ね?遊ぼっか」
そう言うと、私は地面に押し倒されました。
「イヤ!やめて!」
へへと男の人達は、私の声には耳も傾けず、両手を抑え、そしてお気に入りのワンピースをやぶってしまいます。
私はそれが
「本当の恐い」だと思いました。
――私は声もでなくて、たぶんあきらめて、この人達に汚されると思っていた。
そのとき
私の服を破く、男の人に誰かが、声をかけました。
涙でぼやけた視界でわたしは誰が現れたのかわかりません。
「おい。」
「アァ?」
「桐島 宗 だな」
そういって、誰かが私に覆い被さる人を、吹っ飛ばしてしまいました。
そうして私を助けてくれました、ゆっくり見えるようになった視覚のなかに、現れたのはクラスメートの、男の子でした。
――そこまで見ると、私の世界はぼやけていく。小さく、目覚ましのアラーム音が聞こえる。
私はどうやら夢から醒めなくちゃいけないみたいだ。
久しぶりに見た、遠いおもいでを観て、私は目をさました。