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なるべく静かに門番に立つスーツの男に目で挨拶し、ゆっくりと階段をあがる。
limeというホストクラブの上にある事務所はクラブのフロアを一つ貸し切ったかたちであり、革張りのソファもレトロな絨毯もほの暗い照明も、ドラマの探偵のそれとは程遠い。
少し重たいドアを開け、中に入る。
そんななかで、この事務所、もとい万屋の中心に腰掛ける女性が切鐘 夜子 だ。
俺は夜子の向かいに腰掛ける。
夜子はやわらかなブラウンの髪をすきあげながら、その白い足を組みなおす。
紅いドレスを着た彼女は、その彼女自身の美しさと合わさり、そこらの女のものとは比べられないくらいだった。
大人の女、とはまさにこの女みたいな奴だろう。
そしてそんな彼女のためのように、吸いかけのタバコと灰皿、後は血のような赤いワインが雰囲気にあったガラスの華奢なテーブルの上に置かれている。
「飲むか?」
紫煙をはきながら夜子が問う。
「未成年だからな。俺はいい。」
彼女は口だけで笑い、そうだったなとあいうつ。
「桐島、依頼通り二度と遊べないように体に刻み込んできた。」
一応そういう依頼だったので、報告はしておく。俺達は万屋。頼まれた依頼は何でも聞き請け負う。
今回も、暴行やオヤジ狩りに明け暮れるガキの一団のリーダーに恐怖を刻んだだけだ。
依頼主はたしか、犠牲になっていたオッサン
しかし夜子は引き受けた依頼に興味など微塵もない風に、そうか、とだけで終え、煙草をふかす。
会話も尽きたので
何気なく俺は夜子を自然と見みていた。
彼女の起伏の著しい体はみてるだけで、十分な暇つぶしだ。
動作動作が誘っているのかと思うほどの妖しい動きは、よほど興味がない奴でなければ、抑えられないだろう。
まぁ彼女に手を出しても、本当に殺されるだけだろうか。
夜子は俺のなぞるような視線も理解した上でほおっておくようだ。
要するにどうでもいいのだろう。
俺はどうやら機嫌が悪いらしい無口な彼女をおいて、席をたつことにした。
「帰るのか?」
どうでもよさそうに彼女は、微睡んだ視線でこちらを見る。
「ああ、浸ってるところ邪魔すんのは悪いからな。金は振り込みでいい。わすれんなよ、夜子。」
俺はそれだけ言うと、そのまま事務所をでた。