15
訳が分からない。
結局頑なに家の場所を言わなかったので、仕方なくタクシーから降りた。
そして公園に戻り、遊歩道の脇にあるベンチに座る。目立たないように、あえて蛍光灯のあたらない所も選んだ。30cmほど離して座った。
相変わらず、前園は俯いたままだ。
涙の跡がしっかり残った横顔はまだくらかった。
だからといって俺もずっと一緒にいるわけにはいかない。
夜子に報告もしないといけないのだ。
俺はもう一度だけ、前園に何故帰りたくないのか聞くことにした。
さっきは運転手に聴かれたくなかったかもしれない。それでも、もし言いたくないなら、その時は知るものか。
感情のこもらない声で言う。
「何で帰りたくない?」
草木を挟んで車の通り過ぎる音が聞こえた。
すぐそこは街なのに、騒音はそれぐらいしか聞こえない。
ゆっくり、唇が動く。
「秘密にしないといけないんです。」
一拍おいて前園がつづける。
「お父さん達にもしバレちゃったら、すごく心配かけちゃいます。それが怖くて。」
ああ、そういうことか。
だけど俺はそれを勧められない。
「いいのか、それ。結局あんた親に言えないってことは、自分で抱え込むってことだぜ?強姦まがいなことされて、その傷をさらけ出せる相手もいない。耐えられんの?お前。」
うろたえて何も言えなくなると思ったが、ハズレ。前園の返事はすぐにかえってきた。
「それでも、言いたくないです。」
しっかり、ハッキリ言いやがった。
つかめないヤツ。
俺はなんとなく前園の言い分を否定したくなった。だから否定する。
「できないね。」
「できます」
打てば響くような返事。
「無理。」
「分かんないじゃないですか!」
「どうだか」
「なんであなたにそんなこと決められなくちゃならないんですか!」
だんだんと大声で反論をしてくる。
俺は前園を見る。前園もこっちをみていた。勿論怒っている。だが口を真一文字に結び、目尻にまた涙をためている。
まるで子供の怒り方だ。
否定すんのもバカらしくなるくらいだ。ため息まじりに俺は言った。早すぎる根負け。
「分かったよ。」
「何がですか?」
反抗的に前園がかえす。
「バレたくないんだろ?じゃあバレないように帰してやる」
何言ってんだろ俺、面倒くさいのに。
前園はおずおずと
「い、いいんですか?」
と驚きの目をしていた。
つきあう俺もそうだけど、コイツ、ワガママなヤツ。思いながら俺は立ち上がる。
「それなら帰るだろ?疲れたから俺もさっさと帰りたいんだ。」
今度はちゃんと手を差し伸べた。
「はい!」
嬉しそうにしっかりと掴んでくる。
そうして前園も立ち上がった。
その後、顔を洗わせ、適当に前園が着ているものと似た服を購入し、彼女の家まで送った。
やはり、前園はお嬢様だったらしく豪華な家だった。金持ちってのが一目瞭然。俺はあえて玄関口近くまでおくり、心配して出てきた前園の親に姿をみせた。
これで遅れた口実もつくれる。男といたってのはあいつでなんとかするしかない。
それで、俺達は別れた。