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瞬花終答  作者: 銀色捺夜
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訳が分からない。

結局頑なに家の場所を言わなかったので、仕方なくタクシーから降りた。

そして公園に戻り、遊歩道の脇にあるベンチに座る。目立たないように、あえて蛍光灯のあたらない所も選んだ。30cmほど離して座った。

相変わらず、前園は俯いたままだ。

涙の跡がしっかり残った横顔はまだくらかった。

だからといって俺もずっと一緒にいるわけにはいかない。

夜子に報告もしないといけないのだ。

俺はもう一度だけ、前園に何故帰りたくないのか聞くことにした。

さっきは運転手に聴かれたくなかったかもしれない。それでも、もし言いたくないなら、その時は知るものか。

感情のこもらない声で言う。


「何で帰りたくない?」

草木を挟んで車の通り過ぎる音が聞こえた。

すぐそこは街なのに、騒音はそれぐらいしか聞こえない。

ゆっくり、唇が動く。


「秘密にしないといけないんです。」

一拍おいて前園がつづける。

「お父さん達にもしバレちゃったら、すごく心配かけちゃいます。それが怖くて。」


ああ、そういうことか。

だけど俺はそれを勧められない。


「いいのか、それ。結局あんた親に言えないってことは、自分で抱え込むってことだぜ?強姦まがいなことされて、その傷をさらけ出せる相手もいない。耐えられんの?お前。」


うろたえて何も言えなくなると思ったが、ハズレ。前園の返事はすぐにかえってきた。

「それでも、言いたくないです。」


しっかり、ハッキリ言いやがった。

つかめないヤツ。

俺はなんとなく前園の言い分を否定したくなった。だから否定する。


「できないね。」

「できます」

打てば響くような返事。

「無理。」

「分かんないじゃないですか!」

「どうだか」

「なんであなたにそんなこと決められなくちゃならないんですか!」


だんだんと大声で反論をしてくる。

俺は前園を見る。前園もこっちをみていた。勿論怒っている。だが口を真一文字に結び、目尻にまた涙をためている。

まるで子供の怒り方だ。

否定すんのもバカらしくなるくらいだ。ため息まじりに俺は言った。早すぎる根負け。


「分かったよ。」

「何がですか?」


反抗的に前園がかえす。

「バレたくないんだろ?じゃあバレないように帰してやる」


何言ってんだろ俺、面倒くさいのに。

前園はおずおずと

「い、いいんですか?」

と驚きの目をしていた。

つきあう俺もそうだけど、コイツ、ワガママなヤツ。思いながら俺は立ち上がる。


「それなら帰るだろ?疲れたから俺もさっさと帰りたいんだ。」

今度はちゃんと手を差し伸べた。

「はい!」

嬉しそうにしっかりと掴んでくる。

そうして前園も立ち上がった。



その後、顔を洗わせ、適当に前園が着ているものと似た服を購入し、彼女の家まで送った。

やはり、前園はお嬢様だったらしく豪華な家だった。金持ちってのが一目瞭然。俺はあえて玄関口近くまでおくり、心配して出てきた前園の親に姿をみせた。

これで遅れた口実もつくれる。男といたってのはあいつでなんとかするしかない。

それで、俺達は別れた。


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