13
単純な刺突、しかしその刃は南月めがけ迫る。
桐島は叫びながら、両手でしっかりと握り締め走る。
距離は1mあるかないか、タイミングは完璧だった。
銀の閃光が、南月をギリギリ数センチまで近付く。
南月はしっかりとそれを感じる。もはやコンマの世界、視覚よりも己の直感と自信に委ねた。
早く避けすぎれば軌道修正されアウト、遅すぎたら刺されて終わり。
恐怖はなかった。
そしてナイフが服を掠める寸前、南月は右に流れるように体を半身ひねり、肩がぶつかるくらいの距離でよけた。
正確には瞬発的な動きではコレが限界。後一歩分下がりたがったが文句は後でいい。
横切っていく桐島にさらに腕の反動を利用して体を半回転させ、後頭部に渾身の一撃を見舞う。
遠心力ののった一撃は意識を刈り取るには申し分なかった。
桐島はそのままだらしなく前のめり倒れ、俺は回転のバランスを崩ししりもちをついた。
額から汗がでる。無意識に、息もとまっていたようだ。
桐島は動かない。本当に、勝利を確信して土埃をはらいながら立ち上がる。
そしてまた忘れる前にさっさと歩きだす。
俺はもう転がる男には目をむけず、狭い茂みの中に入る。
ほどなくして、人の姿が見えてきた。あちらも気付いたようだ。不思議にも女は騒ぐようすなく俺を見ていたまるで何かを確認するみたいに。
その視線を無視して泣く女に近付く。
すると次第にハッキリとした輪郭がみえてきた。そして、誰かわかった。
「あ、」
何というか
「前園…雛…?」
偶然にも助けたのはクラスメートだった。