12
殺す覚悟。といっても今の桐島にあるのは突発的なもの。相手を殺害してその時に始めて正気にもどる、この場合は俺が死んだ場合。
南月はゆっくりと距離を空ける。
クソッ!自分の甘さに本当に呆れた。桐島は鼻を折っただけ、十二分に次反撃がくるのは予想しえたことだ。
徹底的にやらなかったのは、中途半端な同情と早くここから逃げ出したがる気持ち。
なんて、愚かな。
しかし、悔やんでも始まらない。
冷静になれ。ありったけの集中力をたたきつける。たかが5人に勝っただけで舞い上がる。そんな愚かな俺を消す。
培ってきた精神力は、不安定ながら、それを可能にする。
もちろんスイッチは切り替えていない。
桐島は汚く闘争本能丸出し、いつ突っ込んできてもおかしくない。
一応俺はただの人。殴られれば痛いし、刺されれば重傷もしくは死、身体能力で飛び抜けた部分はない。
あるのは、使えない力とそれを抑える為にある精神力。
さぁどうする。逃げるか?
相手はナイフ、こっちは鉄の棒。しかも相手は玉砕覚悟めいている。
例え、喉潰そうが、目を潰そうが、必ず俺に一撃いれてくるだろう。
となると、やはり逃げるのが妥当。
冗談。
俺は鼻で笑い、桐島にしっかり向き直る。
ここで逃げたら、この世界にはいった意味がない。俺が求めたのはこれなんだ。
体の神経という神経を張り詰める。
命を賭ける。
初めてのこと。
筋肉が強張る。
体を冷静に務める。
生き残る。
違う。
逃げろ。
違う。
―勝つ
心は決まった。
俺は重心を中心に預ける。
無論狙うはカウンター。
突っ込めば相打ち必至。なら後の先をとるのみ。
今は自分を信じる。
警棒のグリップを逆手に持ち替え、そして起爆剤を投げかけた。
「来いよ、クソガキ。ビビったか?」
それだけ。
それだけだが桐島は目を見開き、あるのは怒りだけ
「調子乗ってんじゃネェェェ!!!」
完全に冷静さを失わせ、予想通り桐島が走りだした。刃物の銀色を漂わせながらの俺しかみていない突撃は猛牛を彷彿させる。
2秒後には決着のつくそれを、気が遠くなる思いで待った。