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南月は持っている警棒を投げる。距離は5m、対角線で走っていた前方の男は反射で顔を庇う。
自然、得物は弾かれる。
だがそれが狙い、南月は姿勢を低く、視界がなくなり無防備な男に殺人的角度で懐に体当たりをする。
男は、声もでないまま後ろに滑り倒れる。
ラスト!
南月は素早く体勢を立て直し、最後に走ってきた男に向き直るが、
―ヒィィィィィ
男は腰がぬけたみたいに慌てて反対方向に走っていった。
その男が見えなくり、気がつけば、身体全身は鉛みたいに重く、疲労感でいっぱいになっていた。よっぽど、神経を集中させていたのだろう。
俺は警棒を拾い上げ、まだ倒れている男たちを背に帰途につく。
痛みに呻く、奴らの声を聞いても罪悪感はなかった。しかし、こんな大勢をまとめて相手にした自分を今更ながら後悔する。
そう、俺はただの人間。脳が多少発達している他は一般人の何ら変わった能力差はない。
だから下手をしたら簡単にやられて、今地面に倒れふしていたのは俺だったかもしれなかったんだ。
自分の無謀さに呆れて歩く。
淡い月の光と、いたわりをしらないような真っ白な蛍光灯が暗闇をほんのりと照らす。夏に向かい始めた肩から力がぬける。
全部終わったと思ったら、体のあちこちが急に重く感じた。
俺は警棒を拾い、そのまま帰途につく。
あ、忘れてた。
そうだこんな無茶したの理由があった。
俺は振り返って道をもどる
―ことは出来なかった。
前に立つものがいる。
鼻からの血で顎まで赤く、ボサボサになった金髪、桐島 宗が立っていた。
先ほど違うのは、片手にもたれたバタフライナイフ、そして気迫。
生命の危険がなかった仕事は、己の甘さで殺す覚悟を持つ者との命賭けのものになった。