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◆
静かにあとをおう。
桐島は白い服の少女をおって森林公園の中にはいっていく。
俺は腰にさしてあった警棒を抜き、後を追う。
南月は緊張と恐怖を表に出さず、ただ
「やる」ことだけを体に念じる。
自分の弱さを出さないためにする行為。
あえて自分を追い込み、そして耐え、乗り越える。
彼が課した自分への代償。
やめればたちまち彼は己に負け、やりたいがままに動く。ただ自分のため。ただ快楽のため。ただ
「やる」ため。
脳の海馬と前頭葉の異常発達。
思考能力、感情、精神力このコントロールの爆発的強化。
故に南月が
「勝つ」と言ったら必ず
「勝つ」まで何があろうとやめない不屈の精神。
故に南月が
「怒り」を感じようと思うならば
「怒り」を感じる超常的感情管理能力。
故に万人と同じ命題を問われたら、人々が一の答に達するあいだに瞬間的に百に達する、脅威的思考能力。
それが、彼の力であり、頼れないものだった。
頼れば、彼は依存することを知っている。やりたいことをやり好き勝手に生きることを理解している。
そして、万物に飽きた先を彼は知っている。
狂気に走ることを解っている。
だから、力を使わない。
だから、力を使おうとしないための精神力を求めている。
◆
――心がぐらりとゆれて、南月は歩む。
あまりに自然な足運びに誰も気付かない。
そして、南月は肩に手をかける。
――桐島 宗 だな
―アァ?
突然名を呼ばれ、少女を襲う男たちは振り向く。行為を邪魔されたことに苛ただしげに、少女は涙をつたう顔でぼんやりと見る。
そして、中心にいた男が桐島と確認した瞬間。
彼は警棒を握り直し、鼻っ先めがけて腕を振り切る。
突然の攻撃に反応ができるわけがなく、桐島は無防備に直撃し、あっというまに呻き転がりのたうつ。
仲間は、驚き、唖然。
南月は間髪いれず、右手にいる少女を押さえていた男の髪を掴み、引き寄せた反動で膝を押し込む。
鈍器で殴られたようになった男もそのばに倒れこみ、ショックと脳への衝撃でそのまま失神。
―テメェ!何しやがる!
追いついた思考でやっと残りが動きだす。
南月はスイッチを切り替えていない。故に、震え、しかし必死にそれを抑え、全力で目の前に取りかかる。
これで2人。…のこり、二人、か。
南月は軽く息をすい、後ろへ走る。
森林公園のかでも、とりわけ狭い茂みから、ひるまは子供たちが遊ぶ、中心の広場にでる。
興奮状態にある、残り3人は当然追いかける。
少女を残して。
南月は、走る速度を緩め、あえて先頭を追走して来るものに追いつかせる。
そして、十分距離が近づいたら南月は急激に止まり、警棒を腹にめりこませる。
―フォ…
男はそのまま倒れ悶絶。おそらくアバラが何本かいっただろう。
南月は少し乱れた息を整えながら、広場の中心で追いかけてくる者をみる。
大丈夫。できる。
南月はもう一度、心に刻む。
きっと、切り抜ける!
「さぁ、残り2人だ。」
息をだすついでに紡いだ言葉と同時に南月はもと来た道に向かい疾走を始める。残りの奴らとの距離は約15m。
50m走6.9sの普通過ぎる疾走が緊張と恐怖を抑えて、ゆれながら迷いなく走っていた。