戦いの幕開け
「また人間の男を誑かしたのか、白蛇」
レナさんはリリアさんを真っ直ぐに見つめながら、そう問うた。
「誑かすなんて……。 人聞きが悪いわ、レナ」
いかにも傷ついた様にそう言って、リリアさんは顔をしかめた。
「この男と私は、目的が一緒なの。 だから組むことにしただけよ」
「目的、とは?」
「それは勿論、この世界を滅ぼすことよ」
「――!?」
リリアさんの不気味な程に赤い唇が、そう言った瞬間。その場に突風が吹き荒れ、僕は思わず顔を手で覆った。
「それがお前の、答えなのだな」
静かにそう言ったレナさんは、自然な動作で不死鳥の力を解放した。その様子は……絶大だった。溢れだした“力”が、全身に紅い気を纏わせている様だった。手にしている不死鳥の剣が一度振るわれれば、一体どれほどの威力を発揮するのだろうか。見る者を畏怖させる、この世にあるはずの無い力……。
――これが、レナさんの、本気……!
「――あら。 もう話し合いは終わりなの?」
「話し合ったら、お前は考えを改めるのか」
「そ、れ、は、無いけど。 今回は続きがあるのよ続きが」
「続き、だと?」
「そうよ」
ちろりと舌を覗かせ、彼女は楽しそうに語った。
「ただ世界を破壊するだけじゃ、駄目って気づいたの。 再生の力を持つあなたがいる限り、この世界は何回でも元に戻ってしまう……。 だから私、決めたの。 まずはあなたをあなたの能力ごと、消してあげる」
「呆れた話だ。 覚醒した状態で、私がお前に後れを取るとでも言うのか」
「うふふ。 そのためにこの男がいるんじゃない」
リリアさんはそう言って、カムイの方を手で指し示した。
「ふ。 中々に人使いが荒いお方だ」
カムイはと言うと、リリアさんの声にフードの下から低い笑い声を漏らすと、僕達に向かって一歩前へ出た。
すっと灰色のフードを取る、カムイ。その露わになった顔に、僕達は皆息を飲んだ。カムイの髪の色は、何と――白色だったのだ。
「お前、まさか――!」
「そうさ。 俺は失われし白の国の民の血を引いている、この世で一番高貴な人間だ」
「――え……」
呆気に取られる僕達に、リリアさんは妖しく微笑んでこう言った。
「この男は、私以外の苦神の全てが気に入らないのよ。 私が用があるのは、レナだけ。 他の苦神は、この男が消してくれるの」
「……そんな、都合の良い話が……!」
怒りを隠し切れないオル君が一歩前に出ようとするが、レナさんはぱっと腕を広げてオル君を阻止した。
「……レナ!」
「私がやる。 下がっていろ」
レナさんはぴたりと剣の切っ先をリリアさんに向けると、再度問うた。
「これ以上、何か言い残すことはあるか」
「うふふ、もう我慢出来ないみたいね、短気なレナ」
「ああ」
そう言うとレナさんは、剣を掲げたままリリアさんに真っ直ぐに突っ込んで行った。
「――レナさん!」
ガッキンという、凄まじい音が辺りに響き渡った。いつの間に手にしたのか、リリアさんは真珠で出来た数珠を器用に盾にして、レナさんの剣を受け止めていた。
「うふふ。 レナとこうして戦うのはいつぶりかしら」
「前にお前を葬った時以来だ」
拮抗していた物同士が弾きあい、二人は後ろに飛んだ。すぐさま体勢を立て直し、二歩も踏みこんで行くレナさん。リリアさんはそれを正確に受け流しつつ、余裕の表情でレナさんを挑発していく。
「剣だけが取り柄のレナのくせに、この程度だったのかしら」
しかしレナさんは、リリアさんの言葉など気にも留めずにブリリアントの名を呼んだ。
「――ブリリアント!」
「は、はいただ今」
ブリリアントはさっと両手を組むと、レナさんとリリアさんを取り囲む様にドーム型の結界を貼った。
「あら、何のつもり?」
「余計な横槍は、邪魔だからな」
レナさんは、リリアさんの背後に見えるカムイを睨みながら言った。彼はまさしく、術を発動させてリリアさんを援護するつもりだったのだ。
「ちい、まあ良い」
カムイが術を発動させた瞬間、レナさんを狙うはずだった何十本物幻の矢――実態はちゃんとあるのだが――は僕達目掛けて飛んできた。僕は咄嗟に、水の壁を作り出してそれを防ぐことに成功した。
「……良くやった、イザム」
オル君はそう言いながら、僕と僕が作った水壁を飛び越えて前へと出た。
「――オル君!」
「……カムイは俺がやる。 ブリリアントを、守ってやれ」
そう言い残して、力を全開にしてカムイに向かって行くオル君。僕の目の前で繰り広げられる、二つの壮絶な戦い……。
――これが、求神同士の戦いなのでしょうか。 力が強すぎて、僕には援護をすることすら……。
レナさんとリリアさんの結界を貼っているブリリアントも、少し苦しそうだった。彼女達の発動する術が、結界に当たるたびに高い音を立ててはドーム全体が揺れているのだ。
「――くっ! これが、元祖求神様のお力なのですね。 私にはとても……っ」
言葉とは裏腹に、絶対破られない様にと必死で堪えているブリリアント。僕に出来ることは、万が一彼女に攻撃が飛んでこない様にと壁を作ることだけだった。
「ははは。 少しは強くなったじゃないか、オル」
「……黙れ」
「育ての親に対して、口の利き方がなってないな。 お前にはもう一度、一から教育する必要がありそうだ」
カムイが操るのは、木で出来た棍棒の様なものだった。彼はそれ一本で、オル君の攻撃を全ていなしていた。
――そうでした。 オル君の剣術は、元は言えばカムイが教えた物……。 動きを読まれているのは、当然のはずです!
でなければ、光のごとく速いオル君の動きが読みきれるはずもないのだ。
「……言っていろ」
オル君はそう言って、今までとは違う構えを取った。
「――!」
さっと身構えるカムイに向かって繰り出される、攻撃。それは先程よりも早く、先程よりも正確にカムイに向かって迫って行くのだった
「……求神の真骨頂は、幾年にも渡って積み重ねられた記憶。 俺の中には、何種類とお前を倒すための技がある」
「ほう、面白くなってきた」
ニヤリと歪む、カムイの顔。彼もまた、オル君に対抗するためにさらに動きを加速させるのだった。




