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不死鳥の乙女  作者: ren
傀儡の旅人
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もうすぐ

 僕達が襲撃を受けた日より、旅の様子はがらりと変わってしまった。行く先々、先々で暗殺者やら一般の方やらの罠が待ち受ける様になったのだ。


 どうやら彼らの間に、不死鳥の乙女にまつわる噂が出回っているらしいことはすぐに分かった。人々は皆、“不老不死の源”である不死鳥の乙女の血を狙って来ていたのだ。


「普段は赤の国の山奥に引き籠っている不死鳥が、どういうわけかこんなところをうろついてやがんだ! この機会、逃すわけにはいかんだろ!」


 僕達に捕えられた男は、己の欲のためだけに動いていたのだった。


 勿論僕達が彼らに負けることはないが、レナさんは不要な争いを好まず、出来るだけの衝突を避ける道を選んだ。そのため僕達は村に寄ることは勿論、ブリリアントの小屋で泊まることも出来ず、昼夜を問わず襲ってくる人々に注意する生活を強いられることとなったのだ。


「これも全部、リリアさんの罠なのでしょうか」


 レナさん、ブリリアントが睡眠を取っている間。オル君と共に見張りをしている僕は、暗闇に神経を張り巡らせながらオル君に話しかけた。


「……さあな」


 答えるオル君の声は、いつもと同じく落ち着いていた。普段から聴力が優れているオル君だったが、目を閉じ、集中力を高めることで常の五倍以上にもなっていた。恐らく、今の彼に捕えられない者はリリアさんを除いて他にないはずだ。

 それだけ考えると、見張りはオル君一人で充分と言うことになるが、僕にも一応役目はある。それは……。


「……イザムは、このことについてどう考えているんだ?」


 目を閉じ、遠くの音を探るオル君はそう問うてきた。僕が他の三人より秀でている物があるとすれば、それは分析力だ。どうせ眠れない、何もすることがなければ頭を動かそう。その考えから僕達は毎晩、色々な議論を交わしていたのだ。


 かなり偏った不死鳥伝説の噂が流れている件については散々考えた上、やはり人為的な物であるという結論が出た。普通噂話は、村を訪れる旅人によって伝えられていく。だから村によって時間差があり、どの村から出た話なのかある程度追うことが出来るのだ。しかし今回は、違った。どの村でも同時期に、突然不死鳥伝説が実しやかに囁かれる様になったのだ。では、誰が噂を流しているのか。


「犯人は……普通の人とは考えにくいですよね」


「……まあな」


「であるならば余計に、いくら村人を煽ったところで僕達を捕えられないことは分かっているはずです」


「……ああ」


「では何故、この様な回りくどい方法を取るのか。 それは――居場所を特定するためではないしょうか」


「……居場所?」


 どういう意味だと尋ねるオル君に、僕は自分自身の中で噛み砕く様に整理しながらゆっくりと答えた。


「僕達が正規の道を通っていた頃……僕達は必ずと言って良い程、誰かに見つかっていましたよね。 それはきっと、村人同士で僕達の情報が共有されていたからなんです。 村人達との接触を何とか避けられている今でさえ、村人達はまるで僕達の居場所が分かっているかの様に向かってきます。 それもきっと、情報が共有されているからこそ。 最初に噂を流すのは骨が折れたかもしれませんが、それだけでこれを仕掛けた犯人は僕達のことを簡単に見張ることが出来たというわけです」


「……それは、恐いな」


 薄らと眼を開け、オル君はそう呟いた。


「勿論、これはあくまで仮定の話ですが……」


「……イザムの仮定は、かなりの確率で当たることぐらいだろう」


「それは……ありがとうございます」


「……ふっ」


 再び目を伏せて小さく笑った後、オル君は真面目な顔になった。


「……それで、どうなんだ」


「――どう、とは?」


「……お前には次が見えているんだろう? この後、敵はどう出る」


「そうですね……。 恐らく、どこかで向こうから仕掛けてくると思います」


「……いつ」


「そこまでは分かりませんが……。 この先の緑の国最後の村を通過した後。 しばらく村が途切れます」


「……そこを狙われるのか」


「恐らくは」


 もうすぐ、だな。そう呟いたオル君は、ゆっくりと立ち上がった。


「……交代の時間だ」


「もうそんな時間でしたか」


 僕はずっと同じ姿勢をしていたために凝ってしまった肩を回し回し、オル君に続いた。木陰で身を隠す様に寝ていたレナさんとブリリアントは、既に起きていた。


「後は任せて下さいませ、お兄様方」


「……ああ」


「お願いします、レナさん、ブリリアント」


「しっかり休め」


 交代がてらに、先程導き出した結論をレナさんとブリリアントに伝えた。ブリリアントはハッと息を飲み、レナさんはそうか、と言っただけだった。


「例え襲撃の日にちが分かったとしても、今日とて村人がやって来ないわけではない。 気を抜くなよ」


「ええ」


 僕は短く頷くと、先に横になっていたオル君の隣に寝ころんだ。


 ――願わくば、朝まで眠れます様に……。


 そう祈りながら、僕は引き込まれるようにして眠りに落ちた。


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