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不死鳥の乙女  作者: ren
傀儡の旅人
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一歩

 その日は、結局誰もがほとんどしゃべらないままに歩き続けて夜を迎えた。今日ばかりはちゃんとした料理を作る気さえおこらず、僕達は焚火を囲んで各々携帯食糧を齧っていた。


 いつもは安心感を与えてくれる炎が、今日は別の意味を持っている様な気がして。僕は出来るだけそれを視界に入れない様に横を向きながら、ふっと気になったことを口にした。


「――白の国が亡びたのに、リリアさんはまだ……“求神”としての力を持っているんですね」


「――!」


「……!」


 ハッと顔を上げる、ブリリアントとオル君。


「考えてみれば、不思議な話しですわね」


「……ああ。 白蛇神は確かに、天に帰ったと聞いているが……」


 オル君はぐいっと水を飲むと、口を拭きつつ言葉を繋げた。


「……リリアと会ったのは――ミラとして会ったのを数に入れるならだが――は、白の国が亡びたあの時以来だ。 あの時より、俺達は幾度となく転生を繰り返しているが、リリアも同じように転生してきていたのか? それとも、今回が初めてなのか……」


 そもそもレナ自身があいつのことを“白蛇”だと断言していなければ、俄には信じられない話だったなとポツリと呟いたオル君。僕達はその言葉で一斉に、レナさんを見た。


「……」


 この場で唯一、口を開いていなかったレナさん。彼女は丁度空になった椀を地面に置き、膝に肘をついて前かがみの姿勢になると僕達をじっと見つめた。


「――っ」


 レナさんは目力だけで、僕達を試しているかの様だった。しかし――。


「お、教えて下さいませんか、レナさん」


 勇気を絞って出した僕の声に、レナさんは僕だけをその瞳で捕えた。僕にはレナさんの瞳孔が、開いて行くのすら感じられる様だった。


 ――深い瞳。 自我をしっかり持っていないと、引きずり込まれてしまいそうです……。


 だが僕は決して、目を逸らすわけにはいかなかった。与えられた機会は、一度だけ。永遠に続くのではないかと思う程の時を、僕は目に力を込めてじっと耐え続けた……。


 やがてレナさんは、すっと目の力を抜くと僕から目線を外した。


「長い話になる」


「――!」


 レナさんはそれだけ言うと、腰かけていた丸太から立ち上がった。


「話は明日以降だ。 今日は、とにかく早く寝ろ」


「……。 あ、ありがとうございます!」


 慌ててそう言った時には、レナさんはすでにブリリアントが建てた小屋の中に入って行くところだった。


「……良くやったな、イザム」


「さすがですわ、お兄様!」


「え、ええ」


 僕が無意識に擦っている腕は、完全に鳥肌が立っていた。


 ――初めてレナさんが、僕の言うことを聞いてくれました。


 まずは初めの一歩を、踏み出せたと思って良いのだろうか。


 微妙な達成感に浸っている僕の手から、ブリリアントが椀を取って行った。


「片づけて来ますわね」


「あ、ありがとうございます」


 はあーっと深く溜め息を吐き、僕はぐぐっと腕を伸ばした。レナさんの言う通り、今日は速く寝た方が良いのだろう。だが僕はもう少し、ここに座っていたい気分だった。


「……なあ」


「――え?」


 ボーっとしていた僕は、まだそこにオル君がいることにすら気づいておらず一瞬びくっとしながらそちらを振り返った。


「どうか、しましたか?」


 オル君の様子から、僕は彼が何か言いたくて待ってくれていたのだと感じた。


「……イザムは、レナを信じているのか」


「――っ!」


 ――信じるも何も……。


 僕はごくりと唾を飲み、自分の腕を見下ろしながら言った。


「レナさんは、レナさんですから」


「……そうか」


 オル君はまだ、何か言いたげだった。しかし言葉が出てこない様で、何回か口を開いては閉じた後……結局首を振って何も言わなかった。


「オル君、僕からも一つ聞いて良いですか」


「……何だ」


「僕の前世は、どんなだったのかと思いまして」


「……!」


 オル君はきょとんとした表情をした後、ふふっと笑った。


「……特に今と変わらないな」


「そう、ですか」


 ホッとする僕に、オル君はいきなりどうしたんだと聞いた。


「いえ、レナさんみたいにいきなり変わってしまうこともあるのかと思いまして」


「……。 転生するたびに会っているわけではないから、確かなことは言えないが。 恐らく、そんなに変わらないと思う。 現に俺は、変わってないだろう?」


「そういえばそうでしたね!」


 気付けよ、というオル君の突っ込みは笑ってかわした。僕の頭の中は、レナさんのことしか無かったのだ。


 ――転生しても普通は性格が変わらないのだとしたら。 レナさんは、やはり……。


 僕は考え込むあまり、オル君がこっちをじっと見ているのにはついぞ気付かなかったのだった。


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