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不死鳥の乙女  作者: ren
精霊の花嫁
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不死鳥の死

 ドクンドクン、こめかみの辺りで脈が波打っている。何か大変なことが起きているのには間違いないというのに、まるで現実感が伴わない……。私は茫然と、歪んだ笑みさえ浮かべるミラーーいや、リリアの口元を見ていた。


 忘れたくても忘れられない、その整った顔、細長い手足。記憶よりもさらに妖艶に、そして髪色が血の様に真っ赤になっていたが……。彼女は間違いなく、リリアその人だった。


「うふふ。 この姿ではお久しぶりと言った方が良いのかしら、レナ」


 ちろりと赤い舌を覗かせ、彼女は私を下から覗きこむ様にして見た。ハッとして私は、咄嗟に間合いを取って不死鳥の剣を構えた。


「うふふ、そんなに怖がらなくても良いじゃない」


「う、うるさい……!」


「あなたが村を飛び出して行っちゃうから、私、探すのに苦労したのよ」


「……何を……」


「レナに私以外にお友達が出来るなんて、妬いちゃうな。 レナはね、私だけを見ていて欲しいのに」


「――勝手なこと言わないで!」


 好き勝手言うリリアに、私はもう耐えられそうに無かった。剣を握る手により一層力を込めながら、私は彼女を睨んだ。


「……この火事も、リリアの仕業なんだね。 リリアは、つまり、その――」


「炎の悪魔、って言いたいのかしら」


 怒りで口元が震えている私に対し、リリアは余裕の表情でそう言った。


「どうして……?」


 どうしてリリアがそんなことをしたのか。どうしてリリアにそんなことができたのか。どうしてリリアがここにいるのか……。


 聞きたいことがありすぎて口ごもる私の気持ちを、彼女は正確に読み取って理路整然に説明していくのだった。


「そうね……。 強いて言うなら、全てあなたをおびき寄せるためかしら」


「……!」


 愕然とする私に、彼女はまた赤い舌を見せた。


「あなたが突然不死鳥の村から消えた後……。 私もすぐに村を出て、あなたを追った。 それはさっきも言ったけど、簡単じゃ無かったのよ」


 不死鳥の村から距離的にかなり離れた、水龍の村に忽然と現れた私。手がかり等当然なく、リリアはほとんど推測だけで行先を決めなければならなかったのだ。


「私が始めに行ったのは、黄の国。 そこでレナに関する情報を、集めようと思ったのよ。 売り買いが盛んなあの国では、どんな情報もお金で手に入れることが出来るから」


 コントロールの出来ない求神が行動する時、かならず他人の噂に上る様なことが起きる。リリアの予想は的中し、彼女は私とイザムが、黄の国に向かう途中で起こした事件のことを知った。


「レナが黄の国に向かっている……。 そう知った私は、すぐに緑の国へ向かったわ。 そうしてそこで、炎の悪魔として事件を起こした。 ――そうすればきっと、お人よしなあなたたちはのこのことやって来るもの」


「……! ……何で、私の事を黄の国で待たなかったの?」


 ――そうすれば少なくとも一カ月前には、私たちは顔を合わせていたはず……。私の当然の質問を、リリアは大人の事情よと言ってさらりと流してしまった。


「ともかく、私はこうしてレナに会うことが出来たの。 ね、私、頑張ったでしょ?」


「……許せない」


 私が精霊の村に入ってから感じた村人達の不安は、全て本物だった。それを作り出した張本人が、目の前で、反省の色もなく笑っている。それは私の中に、怒りの炎を灯すには十分すぎる程だった。


「許せなかったら、何だって言うの?」


 話している間にも、一段と怪しい雰囲気を増したリリアはそう言って私を笑った。


「……不死鳥の乙女として、あなたを斬る……!」


 そう言って私は、剣を完全にリリアに向けた。


「止めときなさいよ。 あなたに私を斬ることなんて、不可能よ」


 気怠そうに、そう言うリリア。


「不可能じゃ、無い……!」


 口ではそう言いつつも、私は身体の震えを完全には止めることが出来ずにいた。私が握っているのは紛れも無く、真剣なのだ。


「うふふ。 そうやってあなたは、弱いくせにいつも強がるんだから。 ……でも、そろそろ時間切れの様ね」


「……え?」


 リリアは剣に目もくれず、すたすたとこちらに近づいてきたのだ。私はその動きに、全くついて行けなかった。彼女が自分の剣の射程範囲に入っても、あまつさえ剣を握る私の両手を握っても、私はぴくりとも動けなかったのだ。


 ――か、身体が……動かない……。


 かろうじて動かせる目で周囲を見渡すと、部屋にはすでに白い煙が充満していた。


 ――しまった! 話に夢中になって、いつの間にか……。


「もう遅いわ、レナ」


 リリアはそう言って、私の顎を掴んで無理やり目と目を合わせた。


「“力”があるのは、私も同じなの。 ……どんな力か、レナに分かる? ――分かる訳無いか。 うふふ、せっかくだし、教えてあげるね」


 そう言って彼女は、私の顎にかけた指に力を込めた。


 すると……。


「……な……ど……」


ただでさえ動かない私の身体から、力が抜けた。


「私の力は、他人の能力を吸収することなの。 レナの力も村にいるとき、ミラとして過ごしている時、散々吸収させて貰ったわ。 ――ふふ、気づかなかったでしょ? 勿論精霊の花嫁の力もこうして吸い取って、“ただの人間”に戻してあげたのよ」


「……」


 私は最早言い返す気力も無く、リリアにされるがままになっていた。どうやら彼女は、私の力を全て吸い取ってしまう気らしい。


「吸収した力は勿論、自分の物として使うことが出来る……。 これがどういうことか、分かる?」


「……」


 聞きたくない、私はそう思った。しかしリリアは、話すのをやめてなどくれなかった。


「――炎の悪魔の力は、“あなたの力そのものなのよ。 不死鳥の力が、この村を、精霊の花嫁を燃やしているのよ」


「……」


 口が聞けたなら、私は絶叫していたかもしれない。手足が動いたなら、そんなことを言うリリアに掴みかかっていたかもしれない。


しかし私はただ、彼女を睨み涙を流すことしか出来なかった。そしてついに……意識が、急速に遠のいていくのを感じた。


「さようなら、レナ。 普通の人間として、安らかに眠りなさい」


 耳元でリリアが囁いた言葉を聞いたのを最期に、私の意識は完全に消えた――。


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