理想の少女
「――で、オルは?」
「その……実は色々ありまして」
ここはピアの家。普段はオルが座っているその場所で、イザムは行儀よく足を揃えて座っていた。オルが今は屋敷で安静にしていることを告げるイザムに、ラリーとピアは呆れた様に言った。
「何だ、オルまで倒れたのか」
「“求神”ってのは、どいつもこいつも鍛え方が足らないんじゃないかい?」
歯に衣着せぬ言い方に苦笑いしつつ、イザムは本題を切り出した。
「それでですね。 僕が今日伺ったのは――」
「燃えた家を見に行くんだろ」
「え、ええ」
イザムが頷いた時、二人はすでに玄関に向かって歩き出していた。
「ぼやぼやしてないで行くぞ、イザム」
「善は急げだよ」
「は、はい――!」
せっかちな二人に連れられ、イザムはミラの家があった場所を訪れていた。
「……」
「……」
「……」
自然と口数が少なくなる、イザム達一行。目の前にあるのは、焦げた木材のみ。最近はめっきり寂れていた精霊の村においても、ここは特別だった。
「一度訪れた時よりも、なんだか……」
尻すぼみになるイザムの声に、ラリーもピアも小さく頷いた。
「あんたらのお蔭で、村は元に戻りかけてるから余計にね」
「誰だって、不幸があった場所には近づきたくないだろ。 ……まだ傷は、癒えちゃいねえんだ」
そう言ってラリーは、早々にその場から足を踏み出した。
「さっさと行こうぜ。 こんなとこにいつまでもいるのは、気が滅入る……」
「そうですね……」
ラリーに連れられて、五分程も歩いただろうか。そこにあったのは、比較的小さな家の集まりだった。
「ミラさんの家は、ここから少し離れたところにあったんですね」
「みたいだな」
さてどこから声を掛けようかと考えていると、向こうからわらわら住民が出て来た。
「あんた、求神だろ?」
「俺達にも力を使ってくれよ」
「え、ええ。 勿論です……」
少々気圧されながらも、イザムは彼らに癒しの力を使った。しかし彼らは、お礼を言うどころかこんなことを言うのだった。
「ふん、こんなもんか」
「大したことないんだな、求神って」
そう言って、興味を失ったかの様に各々の家に戻ろうとする住民をピアが慌てて止めた。
「ちょっと待ちなよ! そりゃないだろ、あんたら」
「何だ。 招いてもいない奴を、もてなす必要なんざあるのかい?」
住民たちの中でも特に柄の悪そうな、大柄の男がピアを見下ろす様にそう言った。
「イザムはお前らの要求通り、力を使ったんだ。 話ぐらいは聞いて貰おうか」
さっとピアの前に出て、背に隠す様にしてラリーは堂々とそう言った。大男と、頭一つ小さいラリーはばちばちと火花を散らしていた……が。
「……何の用だ」
大男は唸るように、そう言った。イザムは少しホッとしつつ、要件を切り出した。
「ミラさんのお知り合いを探しているんです。 彼女が元気でいることを知らせたくて」
「……!」
イザムの言葉に、住民たちに明らかな表情の変化が出た。皆どこか懐かしい目をしながら、口々にミラのことを語るのだった。
「ミラか……。 ここらへんの誰よりもお転婆で、よく擦り傷を作ってたな」
「なんというか、凄い馬鹿なところが良かったよな。 いや懐かしい」
「ほとんで家から出ることがなかったからよくしらねえけど、少しぽっちゃりしててかわいらしかったなあ」
イザムはそんな住民たちを見て、思わずこう呟いた。
「……なんでしょう、この違和感」
「俺たちはそのミラってやつのことよく知らないが……。 実際はどんなやつなんだ?」
「……色白で細くて、凄く聡明な方だと思っていました」
「――はい? 全然違うと思うんだけど」
「……そうなんです。 この感じ……まさか……」
そう言ったきり、イザムは目を閉じて黙り込んでしまった。隣に立っているラリーとピアは、お前もかというようにため息をついた。
一方イザムは、そんな二人にも気づかず、まるで内なる水龍に語りかけるかのようにじっと考え込んでいた。
『皆さんミラのことを考えているはずなのに、それぞれ全く違った”ミラ”という少女を思い描いています。 共通するのは……皆さん、ミラという少女が好きだということだけ。 それもいなくなった少女のことを悪く言わないのは理解出来るとしても、少し不自然なぐらい。 まるで……ミラが、自分の理想の少女であるかの様に。 ……理想? そうか、そういうことだったんですね!』
イザムはハッと目を開き、未だミラの思い出を語っている住民たちを見た。
「――見えました!」
「……は?」
「……何が?」
突然覚醒したイザムに、ラリーとピアは呆気にとられた。しかしイザムは、説明している時間さえ惜しいというように懐から武器を取り出して言った。
「これは必ず、この哀しい事件の手がかりとなるものなんです!!」




