いつかの遠い過去
人里離れた、深い深い森の中――。生い茂った木々に隠される様にして、一組の旅人達が焚火を囲んでいた。上座に座るのは、赤い髪の女。彼女は焚火に顔を近づける様に前かがみに、無表情に座っていた。
「……不死鳥様、今、なんと……?」
震えるような声でそう言ったのは、焚火を挟んで彼女の向かいに座る青い髪の男だった。彼は彼女とは対照的に、驚きと不安、恐怖を隠し切れない表情をしていた。
「何度も同じことを言わせるな。 白蛇を止めるには、これしか道が無いことはお前にも分かっているはずだ」
「しかし――」
「……諦めろ、水龍」
不死鳥に食って掛かろうとする水龍を押しとどめたのは、二人から少し離れたところで一人佇む黄色の髪の男だった。
「麒麟様も、不死鳥様に賛成されると言うのですか!?」
「……賛成するも何も、俺達が反対したところで不死鳥は意志を曲げるような女ではない」
「それは……」
ぐっと唇を噛みしめる水龍に、不死鳥は燃え盛る炎をじっと見つめ言った。
「これは我々の、前世より受け継がれた定めなのだ。 人が人であろうとする限り、ある程度の犠牲が生まれるのは必須。 我々は人々の全ての苦しみを背負う為に生まれた存在――”苦神“なのだ」
「……だからと言って、不死鳥様が犠牲になられるなど納得出来ません! きっと他にも、まだ方法が――」
「黙れ水龍! ……もう時間が無いのだ。 お前にその気が無いのなら、共に来る必要は無い。 ここで袂を分かとう」
「……不死鳥!」
彼女の発言には流石の麒麟も、慌てて焚火の元へと歩み寄った。
「……落ち着け、不死鳥。 今ここで俺達が仲間割れをしてどうする!」
「私は冷静そのものだ。 ――実際、お前達の力などあって無い様な物。 私が全てだということを、理解していないとは言わせない」
「……」
「……」
不死鳥の尊大な言葉に、水龍と麒麟は何も言い返さなかった。否、正しくは言い返せなかった。何故なら彼女の言葉は、真実そのものだったからだ。
「――予定通り、明朝より“儀式”を始める。 来るか来ないかはお前達の自由。 どのみち、我々は誰も生き残ることは出来ないのだ……。 最期の時を“苦神”として過ごすのか、災厄に怯える民として過ごすのか。 勝手にしろ」
不死鳥はそう言い捨てると、それ以上は一言も発さなかった。だが彼女の纏う雰囲気は、圧倒的な支配力を持って彼らを縛り上げていた。
――不死鳥様……。
水龍は、自分が彼女に逆らえないことをとっくの昔に悟っていた。だからこそ生き急ぐ彼女の為に、隠しもせず涙を流した。
――僕達には、人々の命を背負う使命がある。 そのために生まれながらにして、尋常ならざる力を与えられたのも事実……。 ですがそれを踏まえても、この結果は余りに酷過ぎるのでは無いでしょうか。 僕達はまるで……。
「まるで――」
「……水龍。 その先は言うな」
「――麒麟様……!」
彼がはっと視線を横にそらすと、隣には麒麟が座っていた。彼は深く俯いていたため表情こそ見えなかったが、膝に置いた両手は震えていた。
「……俺達は絶対の存在だ。 疑問等、抱くはずが無いんだ」
「……」
「……そういうことは、生まれ変わってからゆっくり考えよう。 それだけの力を俺達は持っているはずだ」
「……ええ。 麒麟様の、言う通りでした」
饒舌に語る麒麟と、言葉少なく答える水龍。彼らもまた、これがこの時代で友と過ごす夜であることに変わりは無いのだ。どうせなら答えの無い闇に囚われるより、これから訪れるはずの明るい未来に胸を膨らませていたかった。
「……直に夜明けだ」
「新しい時代に、乾杯を――」




