花嫁の復活
「イザム兄様、オル兄様……」
その日の朝、ブリリアントはお供の人々を前にぎゅっと手を合わせていた。
「……何だ、緊張しているのか」
「久しぶりですものね、ブリリアント」
彼女の側には、すっぽりとマントに身を包んだイザムとオルがいた。
「……自分の村に行くのに何を緊張する」
「そうは言いましても……。 今まで無責任にも、“精霊の花嫁”としての役目は果たしていなかったわけですから」
俯きがちに言うブリリアントに、イザムはいつも通りの笑顔で言う。
「大丈夫ですよ、ブリリアント。 僕も緊張はしていますが、楽しみでもありますから」
「……何だ、イザムも緊張しているのか」
「そういうオル君だって、いつもより口数が多いですよ」
「……」
図星をさされて黙り込むオルに、ブリリアントはくすりと笑みをこぼした。
「――さて。 “花嫁”様の心の準備が整ったところで、そろそろ行きますか」
イザムはそう言って、フードをすっぽりと頭に被った。
「……ああ」
続いてオルも同じ動作をした。これで二人は、髪色どころか男か女かさえ分からない謎の人物と化した。
ブリリアントは今一度深呼吸をし、目を閉じた。
「……。 ――行きましょう、イザム兄様、オル兄様!」
目を開けた“精霊の花嫁”は、可憐に力強く宣言し、屋敷の扉を大きく開け放ったのだった。
精霊の花嫁一行は屋敷を出た後、真っ直ぐに村の広場を目指した。行く行く先、人々は勿論口々にこう叫んだ。
「――精霊の花嫁様だ!!」
花嫁の姿を見た村の人々は、ぞろぞろと行列に加わった。小さな村では噂が駆け巡るのは早く、目的地に着く頃には村のほとんどがいるのでは無いかと思われる程の人がその場所に押し掛けていた。
「……本当に花嫁様だ」
「ほら、やっぱりお元気だったんだよ!」
「でも、じゃあ何で今まで出て来られなかったんだ?」
「それは花嫁様に直接聞けば良いじゃないか」
ざわつく村人の声を拾いつつ、ブリリアントはすっと息を吸った。
「――皆様。 お久しぶりですわ、“精霊の花嫁”ことブリリアントです」
凛と響く、鈴を転がす様な花嫁の声。人々は少しでもその声を良く聞こうと一同沈黙した。
「まずはしばらくの間、皆様の前にたつことが出来ずにいたことを謝罪致しますわ。 私が屋敷にいる間……皆様が私のことを心配して下さっていたのは、勿論存じておりました。 私はこの通り、元気です。 元気で、皆様の元に戻って参りました」
自分は元気だ、と宣言する花嫁に人々の表情が一段階明るくなり、ざわめきが広がった。花嫁はそのざわめきが落ち着くまで待ち、再び口を開いた。
「今日私がここに来たのは、皆様に私の大切な方々をご紹介しようと思ったからですわ」
ざわつこうとする人々を制する様に片手をあげた花嫁は、自分のすぐ後方にいた二人のマントの人物を振り返った。
「――皆様、こちらは水龍の遣いことイザム兄様、麒麟の申し子ことオル兄様です」
花嫁に紹介された二人は、ぱっとマントを脱いだ。青色と黄色の髪が、人々の目に晒された。
「……あいつは……!」
「ラリー、あいつら、あの時のやつらだぜ!」
「ああ。 あれ以来ずっと屋敷に住んでたんだぜ」
「ええっ。 何か知ってるのかよ!?」
「あんたら、黙って花嫁様の話を聞きな!」
ピアはラリー達が騒ぐのを一蹴しつつ、今や遠目にしか見えないオルに心の中でエールを送った。
「お二人は遠い国より、私たちに救いの手を差し出すためにいらしたのです。 さあ皆様、お兄様方のお力をご覧になって下さいませ」
花嫁はそう言って、自ら主役の場を異国の二人へと譲った。
「……立派な花嫁だ」
「ええ。 ここからは僕達に、お任せ下さい」
一歩前へ踏み出す、水龍の遣いと麒麟の申し子。二人はそれぞれの武器を見せつける様に天へとかざした。
「――癒せ、水龍の舞!」
「――育て、麒麟の舞!」
力強い声と共に、二人を中心として半透明のドームが広がった。それは人々を包み、広場を包み、村全体を包んだ。
「……こ、これは!?」
「なんだ、この感覚……」
驚く人々だったが、彼らがそのドームが及ぼす効果に気付くのにそう長くは掛からなかった。
「――植物が一斉に、元気になっていくぞ!」
「――植物だけじゃない。 俺達も、なんだか力が湧いてきて……!」
「これはまさに!」
「花嫁様の力と一緒だ!!」
水龍の遣いと麒麟の申し子が同時に張ったのは、癒しの力を目に見える形にまで出力したものだった。そのドームの中にいる物は皆、文字通り癒されていく。
人々がその恩恵を十分に受けていった後、ドームは静かに消え後に残ったのは歓喜に沸く声だけだった。
「――水龍様―!!」
「――麒麟様―!!」
「うふふ。 物凄い人気ですわね」
「……まだ五分も持たないな」
「力の質も、まだまだ改善の余地があります」
二人はそう言いつつ、一先ずは成功を収めたことに満足顔だった。
「……ブリリアント」
「そろそろ……」
「ええ。 ギーヤ、戻りましょう」
「はい、花嫁様。 皆、撤収だ」
大臣の指揮で、屋敷からついて来た者たちは一斉に予定通りの動きを始めた。それは力を使い果たした二人を、速やかに屋敷まで連れて帰るために必須だったのだ。
「次は、レナさんも一緒に……」
「……そうだな」
ほとんど周りの人に支えられながら歩いているのを悟られない様にしながら、二人はここにはいないもう一人に思いをはせていた。




