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不死鳥の乙女  作者: ren
精霊の花嫁
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孤独

 今日はブリリアントが決めた、週一のミラの外出日。一人で暇をしていた私は、たまには外に出ようと部屋の外に出た。すると偶然、隣の部屋のドアが開いてイザムが出て来た。


「あ、イザムだ」


「レナさん、丁度良かった」


 イクスパイを片手に微笑むイザムは、私を闘技場へと誘った。


「久しぶりに稽古をつけて下さいよ」


「良いよ」


 断る理由も無く、私は不死鳥の剣を取りに戻ると早速闘技場へと向かった。天気は快晴。まさに修業日和だ。


 外に出るのも久しぶりならば、剣を握るのも久しぶりな私は少し緊張気味にその場所に立った。


 ――集中しなきゃ、集中。


 いつもの様に、剣と自分の波長が同じになるまで目を閉じてから私はやっとイザムと対面した。


「それでは始めましょうか」


「うん、行くよ!」


 私は気合十分、先手必勝とばかりにこちらから仕掛けに行った。


「――はあっ!」


 しかしその攻撃は、虚しく空を切った。


 ――あれっ。


 私は余りの手応えの無さに違和感を感じつつ、攻撃を重ねていく。しかしそのどれもが、彼を捕えることは無かった。


 ――この感覚、私知ってる……!


 忘れるはずも無い。この風に舞う木の葉の様に、捕え難い動き。これはまさに――。


「どうです、レナさん。 ブリリアント直伝の足技です」


 一旦間合いを取った私に、イザムが涼しげな笑顔で話しかけてきた。


「凄い……」


 わずか二週間程で、ここまで動きが洗練された者になるとは。勿論ブリリアントの教え方が良かったのかもしれないが、イザム自身の眠っていた能力が開花したに違いない。


 知らず知らず私は、冷や汗をかいていた。これまでイザムは、戦闘においては一方的に守られる立場だった。それが、ここまで良い動きをされると……。


「……おーい」


 茫然としている私は、屋敷の方――正確に言うと自室の窓からこっちに向かって呼びかけているオルに気付いた。 


「……おーい、二人共―」


「オルってあんな大きい声だせるんだ」


「ああしていると、年相応な感じがしますね」


 のほほんと会話する私たちに、オルは一声こう叫んで窓を閉めた。


「……見せたいものがある。 すぐに来てくれ」


「見せたいもの……?」


「とりあえず行ってみますか、レナさん」






 なんだなんだとオルの部屋を訪れた私たちは、ドアを開けた瞬間ぎょっとして立ち尽くした。


「な、なによこれ!?」


「なんですかこれは!?」


 元は私と同じ、カントリー調の部屋だったはずのそこは今や、ジャングルの様に鬱蒼と木々が茂っていた。


「……少しばかりやり過ぎた」


 まあ成功は成功だとしれっと言いながら、木々の間を掻き分けてやってきたのは勿論オルだった。


「え、これってオルがやったの!? どういう――」


「オル兄様、どうされましたの? 何やらとてつもない力を感じましたの――ってこれは一体!?」


 私がオルを問いただそうとしたとき、後ろから軽い足音とともにブリリアントがやって来た。彼女は部屋の惨状を見て絶句し――その場に固まった。


「……すまんブリリアント、上手く力を調整出来なくて――」


「こ、これはオル兄様がおやりになったのですか!?」


「……ああ」


 目を逸らしつつ言うオルに、ブリリアントは涙目で言った。


「素晴らしいですわ、オル兄様」


 ――どういうこと?


 状況がいまいち分かっていない私に、突然現れた植物をじっと観察していたイザムが言った。


「レナさん、見て下さい。 この植物はどれも、この部屋の床や壁から生えて来てるんですよ」


「それが何……?」


 確かにイザムの言う通りだったが、私は余計に混乱するばかりでさっぱり分からなかった。


「オル兄様は、植物の活性化に成功されたのですわ」


「活性化って……。 この前イザムが言ってた、ブリリアントの力を再現するってやつだよね」


「ええ。 レナさん、ブリリアントがこの屋敷は全てエント様が姿を変えた物だと言っていたのは覚えてらっしゃいますよね」


「う、うん」


「つまりこの床も壁も、エント様そのものなのです」


「――!!」


 今さらながらその事実に驚愕している私に、オルが止めを刺した。


「……俺はどうにかして、植物を再生させる力を手に入れた。 その力を部屋で試したところ……一番生命力のあるエントが、この様に元気になったというわけだ」


 ――いやいや、元気になったって言ったって、これ、なりすぎ……。 てか、どうにかの部分をもっと詳しく……。


 最早突っ込む気力も無い私だったが、イザムやブリリアントはオルに賞賛のまなざしを浮かべていた。


「凄いですよオル君!」


「力の制御の仕方は、私がお教えしますわ」


「……頼む。 これでやっと、堂々と村に出れる様になるな」


「――!」


 はっとした表情で口に手をやるブリリアント。その目から、真珠の様な涙が零れ落ちていた。


「オル兄様、イザム兄様……」


 そんな彼女の肩に手を置き、イザムは優しく微笑んだ。


 ――オルもこんな凄い能力を手に入れて……。


 知らず知らず、私は一歩二歩とその場から後ずさりしていた。決してこれが初めてではないが、自分が非常に小さな存在に思えて居たたまれなくなったのだ。


 ――皆で強くなるって言ったのに、私……何も……。


「……レナも、俺達と村に行かないか」


「――えっ」


 気付けばオルが傍にいて、私はびくっと肩を震わせた。


「……心配なら、ミラというやつも一緒に連れて行けば良い」


「え、でも……」


 どうしても行くとは言えない私に、彼は言う。


「……最近部屋に籠ってばかりだろ。 たまには外に出ないと――」


「良いの。 好きでやってることだから。 ……私はここにいるよ、ミラと待ってる」


「……そうか」


 オルはまだ何か言いたそうだったが、結局それしか言わなかった。だから私は、ふっと思いついたことを口にした。


「もし良かったらさ、ミラのお友達とか探してきてよ。 きっと、ミラのこと心配してると思うんだ。 あの子……村に出ても、市場でお買いものするだけで自分の家があったとこには戻ってないみたいだから」


 燃え果てた自分の家など見たくも無いのだろうか。帰ってきたミラにどこに行っていたかを聞いても、知り合いに会ったとも、家のあった方向に行ったとも言ったことは無かった。


「……分かった」


 この日から三日後。ついにブリリアントはイザムとオルに連れられ、事件から初めてとなる村の外の土を踏むに至ったのだった。


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