オルの考え
「よう、良く来たな」
「……これ、イザムからだ」
そう言ってオルは、懐から包みを取り出した。
「……ハンドクリームだ」
「お、あんた気が利くじゃないか」
そう言って包みを受け取ったのは、この家の主であるピアだった。
「まさかイザムってやつが本当に薬師だったとはな」
「ありがたく貰っておくよ」
オルは前髪の奥で微笑むと、ソファに腰掛けた。
「それで、前はどこまで話したっけな」
向かいに座るラリーが、腕組みをしつつ言った。
「……何も無かったこの場所に、どうやって精霊の花嫁が国を築くに至ったかだ」
「そうだったそうだった。 じゃあ、今日は普段精霊の花嫁が何をしているかだな」
ラリーはピアが持って来てくれたシフォンケーキに大胆にフォークを入れつつ、話を切り出した。
「前にも言った通り、精霊の花嫁はこの国にエネルギーを与えてくれる存在だ。 そのポジションは今も、変わっちゃいねえんだ」
「……今も?」
「ああ。 例えばお前、毎日広場を通ってここに来てるんだったら大きい花壇を見たことがあるだろ」
ラリーが言う花壇とは、広場に備え付けられたもののことだ。こんな事件が無ければきっと綺麗な花を咲かせているのだろうが、今や枯れた花の残骸が残るばかりで村の寂れ具合を示している様だった。
「花嫁が村に来ている間は、そんなことにはならなかった。 あの人が村を歩くだけで、木や花は元気になるんだ」
「……何だって?」
驚くオルの前に、自分の皿を持ってピアもやって来た。
「植物だけじゃねえよ。 怪我の人も病気の人も、花嫁さんが来てくれたらそれだけで心なしか元気になるのさ」
「……どういうことだ?」
茫然と呟くオルに、ラリーは笑いながら言った。
「そりゃ決まってる。 花嫁様が俺達に、元気を与えて下さってるのさ」
「そうそう。 だから皆、花嫁様が好きなんだ」
「……」
俄には信じがたい話に、オルは黙り込んだ。ラリーとピアはそんな彼に、顔を見合わせた物の何も言わずにまた話し出すのを待っていた。
「……なるほど、良い話を聞けた。 礼を言う」
何となく上の空のオルだったが、二人はほっと笑顔で言った。
「良いってことよ」
「これぐらい、お安い御用さ。 それよりあんた、これからどうするんだい?」
「……これから?」
「ああ。 精霊の花嫁に関することはもう大体しゃべり終わった。 勿論まだ聞き足りないならもっと話すが……」
「……ああ。 そうだった」
空になった皿に手を合わせつつ、オルは立ち上がって言った。
「……少し考えたいことが出来た。 またここに来る。 その時はイザムも連れてくるかもしれない」
「分かったよ」
「いつでも待ってるよ、あんたは花嫁様の無事を知らせてくれた大切なお客さんなんだからね」
二人に見送られながら、オルは屋敷へと帰って行くのだった。
「……あいつ、大丈夫か?」
その背中を眺めつつ、ラリーがぼそっと呟いた。
「さあね。 あの子にはあの子なりに、色々考えることがあったんだろ。 それよ
りあんた、今日の分の仕事がまだだよ!」
「はい、はい、ただいま!」
部屋で薬草をごりごり擦っていたイザムは、ノックの音に気付いてふと手を止めた。
「はいどうぞー」
ガチャリとドアを開けて部屋に入って来たのは、オルだった。
「オル君でしたか」
「……調合中だったのか。 邪魔したな」
「いえいえ、お構いなく」
オルを椅子に誘いつつ、イザムは手際よくお茶を入れるとオルの正面に自分も腰かけた。
「どうされました?」
「……少し相談したいことがあって」
「相談、ですか」
オルはラリーから聞いたことを、イザムに順を追って話した。
「なるほど……。 人も植物も元気なるとは、凄いですね」
「……ああ。 ブリリアントは一体、どんな力を使っているのか」
「もしかしたら、活性化かもしれませんね」
「……活性化?」
ふっと思いついた様に言ったイザムに、オルはどういうことだと聞き返した。
「ブリリアントは何らかの形で、近くにいる人や植物を活性化しているのかもしれません」
「……そんなことが可能なのか」
ラリーに聞いた話と合わせると、ブリリアントが活性化する範囲は村一個分に相当する。そんなにも広域に、彼女は影響を及ぼすことが出来るということだろうか。
「オル君も地下の巨大な根っこを見たでしょう。 きっとそれぐらい、本来の彼女なら出来るでしょう」
「……なるほどな」
これは思っていたよりも大がかりなことになりそうだと、オルは溜め息をついた。
「それでオル君、相談とは?」
「……俺達で代わりが出来ないかと思ってな」
「えっと」
今度はイザムが、言葉に詰まる番だった。
「……活性化とまではいかなくても、お前は人を癒すことが出来る」
「まあ、多少は出来ますが……。 でも植物の方は」
「……植物の方は俺がどうにかする」
「オル君が?」
驚くイザムに、オルはふっと笑って言った。
「……ブリリアントの力は、水龍と麒麟の力の融合から生まれたものだ。 ならば、俺にもブリリアントと同じ様な力があるはず……違うか?」
「それは……一理ありますね」
度肝を抜かれつつ、イザムはオルの考えに同意した。
「お世話になりっぱなしじゃ悪いですもんね。 頑張りましょう、オル君!」
「……ああ」




