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不死鳥の乙女  作者: ren
精霊の花嫁
49/87

しばしば

 ベッドの上でだらだら寝ころんでいた私は、小さなノックの音に気付いてのそのそと立ち上がった。


「はーい?」


 扉を開けた私は、そこにとても意外な人物が立っていたのに驚いた。


「ミラ! どうしたの?」


「……」


 彼女はしかし、私と視線を合わせようとはせずただ黙って俯いていた。


「ブリリアントのお使い?」


「……」


 何も言わないミラに、私は膝を折って視線を合わせた。


「良かったら、お茶でも飲む?」


 務めて優しくそう言うと、やがて彼女はこくんと頷いた。






 部屋でしばし休息を取っていたイザムは、椅子に座り机に向かって考え事をしていた。


「水龍様……」


 彼が水龍を見たのは、力が出せる様になったあの日だけだった。あの時、呪いが消えた水龍は確かにこう言った。――“私は少し、休ませていただきます”――と。


「もしかしたら、水龍様が見えなくなってしまったのは……」


 しばし考え込んだイザムは、再びイクスパイを握ると部屋を出た。そして隣の部屋――つまりレナの部屋のドアをノックしようとして、手を止めた。


「あれ……」


 固まる彼に、丁度そこを訪れた人物が声を掛けた。


「あら、どうされましたのイザム兄様?」


「ブリリアント! それが……」


 彼が見つめるドアの向こうからは、その部屋を使っているレナと、もう一人の声が聞こえて来ていた。


「この声は……ミラですわ。 姿が見えないと思ったら、やはりここに来ていたのですね」


 微笑ましい様子を盗み聞きつつ、二人はそっとその場から離れて歩き出した。


「レナ様に何か用事がおありだったのでは無いのですか、イザム兄様?」


「大したことは無いのですか。 ……その、修行を付けて貰おうかと思いまして」


「修行、ですか?」


「ええ……」


 イザムはこう考えていた。自分が水龍の姿を見ることが出来なくなったのは、呪いによる影響により水龍自身が本調子では無かったからである。ならば自分の記憶は、水龍が回復して初めて甦るのでは無いかと。


「かと言って、僕はただただ水龍様を待っているわけにはいかないと思いました。

 さきほどの戦い……僕は、力を失くしたというあなたに全く叶いませんでした。それは先程言われた通り、経験の差だと思ったのです。 記憶が戻るまでに、僕は力の使い方を身に付ける必要があると考えました」


「それで、レナ様に?」


「ええ。 ……ブリリアントはどう思われますか?」


「……」


 ブリリアントは黙って、その場に立ち止まった。


「……ブリリアント?」


「――流石ですわ、イザム兄様!!」


「え、えっと……」


 急にブリリアントに両手を取られ、イザムは目を丸くしていた。


「私、イザム兄様のためなら何でもしますわ! どうか、私に修行のお手伝いをさせて頂けませんか?」


「えええ! でも、良いのですか!?」


「勿論ですとも! 早速行きましょうお兄様!!」

 

二人は軽やかに、闘技場へと行ったのだった。

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