しばしば
ベッドの上でだらだら寝ころんでいた私は、小さなノックの音に気付いてのそのそと立ち上がった。
「はーい?」
扉を開けた私は、そこにとても意外な人物が立っていたのに驚いた。
「ミラ! どうしたの?」
「……」
彼女はしかし、私と視線を合わせようとはせずただ黙って俯いていた。
「ブリリアントのお使い?」
「……」
何も言わないミラに、私は膝を折って視線を合わせた。
「良かったら、お茶でも飲む?」
務めて優しくそう言うと、やがて彼女はこくんと頷いた。
部屋でしばし休息を取っていたイザムは、椅子に座り机に向かって考え事をしていた。
「水龍様……」
彼が水龍を見たのは、力が出せる様になったあの日だけだった。あの時、呪いが消えた水龍は確かにこう言った。――“私は少し、休ませていただきます”――と。
「もしかしたら、水龍様が見えなくなってしまったのは……」
しばし考え込んだイザムは、再びイクスパイを握ると部屋を出た。そして隣の部屋――つまりレナの部屋のドアをノックしようとして、手を止めた。
「あれ……」
固まる彼に、丁度そこを訪れた人物が声を掛けた。
「あら、どうされましたのイザム兄様?」
「ブリリアント! それが……」
彼が見つめるドアの向こうからは、その部屋を使っているレナと、もう一人の声が聞こえて来ていた。
「この声は……ミラですわ。 姿が見えないと思ったら、やはりここに来ていたのですね」
微笑ましい様子を盗み聞きつつ、二人はそっとその場から離れて歩き出した。
「レナ様に何か用事がおありだったのでは無いのですか、イザム兄様?」
「大したことは無いのですか。 ……その、修行を付けて貰おうかと思いまして」
「修行、ですか?」
「ええ……」
イザムはこう考えていた。自分が水龍の姿を見ることが出来なくなったのは、呪いによる影響により水龍自身が本調子では無かったからである。ならば自分の記憶は、水龍が回復して初めて甦るのでは無いかと。
「かと言って、僕はただただ水龍様を待っているわけにはいかないと思いました。
さきほどの戦い……僕は、力を失くしたというあなたに全く叶いませんでした。それは先程言われた通り、経験の差だと思ったのです。 記憶が戻るまでに、僕は力の使い方を身に付ける必要があると考えました」
「それで、レナ様に?」
「ええ。 ……ブリリアントはどう思われますか?」
「……」
ブリリアントは黙って、その場に立ち止まった。
「……ブリリアント?」
「――流石ですわ、イザム兄様!!」
「え、えっと……」
急にブリリアントに両手を取られ、イザムは目を丸くしていた。
「私、イザム兄様のためなら何でもしますわ! どうか、私に修行のお手伝いをさせて頂けませんか?」
「えええ! でも、良いのですか!?」
「勿論ですとも! 早速行きましょうお兄様!!」
二人は軽やかに、闘技場へと行ったのだった。




