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不死鳥の乙女  作者: ren
精霊の花嫁
46/87

 ――皆様、ついてきてくださいませ。


 そう言ってブリリアントは、私たちをお屋敷の地下へと続く階段へと誘った。


「ここ……私がいたとこよりもよっぽど深いね」


 蝋燭を手に先頭を歩いていくブリリアントに、私は呟いた。


「ええ。 これはお屋敷の深層部へと続く階段、ですから」


「深層部……」


 ブリリアントの言葉の通り、階段はまるで終わりがない様だった。室内から始まったはずの地面はいつしか、土の物になっていた。


「何だか落ち着きますね」


「……ああ」


 イザムの言う通り、ここは私たちに取って心地よい場所だった。湿った地面を踏みしめ、どこからともなく響いてくる水の滴る音を聞く。まるで視覚以外の五感が、全て研ぎ澄まされていく様だった。


 これからどこに向かっているのだろうと思っていた私は、唐突に話し始めたブリリアントにハッと注意を向けた。


「“求神”の力とはすなわち、自然の力そのもの。 人間には到底、手におえる物ではないのです」


「……!」


「自然は時に雄大で、牙を向く。 そして人は時に小さく、脆く儚い。 この二つの調和を取るのも、私たちの大切な役目なのです」


「……」


 私たちはいくつもの巨大なアーチを越え、ブリリアントの声に耳を傾けながら下へ下へと進んで行く。


「ですから私たちにとって強さとは、いかに自然の力と一体化出来るかによって決まります」


「自然と、一体化……」


 丁度階段の一番最後に着いたブリリアントは、そのまま数歩進んでそこに備え付けられていた柵の先を見つめた。


「ここは……緑の国の、始まりの場所……。 エントの巨大な根によって出来た、地下空間なのです」


「根……!?」


 私は先程から何度もくぐり抜けた、アーチを思い浮かべた。するとあれは、全部が根だったというのか。


 茫然とする私の横を、イザムが前に出てブリリアントと同じ物を見つめた。


「あれは、まさか……」


「……エントか」


 ――エント……。


 ようやく私は、ブリリアントが見つめる物が何なのかに気が付いた。それは巨大すぎる木の、家を丸ごと飲み込めそうな程に太い根だったのだ。


「あれ……。 この位置に根があるってことは――」


「そうですわ、レナ様。 あのお屋敷は全て、エントが姿を変えた物なのです」


 ――お屋敷、全部……!


 驚く私に、続けて彼女は言った。


「エントの根は国中に張り巡り、土台からこの国を支えているのです。 そのお蔭でこの国の土地は肥え、人々の暮らしは豊かになりました」


 ――!!


「しかしそれと同時に、この力は悪用すれば国を転覆させる事など容易いのです。 例えば私が、この街の草木の成長速度を異常な程に速めたら……? この国はすぐに、森に飲み込まれてしまうでしょう」


「……」


 黙り込む一堂を振り返り、ブリリアントはこう言った。


「勿論これは、お兄様方が“力”を完全に使える様になってからの話です。 まずは、それだけの力がご自身の中に存在するということを、感じて下さい。 自分が常に神と隣り合わせに生きているということを、感じて下さい。 ……それが私の言える、“求神”としての強さですわ」


「……自分の中に」


「……水龍様が」


「……力がある」


 それは私たちの中に、風が生まれた瞬間だった。


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