決意新たに
「求神の力を使えないって――どういうことなの!?」
思わず叫んでしまった私に、ブリリアントはきっと私を見てこう言った。
「そんなの、私にだって分かりませんわ!」
彼女は今やぎゅっと目を瞑り、震えながら言葉を結んでいく。
「それまで普通に使えていた“力”が使えなくなるし、エントの姿が見えなくなるし、私にはもう何も、出来ないのです」
「ブリリアント……」
イザム席から立ち上がり、俯くブリリアントの肩をぽんぽんと叩いた。その頬には、堪えきれなかった涙が線を描いていた。
「私は、この村――いいえ、この国の希望でなくてはならないのです。 それなのに、それなのに、私は……」
ブリリアントは無理やりに顔をあげると、涙ながらにこう言った。
「ご迷惑とは承知で、お願いがあります! どうかこの国に、御力を貸して下さい!!」
私はその瞬間、彼女は姿こそ幼いが、立派な“求神”なのだと改めて思い知らされた。
ただちょっとだけ、人とは違う力を持っている。それだけで自分は何でも出来ると思っていた自分は、いかにちっぽけな存在だったのか。
――私の、決意なんて……。
込み上げる羞恥に、かっと顔に熱が上った。助けを求められていながら即答出来ない自分に、心底腹が立った。しかし今の自分が、ブリリアントに一体何をしてやることが出来ると言うのか。結局私は――。
「……当然だ」
私の暗い思考を遮ったのは、それまでずっと黙っていたオルの声だった。彼はどこか、覚悟を決めた様にブリリアントを見ていた。
「オル兄様……」
自分から助けを求めたはずのブリリアントは、驚いた様にオルを見つめていた。
「……ギーヤは昨日、俺達を“求神”だからと歓迎してくれた。 ならば俺達も、その期待に応えるまでだ」
「オル……」
ハッとした私に、オルは黙って頷いた。
「オル君の言う通りです。 別に僕たちはカムイを追わなければならないと言うわけでもありませんから、時間はたっぷりあるんです。 お力添えしますよ、ブリリアント」
「イザム……」
にこやかに笑うイザムの笑顔は、私には眩しすぎるぐらいだった。
「……それで、レナはどうするんだ」
オルに話を振られ、私はごくっと唾を飲んだ。
「――私は……」
脳裏に、今まで身に降りかかった出来事が蘇ってくる。
――取り押さえろ! 血を奪うんだ!!
――風の吹くまま、運命が示す地へと。
――炎の悪魔め。
――みんなまとめてかかってきなさい!
「私は――」
――彼女こそが、“不死鳥の乙女”よ!
「――私は勿論、やるわよ。 その炎の悪魔ってやつに間違えられて、このまま終わるわけに行かないじゃない。 きっちり借りを返させて貰うわ!」
「……」
「……」
「……」
私の宣言に、部屋には何故か沈黙が下りた。やがて――。
「――くくっ」
イザムが堪えきれずに笑い出したのを皮切りに、オル、ブリリアントまでもが笑い出した。
「なによっ!」
むきになる私に、イザムはくすくすと笑ったまま答えてくれた。
「あ、余りにレナさんらしいなと思って」
「……全くだ」
「レナ様、本当に――」
ブリリアントは先程まで泣いていたのが嘘の様に、手で涙を拭って可愛らしく笑っていた。
「と、とにかく! 今やらなきゃいけないのは炎の悪魔のことよ!」
「ええ、そうでした」
「……そのためには、俺達は強くならなくてはならない」
私たちは真剣な表情になったブリリアントに、口を揃えてこう言った。
「私たちに“求神”としての力を教えて欲しいの!」
「僕たちに“求神”としての力を教えて下さい!」
「俺たちに“求神”としての力を教えてくれ!」




