手がかり
「んー! 美味しい!」
私はお茶会でも相当お菓子を食べていたのに、次々と運ばれてくる料理を次から次へと平らげながら歓声を上げた。
「まあ、イザムお兄様ったら!」
「ははっ。 ブリリアントこそ」
「……違いない」
「……」
そんな私の向かいで、ブリリアント達は仲良くやっている様だった。私たちはブリリアントにここに来るまでの話を聞きたいと言われ、私が村を出ることになったところから順番に話していたのだが……。
水龍の村を出て話手がイザムに変わった辺りからなんとなくブリリアントの相槌が熱心になった様な気がして、私は会話から一歩身を引いた。イザムの話は確かに面白いが、ほんの少し前のことであるし、今さら聞かなくてもよく知っている話だからだ。
「レナ様、もし良ければおかわりもありますが」
「え? いや、それは、大丈夫です……」
私ははははとギーヤさんに笑いながら、申し出を丁重にお断りした。
「ねえ、レナお姉さま」
「――な、何!?」
急にブリリアントに話し掛けられた私は、思わずびくっとしながら慌ててそちらに意識を向けた。そんな私に、彼女は満面の笑顔でこう言った。
「私も蜂蜜たっぷりのトースト、好いておりますの」
「……あ、うん」
「――それで、ついにオル兄様とお会いするんですね!」
私の下手過ぎる受け答え等物ともせず、ブリリアントはイザムに話を戻した。
「ええ。 それが同時に、カムイという男との出会いでした」
「……カムイ?」
きょとんとした表情を浮かべる彼女に、イザムは上手くオルとの出会いをぼかしながら私たちが追っている男のことを話した。
「まあ、そんな方がいらっしゃるのですね!」
ブリリアントはイザムの話に、口に手を当てて驚きを表しながら言った。
「ブリリアントはカムイのこと、何か知らない?」
私は緑の国に来た本来の目的を急に思い出し、一縷の望みを掛けて彼女に聞いた――が。
「残念ながら、今初めてお聞きしましたわ……」
「そっか……」
私は思わず、イザムとオルと顔を見合わせて溜め息を吐いてしまった。ここに来れば何かしらの情報が得られるのではと思ったのだが、どうやら当てが外れた様だ。
「お役に立てなくて、申し訳ありません」
「……ブリリアントが謝る事はない」
珍しいオルのフォローに、ブリリアントの顔が赤くなるのを私は確かに見た。
「せめてどこの国の者か分かれば、手がかりも見つかるかもしれませんが……」
「――あ!」
「そういえば――」
ギーヤさんの言葉に、私とイザムは脳裏にカムイを思い浮かべた。どこにでもある様な麻のマントを頭から被った、ガリガリに痩せ細った男――。
「ん……」
「髪色も顔も、見ていません……」
「オル様は、何かご存知ではないですか?」
冷静なギーヤさんの言葉に、一同期待を込めてオルを見た――が。
「……いや。 奴はいつもマントを被っていたから、俺も見たことは無い」
オルの言葉に、皆落胆を隠しきれない表情を浮かべた。
「なんとまあ」
「オルでも知らないんだ……」
「カムイという男の用心深さには、驚かされるばかりですね」
「本当に。 何て方なのかしら」
「……」
私はむーと口を尖らせながら、何かひっかかりを覚えた。しかしその答えに辿り着く前に、話題は次へと移って行った。そして私はそれっきり、ある人物に会うまでそのひっかかりを思い出すことは無かった。




