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不死鳥の乙女  作者: ren
精霊の花嫁
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嬉しい再会と予期せぬ出会い

「さあさあレナ様、大人しくして下さいませ」


「そうですよレナ様、我々に全てお任せして下されば良いのです」


「何なら寝ている間に全て終わりますからね」


 ――もうやめてー!!


 私の悲痛な叫び声は当然、聞き入れられるはずも無かった。


 男は私を牢屋から連れ出したのは良いが、説明することも質問する時間も与えることもなく次の人間に私を託した。その人物こそ――侍女頭のメリッサさんだった。


 この後どうなるんだろ……とただただ不安に駆られていた私は、男が急に立ち止まったので危うくその背中にぶつかるところだった。目的地に着いたのかと、背中越しに前を見ると……そこにいたのは非常に恰幅の良い女性と、その背後にたくさん控えている侍女らしき人達だった。


「後は頼んだ」


「かしこまりました、ギーヤ様。 この侍女頭のメリッサにお任せ下さいませ」


 そう言って、深々とお辞儀をするメリッサ。


 男――ギーヤさんは結構偉い人なのかなとぼんやり考えていた私は、いつのまにか両脇を女の人にがっしりと掴まれていることにやっと気づいた。


「行きましょう、レナ様」


「……えっ! 行くってどこに? てか私の名前――」


 皆まで言う前に、私は強制的にその場から拉致されてしまった。その後に起きたのは、全くの悲劇だった。身ぐるみ剥がされる、熱いお湯の中に放り込まれる、全身くまなくこすられる、お湯から出たら出たで息つく間もない程あれやこれやと触られる……。


 もしやこれこそが“炎の悪魔”に対する報いなのかと、私は途中まで本気で考えていた。しかしその割には彼女達の動きは丁寧で洗練されていて、不快なことは一切無かった。しいていえば、私は他人に触られることに馴れていないしなんと言っても水が苦手なのだ。


 なにはともあれ、あっという間に埃やら何やらを落とされこれまでかという程に磨き上げられた私は、波が引く様に去って行ってしまった侍女軍団に取り残されて一人呆然と立ち尽くしていた。


「……これ、私なの……?」


 鏡にうつるのは私と同じ赤い髪と褐色の目を持つ、全く別の人間だった。普段は危険と隣り合わせの旅の毎日で、やつすことなど忘れていた。しかし丁寧に結い上げられた髪はつやつやとしていて燃えている様にすら見えたし、うっすらと化粧を施された顔は自分で言うのもなんだが活き活きとして見えた。


 ――母さんが見たら、泣いちゃうんじゃないかな……。


 どこか他人事の様にそう思っていると、すぐ近くから咳払いが聞こえてきて私は我に返った。振り向いたその先にはやはりというか何というか、あの男――ギーヤさんが立っていた。


 ――気まずいっ。


「……あの」


「付いて来て下さい」


 ギーヤさんは私の変わりようにもさして表情を崩さず、さっさと歩きだした。今度は私も、ある程度周りの様子を見ながら付いていく余裕が出来ていた。ギーヤさんはやはり相当の地位の人らしく、長い廊下で出会う人は皆彼に頭を下げていた。


 ――……ここは一体、どこなんだろう。


 根本的なことはまだ、何も分かってはいない。悶々としたまま、ギーヤさんはとある扉の前で立ち止まった。


 その扉はいかにも目的地に相応しく、二人の衛兵に守られたとても大きくて重そうな扉だった。しかしギーヤさんが片手をあげると衛兵はあっさりと扉を開けてくれたので、私たちは難なく中に入ることが出来た。


 中には扉に似合う、大きな部屋。その中心にある巨大なソファに腰掛けていたのは、私が今一番会いたいと思っていた二人だった。


「――イザム! オル!」


「――レナさん!」


「……レナ!」


 二人はパッと立ち上がり、こちらに走ってきた。私も気づいたら、二人の方へと走り出していた。


 私たちはギーヤさんを完全に放置して、手を取り合って再会を喜んだ。


「二人共、無事だったんだね!」


「それはこっちの台詞ですよ、レナさん」


「……心配した」


 いつものイザムと、珍しく表情を露わにするオルに私は思わず笑みをこぼした。


「二人共、髪色ちゃんと戻ってるじゃない!」


「……ああ。 色々あったんだ」


「そういえば、レナさんもちゃんと着替えて来られたんですね」


「え? これはその、無理やり……」


「よくお似合いですよ、レナさん」


 ――!


 今一番言って欲しかった言葉を言われ、私はカアッと頬を朱に染めた。


「……意外と似合うんだな。 レナにも女らしい格好が」


「――なっ! なによっ! 私だって――」


 しかし皆まで言う前に、新しい声が後から響いてきた。


「――あら。 皆様、仲がよろしいのね」


「――!」


「――!」


「……!」


 私たちがパッと後を向くと、そこにいたのは豪華なドレスを身に纏った少女だった。


 ――ゴ、ゴージャス……。


 私は思わず、そんなことを思ってしまった。自分がかなり派手な格好をしていると思っていたが、彼女に比べたら実にシンプルな服だったのだと気付かされた。


 少女はいつのまにかその傍らに控えているギーヤさんにご苦労様と声を掛けると、私たちに向かって――いや、イザムとオルに向かって走り出した。


「お会いしたかったですわ! イザム兄様、オル兄様!」


「――!?」


「……!?」


 ふわっと飛び上がった彼女は、私そっちのけでイザムとオルに抱きついた。


 ――え、どうなってんの、え、え……?


 混乱の極みにいる私に、ギーヤさんがやはり表情を崩さないままこう言った。


「――申し遅れましたが、私の名はギーヤ。 緑の国の大臣です」


「――!」


 ギーヤさん――いや大臣は、固まっている私ごしに未だに二人を離そうとはしない少女に声を掛けた。


「ブリリアント様、お戯れはその辺でおやめください」


「――まあギーヤったら。 私は決してふざけてなどいませんわよ?」


 ころころと鈴を転がす様に可愛らしく笑いながら、少女は満面の笑みで大臣を振り返りつつ言った。


 豪華なドレスに、大臣が敬語を使う人物。


 ――まさか、まさか……。


 確信に近い予感に身体を震わす私に、ようやく二人を解放して少女は果たしてこう言った。


「――初めまして。 私は精霊の村の求神、またの名を“精霊の花嫁”ことブリリアントでございます」


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