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不死鳥の乙女  作者: ren
精霊の花嫁
33/87

ラリーとピア

「――はい、どうぞ」


「……あ、ありがとうございます」


 騒動の後、私たちは大柄美女――ピアの家に招かれていた。三人横並びにソファに座り、お茶を振る舞われる私たち。ちなみに私はもう、帽子をかぶるのを止めていた。噂の広がるスピードがとてつもなく早い、小さい村のこと。どうせ被ったところで真相は知られてしまっている。あとはもう堂々と振る舞うしかないと、腹をくくったわけだ。


 そんな私を気まずそうにちらちら見ている、リーダーことラリー。彼はこっそり逃げ出そうとしたところをピアに捕まり、無理やりここに連れてこられていた。今は先ほどとはうって変わり、おとなしく椅子に収まっているラリー。その姿はまさに蛇に睨まれた蛙だった。


「――で、話ってなんだい?」


 ピアはお茶請けの焼き菓子をばりばり齧りながら、早速話を切り出した。


「……その、“炎の悪魔”について教えて貰えませんか?」


 私は思い切って、彼女の澄んだ瞳を見つめて言った。


「……」


 ピアは煎餅を咀嚼しながら私の目をじっと見つめ返し、ふっと笑って言った。


「やっぱりそう言うと思ったよ。 私で良いなら教えたって良いよ。 でもあんたら、なんでそんなこと聞くんだい?」


「それは……」


 私はピアの言葉に正直に答えて良いものか、しばし躊躇した。しかし彼女にはご

まかしなど通用しそうにも無いと思い、両脇に座るイザムとオルをちらりと見てから意を決して言った。


「“炎の悪魔”は、私たちが追っているやつと関係があるかもしれない。 そいつ

には借りがあって、一発やり返さなきゃすまないの。 だから“炎の悪魔”に会って、少しでも手がかりを探したい」


「……」


 ピアは私の直球過ぎる言葉を、微動だもせずに聞いていた。だが、やがてニヤッと八重歯を見せて笑った。


「くくっ、そいつは良いや」


「……え?」


「気にいったって言ってんだよ。 ――ラリー!」


「はい!!」


 突然ピアに呼ばれて、ラリーは可哀想なぐらい飛び上がって答えた。


「“炎の悪魔”について知ってること、全部話してあげな」


「で、でも……」


「口答えしない!」


「はい!」


 そうしてラリーは、私たちに一連の事件について語ってくれた。大体の流れは、前の村で宿の主人に聞いたのと同じ話だった。だから私たちは、ふんふんと頷きながら正直がっかりしていた。


「――なるほど。 では今のところ、打つ手なしというわけなんですね」


「ああ。 あの“精霊の花嫁”でも勝てなかったぐらい――」


 そこでラリーはハッとして、手で自らの口を押さえた。だがその分かりやすい反応に、躊躇っている私たちではない。すかさずイザムが、彼を追及する。


「それはどういうことですか? 花嫁は直接、悪魔と戦ったことがあるのですか?」


 ラリーは口をすべらせた自分に酷く腹をたてている様だったが、ちっと舌打ちしてこう言った。


「ええいくそっ! そうだよ、一度だけ“花嫁”は“炎の悪魔”と対峙してんだ」


 ラリーはやけくそになって、ぼろぼろと私たちの知らない話をばらしていく。彼によると“炎の悪魔”による火事に胸を痛めた花嫁自身が、ついに自ら事件解決に向けて乗り出したのだ。


「その日、村はずれの一件の家が燃やされたんだ。 その家は他の家から少し離れ

たところにあったから、発見が遅れちまって……。 とにかくその家がまだ燃えている最中、お屋敷から花嫁がやって来たんだ」


 飛んできた花嫁は、周りの制止を振り切って燃え盛る家に飛び込んだ。火事に気付いて集まって来た村の人々には、立ち上がる炎を前に彼女の帰りを待つことしか出来なかった。十分、二十分と時が過ぎても、彼女は帰って来なかった。ついに彼女が消えてから三十分後――。人々が自分も中に飛び込もうとしていた時、彼女は腕に小さな少女を抱えて帰ってきた。自身は顔の左半分に、酷い火傷を負いながら……。


「その時花嫁は、何も語らなかった。 すぐにお屋敷に帰って行って、それから一度も表には出て来ていない」


「……」


「……」


「……」


 ラリーが俯き加減にそう言い、ピアは黙って溜め息をついた。しばらく誰も、言葉を発することなく気まずい沈黙が続き……イザムが、恐る恐るといった様子で質問をした。


「……では花嫁さんが今どうなっているか、誰も知らないのですか?」


「そういうことだ。 無事なら良いんだが……」


 悲しげに言うラリーに、ピアがぴしゃりと無事に決まってるよと言った。


「それにあれから“炎の悪魔”だって悪さしてないんだ。 やっぱり花嫁は、私たちの救世主なんだよ!」


「――ちょ、ちょっと待って!」


 私はピアの聞き捨てならない言葉に、慌てて待ったをかけた。


「……あれから悪さをしてないって、どういうこと?」


 その疑問には、ラリーが答えてくれた。


「そのままの意味さ。 花嫁が飛び込んだ事件を最後に、火事は止まった。 ……俺達は花嫁が炎の悪魔と戦って、少なくとも相手が動けないぐらいにはやっつけたんだと思っている」


「……だが、正式に悪魔を倒したという発表が無いから真相は不明……ということか」


「ああ」


 ラリーはオルに向かって頷いた。


「あの事件で初めて死人がでるし、花嫁は引きこもっちゃうし、ホントに勘弁して欲しいよ……」


 再びはあっと溜め息を吐くピア。


「……初めて……だったのですか?」


 そんなピアの言葉を、イザムはきっちりと拾って聞いた。


「ん? ああ」


 なんだ知らなかったのかい、とピアは呟いてから言った。


「あの事件で……。 気の毒な女の子の両親は、煙にまかれて死んじまったのさ。 まだ若い夫婦だったらしいよ、周りの人の話では」


「その事件があったから、俺達はより悪魔を警戒する様になったんだ。 なにしろ、一番強いはずの花嫁でも無傷じゃいられない相手ってことが分かったんだからな」


 そう言ってラリーは、話を締めくくった。一方私たちは、新たに得ることが出来た情報を反芻しつつ互いに目配せをしあっていた。


「――最後に一つだけ聞いても良いですか? 助け出された少女は、今どこに?」


「……会おうったって無駄だよ。 女の子は花嫁がお屋敷に連れて行ったきりだからね」


「そうですか。 ……ありがとうございます、貴重なお時間を頂いてしまって」


 そう言ってイザムは立ち上がり、私たちはソファから立ち上がった。


「ありがとうございましたっ!」


「……助かった。 礼を言う」


 お礼を述べて立ち去ろうとする私たちの背中に、ピアが声を掛けてくる。


「あんたら、言っても無駄だと思うけどあんまり目立ったことするんじゃないよ!」


「――頑張る!」


 ……心配してくれたピアには悪いが、私たちにはまだすべきことがあった。すな

わち――。


「さあ、花嫁に会いに行かなくっちゃ」


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