暴かれた色
「――なっ!」
リーダーの言葉に、私は思わず動揺して声をあげてしまった。それによりリーダーはいよいよ調子付き、そこに集まった全員に聞こえるような大きな声で話を始めた。
「どうやってこの村に入ったかは知らねえが、俺達の目は誤魔化せねえぜ。 おまえらが日中、この村をうろうろしてるの分かってんだ。 大方、その女が次に燃やす家でも探してるんだろ!」
その言葉を聞いて、周囲の人々の声の音量が二倍増しになった。それに危機感を覚えたイザムが、珍しく焦った声で反論をする。
「――それは違います! 僕達はただ――」
「ただ、なんだって言うんだよ? わざわざ人気のない場所を歩いて、薬売る気なんてあるのかよ?」
「……」
言葉につまるイザム。私は彼の深い緑色の髪を眺めながら、いよいよ危機感を覚えていた。
「……どうして緑の国の住民である俺たちが、同じ緑の国の村を襲わなくてはならないんだ?」
助け舟のつもりか、オルがそう口を開いた。
――そうだった! 私たちは今、緑の国の人のフリしてるんだった……。
私はハッと我に返って、オルの言葉にうんうんと頷いた。しかしリーダーは、そんなオルの言葉を鼻で笑ってこう返してきた。
「じゃあお前。帽子取って、ちゃんと緑色の髪かどうか見せてみろよ」
――まずい!
急に血の気が引いていくのが、自分でも分かった。精霊の村に入ってから寝る時以外、片時も脱がない帽子。これを人前で脱ぐことは、絶対にしてはならないことなのだ。
私はぎゅっと手を握りながら、どうにかして帽子を取らない方法がないかと考えた。だが……。
元々余所者に冷たかった村の人々は、完全にリーダーのペースに飲み込まれている。今こうしている間にも辺りには人々が押し寄せてきて、帽子を剥ぎ取ってしまいそうな程の熱気に満ちていた。
――イザム、お願い! なんでも良いからここから脱出する方法を考えて……!
しかし私の祈り虚しく、イザムは黙って首を横に振った。それを合図に、リーダーは仲間たちの列から一歩ずつ前に進んで私に向かってくる。
――駄目! 私は脱げないの!
私は帽子をより深く被り直し、リーダーの言葉を拒絶した。逆にその行動が、興味を失いつつある人々の目を再び集めてしまうことになるなんてその時考えている余裕は無かった。
「……おい。 “炎の悪魔”!」
「――違う! 違うけどこの帽子は脱げない!」
「……レナさん」
「……諦めろ」
「嫌ってったら嫌なの!」
仲間内でこそこそ叫びあっていると、ついにリーダーは痺れをきらして宣言した。
「もういい。 自分から脱がないなら俺が脱がすまでだ!」
「――イヤー!!」
私は絶叫し、より一層手に力を込めた。だが、単純な力勝負では男に勝てるはずもなく……。必死に守っていた帽子は、あっさりと脱がされ地に落ちた。
「――!」
その瞬間、リーダーを含めた村の人々は思わず息を飲み、イザムとオルは溜め息をついた。帽子を剥ぎ取られた瞬間、髪を結わえていた紐も切れてしまい、小さく纏めていた長い髪がふぁさっと背中に流れた。その色は――。
「……なんなんだ、この色……は?」
茫然とするリーダーの口から出て来た物、それこそが私の色だった。
「……レナさん」
「……ご愁傷様」
イザムとオルの同情する声を聞きながら、私は心の中で叫んだ。
――――私だって好きでこんな色になったんじゃないのよー!!




