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不死鳥の乙女  作者: ren
精霊の花嫁
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炎の悪魔

 緑の国。そこは自然と人が見事に調和を遂げた、小さいけれど美しい国だった。日光がさんさんと降り注ぐ中、広くとられた道路では子供たちが遊んでいる。至るところに設けられた花壇は手入れが行き届いていて、見る者の心を明るくしてくれていた。そんな町並みを抜け、私たちは国の中心部である“精霊の村”に入っていた。


聞けば“精霊の村”は、代々“精霊の花嫁”という女性が治める村だという。そして“精霊の花嫁”は、不思議な力を持っていた。彼女は自然と一体となることが出来、その神秘の力で村はもちろん国を救って来たというのだ。


 私たちはすぐに、その“精霊の花嫁”が同類だということに気付いた。そして、カムイに目をつけられそうだと言うことも。だからすぐさまこの村を目的地として定め、やってきたのだが……。


「……なんか、思ったのと違う……」


「……そうですね。 やはりあの噂は、本当だったということでしょうか」


「……」


 私たちは余りに寂しいその村の様子を目の当たりにして、自然と口数が減った。この村も他の村と同じように、かつては美しい村だったのだろう。しかし今となっては、子供たちはおろか歩いている人すら数えるほどだった。その代わり、やせ細った野犬らしきものが町に出てきて徘徊していた。綺麗な花を咲かせていただろう花壇は、しばらく放置されているのか枯れはてた残骸があるのみだった。そして何より、人々の顔には笑顔も生気も無かった。皆が皆、暗くて不安そうな顔をしていたのだ。


「どうせなら、元の“精霊の村”を見たかったかも」


 私がそう言うと、イザムも全くですと頷いてくれた。


「……それもこれも、“炎の悪魔”の仕業ということか」


「……」


「……」


 オルの言葉に私もイザムも自然と、隣の村で聞いた恐るべき噂のことを思い返していた。



それは泊まっていた宿屋の主人のご好意で、晩酌に混ぜてもらっていた時のこと――。


「それであんたら、こっからどこへ行くつもりなんだい?」


 すでに顔が赤らみ始めている主人は、ジョッキを片手に陽気な感じで言った。


「せっかく緑の国に来たので、美しいと噂の“精霊の村”を見てみたいと思ってい

ます」


 にこやかにイザムが答えると、主人はあちゃあと片手で額を押さえながら言っ

た。


「そいつはまずい! 特にあんた、赤の国のお嬢さんは止めといた方が良い」


「――ごふっ! ……え、なんで!?」


 私は驚いて、思わずむせながら主人を見た。


「ここに来て日が浅いあんたらは知らないだろうけど、“精霊の村”からはきな臭い噂が入って来てるのよ」


「……噂?」


 それまで一人で黙々とオレンジジュースを飲んでいたオルが、ジョッキを置いて会話に入って来た。それに気を良くしたのか、主人のすべりやすい口は完全に私たちに向かって開かれた。彼はジョッキの中身をぐびっと飲み干すと、少し声を低めてその噂を語ってくれた。


「――最初に言っとくが、今から話すのはここだけの話だぞ? 良いか、良く聞け――」


 “精霊の村”とは、緑の国の統治者である“精霊の花嫁”が直接統治する国の中で最も栄えた村である。それが最近、どうにも様子がおかしいのだ。人々は何かに怯える様に暮らしていて、疑心暗鬼になっているという。その原因はずばり――連続放火事件だった。


「ほ、放火!?」


「ああ。 最初に事件が起きたのは、二か月前のことだった」


 それまで平和そのものだった精霊の村で突如、夜中に火事が起こったのだ。幸い火はすぐに消し止められ、怪我人も出なかった。またいくら精霊の村とはいえ今までに火事が起きたことがなかったわけでもないため、これはただの不注意による事故で終わるはずだった。しかし――。


「――俺は見たんだ! 赤い髪の女が火をつけるのを!」


「……!」


 燃える家から助け出されたその家の主人は、全身を震わせながらそう証言した。夜中に自分の家に、知らない女が飛び込んできた。取り押さえ様としたら、突然手から火を出して家を燃やしてしまったのだと言うのだ。


 もし火事がこの一軒で終わったなら、主人の言葉には何の信憑性もなかっただろう。しかしこの事件以降、精霊の村では原因不明の火事が相次いで起きた。そして助けだされた者は皆、こう言うのだ。――赤い髪の女が火をつけた、と。


「……燃えた家の中には、残念ながら逃げ遅れた人もいるらしくてな。 いつのまにかその犯人らしき女には、“炎の悪魔”っていう呼び名までついちまった。 精霊の村の住民は皆、炎の悪魔のことを恐れている。 次は自分の家が燃やされちまうかも――ってな」


「――だから、炎の悪魔を連想させる髪を持つレナさんは行かない方が良いというわけなんですね」


「ああ、そういうこった」


 しかも精霊の村ではついに他国の人間の立ち入り制限に踏み切ったらしいぞ……と付け加え、主人はさっさと自室に引き上げてしまった。彼曰く、すっかり酔いが覚めちまってどうしようもないらしい。


お前らもさっさと寝ろよという主人の言葉に適当に返事しながら、私たちは額を集めてこそこそと相談を始めた。酔いが覚めてしまったのは、私たちも同じだったのだ。


「“炎の悪魔”ですか。 気になりますね」


「うん。 やっぱりカムイが、精霊の村で悪さしてるんじゃ……」


「可能性としては有りますね。 手から火を出すなんて、そうそう出来ることじゃありませんよ」


「……しかし二か月前から放火が始まったということは、あいつは俺と一緒に黄の国にいたはずなんだが……」


「あ……」


「それはそうでした……」


「んー。 ねえオル、カムイって実は瞬間移動とか出来ないのかな?」


「……少なくとも俺は知らないな」


「そっかあ……」


「でも、カムイさんが関わっているかどうかを除いても、この事件気になりませんか?」


「……ああ。 それに――謎の放火犯に対し、“精霊の花嫁”がどう対応しているのかも気になるところだしな」


「そうだよね。 ――“精霊の花嫁”――絶対私たちの仲間に決まってる!」


「……“花嫁”に会うためには、村に入らなければならない」


「問題はどうやって入るか、だよね」


 結局、越えなければいけない問題はそれだった。頭を捻り悩む私たちに、かなり至近距離からあっさりと助けが出た。


「それでしたら、問題ありませんけど?」


「……えっ」


「……!」


 救世主――イザムは悩める子羊たちに、慈悲深い言葉を投げかけた。


「僕に任せて下さい。 きっと上手く行きますよ」


 その後イザムの宣言通り、私たちは無事に入村制限を行っている精霊の村に入ることが出来た。しかし今思えば、この時すでに私たちは炎の悪魔の罠にはまっていたのだった。


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