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開け放った扉の向こうには、ただただ質素な部屋が広がっていた。マスターの持つ明かりは粗末なソファに横たわる人影と、その前で雑魚寝している青年の姿を照らし出した。
「くくっ。 呑気に寝てやがる」
「……なんで護衛がソファで寝てるんだよ」
「さあな。 とにかくさっさと片付けてくれ」
マスターがそう言うと、頭領が手下に合図を出した。
「おい」
「うっす!」
顎で前方を指し示された手下達は、獲物が熟睡していたことで安心して下ろしていた武器を再び構えじりじりとソファに迫っていった。
手下達はまず、薬師の少年に縄を掛け始めた。ぐっすり寝入いっていて睫毛一つ動かさないその顔は、窓からの月光でまるで彫像の様に見えた。
「……男にしとくのが勿体無い顔だな」
「……ごくっ」
「変なこと言ってないでさっさとやれよ!」
「……おう」
こうして哀れなイザムは、縄でぐるぐる向きにされて部屋の隅に転がされてしまった。
「……さあて残りは、護衛の姉ちゃんか」
「さっさと片付けるか」
手下達は毛布を頭から被って寝ている彼女に向かって、ナイフを振りかざした。
「――せーのっ!」
手下達は一斉に、それに向かってナイフを突き刺した。その途端、毛布の下から大量の水が飛び出して、手下達に飛び散った。
「――ぐわ、最悪だ!」
「ほんっと、血まみれになったの久しぶりだぜ」
「くっせ……あれ?」
手下達は体に降りかかってきた液体の臭いを嗅いで、皆不可解な顔をした。そしてはっと気づいて、未だ毛布を被ったままのそれからナイフを抜いて毛布を剥ぎ取った。
「……な、なんだよこれ!?」
そこにあったのは、ずたずたに裂かれた旅行用の鞄だった。




