③
その日の夜。日付もとうに変わり、世界が闇に包まれている頃――。
寂れたパブ「骨と皮」に、謎の集団が訪れようとしていた。
「――よう、マスター」
「……遅かったな」
その集団の頭領らしき男とパブの怪しげなマスターは旧知の仲とでも言うように、軽い感じで挨拶を交わした。
「へへっ! 昨日も遅くまで――いや今日の朝か? とにかく仕事だったんだよ。 本来なら今日は一日食って寝てるところだが、あんたがどうしてもって言うから来てやったんじゃないか」
頭領はニヤニヤと嫌らしい表情を浮かべながら、腰にさしてある特徴的な刀を撫でて言った。彼らはいわゆる、盗賊だった。ここら辺の地域一帯で悪事を働く彼らは、残酷な手口で知られていた。
「……御託は良い。 さっさとついてこい」
マスターはそう言うと、店の奥にある階段に彼らを導いた。
「で、今日はどんな獲物なんだよ?」
「男女の二人組だ」
「は!? たったの二人かよ!?」
頭領はあからさまに、ガッカリした表情を浮かべた。
「そんな儲けの低い獲物、なんでわざわざ――」
「相手は薬師の少年と、護衛の少女だ」
「――!」
大怪我を負うリスクが高い盗賊に取って、薬は必需品だ。しかし薬は非常に高価で、薬師は非常に稀少な存在だ。冗談半分でいつも、獲物にうってつけな奴らの中に薬師が交じってたらなーと言っていたのだがここに来てそれが実現したのである。
「……その二人は今?」
「いつもの様に、酒に眠り薬を混ぜている」
「……前みたいに、飲んでねえって可能性はないだろうな?」
「女の声で、不味いと言っていたのを確かに聞いた。 護衛――所詮は女だが――さえ寝ていれば、何の問題もない」
「……ふははっ」
マスターのしてやったりの声に、頭領は思わず大きな声で笑ってしまった。しかし獲物は深い眠りについているはずなので、聞かれる心配はなかった。どうせ聞かれたところで多勢に無勢、今さらどうしようもないのだが。
すでに勝利が決まっているかの様に、マスターと盗賊達は二階の客室前―― まさに二人が寝ている部屋の前で立ち止まった。其々に獲物を構えているのを確認した後、マスターは合鍵を取り出してガチャリと解錠して戸を大きく開け放った――。




