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不死鳥の乙女  作者: ren
番外編
24/87

 主人に渡されたメモに書いてあったのは、骨と皮というパブの住所。おすすめしない理由は、扉を開けた瞬間に分かった。


「……」


「……」


 ボロボロの扉の向こうには、外見と似たり寄ったりに酷い部屋があった。剥げ落ちた壁、埃だらけの床。正直な話、馬小屋の方がよっぽど清潔だった。


 余りの惨状に言葉をなくして茫然と佇む私たち――。その前に、ようやく奥からやってきたマスターが現れた。


「……いらっしゃいませ」


「……」


 その人物は全身をすっぽりと覆う黒色のローブを身に付けた、いかにも怪しそうな者だった。ごくっと唾を飲む私の隣で、イザムはかなり気をされた顔をしながら言った。


「今晩、泊まる部屋が欲しいのですが 」


「……上に個室があります。 着いて来て下さい……」


 そしてこちらを振り替えることなく、すっと今にも崩れ落ちそうな階段を滑るように登って行った。私たちは顔を見合わせたが、今さら仕方ないと荷物を抱えてマスターの後を追った。


 通された部屋は泊まるというより、賭博にでも使われそうな部屋だった。ガタガタの机と、粗末なソファーが置いてあり、ベッド等はなかった。


 私たちが荷物を置いて溜め息をついていると、案内を終えるやさっと消えてしまったマスターがビールジョッキを持って現れた。


「えっと、私たち頼んでな――」


「……サービスだ。 ここは飲み屋だからな」


「あ、ありがとうございます……」


 そのビールらしきものはお世辞にも、美味しそうには見えなかった。


 マスターが再び去ってから、私はせっかく持ってきてくれたことだし……と一口飲んで後悔した。


 それはもう、泥だった。


「……ぐえっ」


 見かけ以上の酷さに吐きそうになっている私の隣で、イザムは荷物の中から毛布を引っ張り出していた。彼は始めから、ビールを飲む気はなかった様だ。


「はい、レナさん」


「……ありがと」


「今日はもう、寝ましょう」


「……うん」


 本当はお腹に何かを入れたかったのだが、ビールがこの味では下に行ってもましな物は出ないに違いない。


 諦めて私は虫食いだらけのソファーの上で。イザムは床の上で横になった。


 色々疲れていた私たちの意識は、灯りを消すとほぼ同時に失われたのだった。

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