②
主人に渡されたメモに書いてあったのは、骨と皮というパブの住所。おすすめしない理由は、扉を開けた瞬間に分かった。
「……」
「……」
ボロボロの扉の向こうには、外見と似たり寄ったりに酷い部屋があった。剥げ落ちた壁、埃だらけの床。正直な話、馬小屋の方がよっぽど清潔だった。
余りの惨状に言葉をなくして茫然と佇む私たち――。その前に、ようやく奥からやってきたマスターが現れた。
「……いらっしゃいませ」
「……」
その人物は全身をすっぽりと覆う黒色のローブを身に付けた、いかにも怪しそうな者だった。ごくっと唾を飲む私の隣で、イザムはかなり気をされた顔をしながら言った。
「今晩、泊まる部屋が欲しいのですが 」
「……上に個室があります。 着いて来て下さい……」
そしてこちらを振り替えることなく、すっと今にも崩れ落ちそうな階段を滑るように登って行った。私たちは顔を見合わせたが、今さら仕方ないと荷物を抱えてマスターの後を追った。
通された部屋は泊まるというより、賭博にでも使われそうな部屋だった。ガタガタの机と、粗末なソファーが置いてあり、ベッド等はなかった。
私たちが荷物を置いて溜め息をついていると、案内を終えるやさっと消えてしまったマスターがビールジョッキを持って現れた。
「えっと、私たち頼んでな――」
「……サービスだ。 ここは飲み屋だからな」
「あ、ありがとうございます……」
そのビールらしきものはお世辞にも、美味しそうには見えなかった。
マスターが再び去ってから、私はせっかく持ってきてくれたことだし……と一口飲んで後悔した。
それはもう、泥だった。
「……ぐえっ」
見かけ以上の酷さに吐きそうになっている私の隣で、イザムは荷物の中から毛布を引っ張り出していた。彼は始めから、ビールを飲む気はなかった様だ。
「はい、レナさん」
「……ありがと」
「今日はもう、寝ましょう」
「……うん」
本当はお腹に何かを入れたかったのだが、ビールがこの味では下に行ってもましな物は出ないに違いない。
諦めて私は虫食いだらけのソファーの上で。イザムは床の上で横になった。
色々疲れていた私たちの意識は、灯りを消すとほぼ同時に失われたのだった。




