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不死鳥の乙女  作者: ren
麒麟の申し子
22/87

「オル、起きて」


「オル君、起きて下さい」


「……」


 私たちの声に、オルは僅かに睫毛を揺らした。


「オル!」


「……ん」


 まるで現実などもう懲り懲りだとでもいうように、少年の意識はなかなか浮上してこなかった。


「オル、もう起きても良いんですよ」


「オル君ー」


「……うるさい」


 必死に呼び続ける、私たちに。少年は迷惑そうに唸りながらも、ついに完全に目を覚ました。


「気分はどうですか、オル君?」


「……最悪だ」


 オルは顔をしかめて、私たちに言った。それもそのはず、少年は全身骨折だらけで、包帯でぐるぐる巻きにされているのだから。だが原因は、それだけでは無かった。


「……俺は死に損なったのか」


 ゆっくりと現実を受け入れながら、少年は呟いた。


「当たり前よ!」


「お節介は承知の上で、僕たちがあの村から君を連れ出しました」


「……」


 笑顔で答える、私たちに対し。苦い顔をしながら、少年は唸った。


「……村人は黙っちゃいないだろう」


「ぶっちゃけて言うと、オルのことを気にしてる余裕も無いのよ」


「彼らもまた、餓死寸前でしたからね」


「……だが、どうやって……」


 納得出来ないオルに、私たちは至極簡単に説明した。


「稲の村に助けて貰ったんです。 目一杯のおにぎりを持って、僕たちは再び卵の村に向かいました」


「凄かったよ、皆。 あんまり食べたらお腹壊すからって、止めるのが大変だったんだから」


「……そうか」


 オルはホッとした様な、悔しそうな顔を見せた。


「……それで、ここはどこだ?」


 立派な木目の天井を見上げながら、少年は聞いた。


「稲の村の、村長さんの家の座敷です」


「……それは、不味いだろ」


 オルの言う通り、状況は非常に悪かった。世間的には稲の村が、鬼に支配されていた卵の村を救ったこ

とになっている。その村長の家にこっそり鬼が匿われていることが分かれば、オルも、私たちも、協力してくれた村長夫婦も窮地に陥ってしまう。 


「一応、オルの目が覚めるまで、って約束なの」


「夜が明けるまでに、ここを離れなくてはなりません」


 まるで盗人みたいですね、とイザムは笑った。


「……」


 オルは何か言いたそうに口ごもった後、無理やり起き上がろうとした。


「ちょっと、まだ寝ていないとーー」


「……問題ない」


 私は慌ててその肩を押さえようとしたが、少年はどうにか上体を起こしてしまった。


「……何故だ」


「え?」


「……何故そうまでして、俺を助けた?」


 低い声で、凄むオル。私たちは思わず顔を見合わせた後、笑いながら理由を語った。


「オルと一緒に旅をしたかったから……かな」


「白い男を追う為には、オル君と一緒にいた方が良いと思いまして」


「……」


 あくまでも自分本位の話をする私たちに、少年は言うべき言葉が見つからない様だった。そんな少年に、イザムが駄目押しをした。


「今度こそ、一緒に来てくれますね?」


「……好きにしろ。 どのみち、他に行く当ても無い」


 そう言って、そっぽを向くオル。今度はイザムが、少年をそっと抱きしめた。


「君に生きて欲しいと願った僕たちには、責任があります」


「これからは私たちに頼って良いんだからね!」


「……」


 少年は何も言わなかったが、僅かに頷いた気がした。


 ――出会い方は最低だったけど……。


 私は、心の中で安堵の溜息を吐いた。


 ――私たち、きっと上手くやっていける。


 それは直感であり、確信であった。理由は説明できないが、イザムと会った時にも似た感情が芽生えていたのだ。まるで長年連れ添った友と話している様な、安心感が。


「……それで、俺たちはどこに行くんだ?」


 ほんのり赤くなったオルは、自分からイザムを剥がしつつ言った。


「僕たちが目指すのは、緑の国です」


「じゃあ早速、準備しなきゃね」


 私がそう言いながら立ち上がると、イザムとオルは、顔を見合わせて笑った。新しい旅の始まりは、もうすぐそこで私たちを待っているのだった。


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