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不死鳥の乙女  作者: ren
麒麟の申し子
19/87

「イザム、しっかりして!?」


 イザムが私を庇って、少年に刺されたのは明らかだった。


 ――どうしよ、私のせいで、イザムが……!


「これぐらい、大丈夫です……それより少年達は……」


 腹を押さえつつ、真っ青な顔でイザムは言った。


「……ううう」


 少年に付着しているのは、恐らくイザムの血だ。それにも関わらず、少年は頭を抱えてその場に座り込んだ。


「……おい!」


 私の背後から、苛々とした声が飛んでくる。


「……何やってんだ」


「……すまない」


「……お前はもう、休んでろ」


「……悪い」


 そう言い残し、血まみれの少年はポンという音を残して私たちの視界から消えた。


「何が、どうなってるのよ!?」


 私はイザムを支えつつ、少年に叫ばずにはいられなかった。しかしそれに答えたのは、俯いたままのイザムだった。


「……血、ですよ。 麒麟は本来、穢れを嫌う生き物……。 血を浴びるなど、耐えられるはずがありません」


 あくまで冷静なイザムに、少年は神経を逆なでされた様だった。


「……それがどうした?」


「二対二が、二対一になりました……。 これは、大きい……ですよ」


「……二対一? 笑わせるな。 お前はもう、動けない」


「ふふ。 これくらいの怪我、すぐに治してーー」


「もう良いよイザム、喋らなくて良いから!」


 私は、涙ながらにそう言った。頭の中は、後悔と混乱で一杯だった。しかし彼は、無理に笑って見せるのだった。


「問題ありません……。 レナさん。 これで勝機はこちらに……」


「そんなのどうだった良いよ! 私は、イザムさえ無事ならーー」


「――良くありません!」


 突然イザムが、大声を出した。私はびっくりして、思わず口を閉じた。


「どうか落ち着いて、レナさん。 もう、あなたがやるしか、無いんです!」


「――!」


 ――私がやるしか、無い……!


 イザムの言葉は、私の頭に直接響いた。


 ――そうよ。 ここで狼狽えている場合じゃ、無い。


 ゆっくりと、朝日が昇って行く様に。私は今ようやく、心が追い付いてくるのを感じた。


「イザム、教えて」


「――!」


 私は不死鳥の剣を持つ手に力を込め、彼に言った。


「あの子を、止める方法を」


 ――もう、迷わない。


 決意を込めた目でイザムを見ると、彼は青白い顔で力強く私を見つめ返した。


「勿論、です」


 そう言って彼は、取っておきの秘策を私に囁いた。


「イザム、これってーー」


「大丈夫、です」



 血の気の引いた、青い唇でそう囁いたイザム。私は彼をそこに残し、静かに立ち上がった。


「……お前もすぐに、水龍の元に送ってやる」


 口元を歪めて笑う少年に、私は涙を拭いて叫んだ。


「そんなことはさせない! 二人であなたを倒す!!」


 そのまま、私は自分から少年に向かって突っ込んでいった。


「――うおおおお!」


「……!」


 振り上げた剣は、当然の様に少年に受け止められた。しかし、これで終わりではない。


「――解き放たれよ、炎の矢!」


「……!」


 手加減無しで放たれた技に、少年は真後ろに回転しながら距離を取らざるを得なかった。


 ――炎は、弱くてもあの子に怪我させちゃうから出せなかった。でもーー。


「……やっと本気になったという訳か」


「――喋ってる余裕あるのかしら!?」


 私は少年に休みを取らせる間も無い程、激しく剣を振るった。少年は簡単に受け流している様に見えて、その息が段々乱れてくるのを私は見逃さなかった。


「――これで終わりよ!」


 少年が私の剣をはじくのが、少し甘くなった瞬間。私はとどめを刺すべく、剣を大きく振りかざした。


「……孤高のーー」


「――押し流せ、轟音の濁流!」


 後ろで倒れていたはずのイザムが、技を放った。横に飛びのいた私に対し、それをまともにくらった少年は、背中から吹っ飛んだ。


「ありがと、イザム!」


「どういたしまして……」


 荒い息ではあるが、イザムは私にしっかり微笑みかけた。先の耳打ちは、これを仕掛けるためだった。


「麒麟君が雷を出そうとしたら、僕が水を出します。 レナさんは水しぶきが掛からない様、逃げて下さい。 ……例え麒麟君と言えど、全身ずぶ濡れでは自分も感電してしまいますからね」


「これでもう、雷は使えない。 そしてーー」


「……」


 巨大な水たまりの中心で、今まさに立ち上がろうとしている少年。私はそこに向かって、大きく剣を振った。


「――沸騰させよ、火山の炎!」


「――飛び出せ、山林の鉄砲水!」


 私たちの技は少年に向かう間に合わさり、そこからは大量の蒸気が生まれ出た。


「……熱っ!」


 蒸気の波に襲われ、少年は腕で顔を覆った。そこに、技を出してすぐに走り出した私が襲い掛かる。


「――うらあああ!」


「……!」


 私はもう、剣など使っていなかった。ただただ助走をつけて飛びあがり、少年の額を左足で思いっきり蹴った。


「……うぐっ」


 少年は吹っ飛び、地面に後頭部をぶつけて動かなくなった。


「決まったよ、イザム!」


「さすがです、レナさん!」


 私は少年を放って、慌ててイザムの元に駆け寄った。


「あんなに無理して、大丈夫!?」


「ええ。 もう、力を出し惜しみしなくて済みますしね」


「――え?」


「うう……。 癒せ、水龍の光」


 イザムがそう言うと、彼の手からはじんわりとした光が漏れだした。


「幸い、臓器には達していませんし。 今はこれで、どうにか」


「とりあえず良かった……」


 良く分からないが、イザムがそう言うなら信じるしかない。私は彼の腕を肩に回して立たせ、仰向けに倒れている少年に一歩一歩近づいて行った。


「……うっ」


 少年は、すでに意識を取り戻していた。しかし額という急所を突かれており、簡単には動けない様だった。


 ――吟遊詩人さん、ありがとう。


 ここにはいない誰かに感謝しつつ、私とイザムはゆっくりと少年の近くに腰を下ろした。


「……くっ。 さっさと、とどめをさせ……」


「そんなことはしません。 ですが、少しお話しましょう」


 呻くことしか出来無い少年に、イザムはニッコリとほほ笑んだのだった。



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