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不死鳥の乙女  作者: ren
麒麟の申し子
18/87

 一方のイザムは、初めから窮地に陥っていた。


「うわっ、ちょっ、待っ」


「……つまらん」


 イザムは元々、刀を握る習慣など無かった。旅を始めてから軽く手合わせぐらいはしていたものの、少年はそんな付け焼き刃でどうにかなる相手では無かった。


「……孤高の雷!」


 少年はさっさとけりをつけたかったのか、戦い始まって早々に雷技を繰り出した。


「――っ」


 寸でのところで直撃を躱したイザムに、少年はピタリと動きを止めた。


「……お前、俺の雷が見えているのか」


「ええ、まあ。 ……ギリギリですが」


 額の汗を拭きつつ、イザムは答えた。


「……流石、水龍の遣いと言ったところか」


 少年はそう言って、愉快そうに笑った。


「それは否定出来ませんね」


「……ふっ」


 それが合図だったかの様に、少年はイザムに突進した。


「あ、待って下さ-――」


「……馬鹿か」


 いくら良い目を持っていても、相手の動きについていけなければ意味が無い。イザムは防戦一方で、次第に息も上がって来ていた。


「……ふふ。 こんなところか」


「――っ」


 少年の短剣が、少し重くなった。たったそれだけで、イザムはよろけた。


「……孤高のーー」


「――浴びよ、陽気な水遊び!」


 少年の雷が飛んでくる前に、イザムは今まで一番早口で技を繰り出した。小刀から迸った少量の水は、少年を頭からずぶ濡れにした。


「……」


「雷は、そう簡単には出させませんよ?」


 そう言いながら、イザムは小刀を握り直したのだった。



「イザム、どうしよ!?」


「はい!?」


 それぞれに同じ少年と戦っていた私たちはいつの間にか、背中合わせになっていた。すでにイザムが肩で息をしているのを感じつつも、私は叫ばざるを得なかった。


「――あの子、雷使うの!」


「――はい」


「――私が不死鳥の乙女って知ってるの!」


「――でしょうね」


「――てことは、あの子の正体ってーー」


 一呼吸置いて、私たちは同時に叫んだ。


「――鬼!」


「――麒麟!」


 少年達はそんな私たちを見て、一時動きを止めた。


「……」


 私は思わず戦いそっちのけで、イザムにくってかかった。


「あの子が麒麟な訳ないでしょ!? だって、麒麟って、優しくて、慈悲深くて……争いごとは嫌いなんじゃないの!?」


「色々不可解ではありますが……。 雷を出せる人なんて、そうそういませんよ?」


「え、でも、鬼って雷を操るんじゃなかった?」


「あの少年は麒麟であり、鬼でもあるんです!」


「え……!?」


 イザムの説明は最早理解の範疇を超えてしまって、私は頭が痛くなってきた。そんな私の目の前にいる少年は、溜息を吐きながら言った。


「……話は終わったのか?」


 ――そうだ、途中だった……!


「まずは、この状況を打破することが先決です!」


「う、うん!」


 改めて私は、意識を少年達とイザムに向けた。


 ――イザムは多分、そろそろ体力的に限界。 私は……本気で命を取りに来ている相手に、このままズルズル勝負するのは危険過ぎる。 ならばーー。


「――イザム、協力しよう!」


「それ、僕も言おうと思ってたとこです! まずはーー」


「……孤高の雷!」


「――!」


「――!」


 私の正面、イザムの背後から飛んできた雷は、私たちがまさに立っていた地面を直撃した。


「……いつまでも待たせるなよ」


「くそっ!」


 私は堪らず、悪態をついてしまった。なんとか二人とも回避出来たものの、体勢は滅茶苦茶だった。


「……そして注意力が無い」


「――!」


 私は正面の少年を見ながら、すぐ背後から振り下ろされる短剣の音を聞いた。


「……まずは、お前からだ」


 ――しまった!


 私は来たるべき痛みに備え、歯を食いしばった……が。痛みどころか、衝撃すら、私は感じなかった。


 ――……え?


 恐る恐る背後を振り返ると、そこにいたのはーー。


「――!?」


 両手を大きく広げ、私に背中を向けているイザム。その肩越しには、血まみれの少年がいた。そしてその両手には、束まで紅くなった短剣が握られていた。


「い、イザム……?」


「……」


 彼は何も言わず、その場に崩れ落ちた。


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