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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

世界で一番の王様と本物の宝

作者: 官田和巳

昔、あるところにひとりの王様がいました。


王様は世界で一番のものをたくさん持っていたので、世界で一番の王様だと言われていました。


王様は世界で一番とたたえられるほどの美しく長い金の髪と青い瞳を持っていました。

王様の姿を一目見たものは、そのあまりの美しさにおとぎ話の天人が下りて来たのかと、誰もが声なく見惚れるほどでした。


王様は世界で一番の大きな国を持っていました。

王様の国は世界で一番歴史が古く、領土が大きく、そのため国力も世界一で、周りの国々はどこも王様の国にはかなわないほどした。


王様は世界で一番の軍隊を持っていました。

その軍隊は国力に見合っただけの大きなもので、人数も武器の数も、精度も世界で一番でした。


王様は世界で一番のお城に住んでいました。

その古い歴史と高い文化にふさわしい、どのお城よりも大きくて立派なお城でした。

お城の中には世界で一番美しく価値ある調度がそろっていて、世界で一番数多くの宝物であふれかえっていました。


王様は世界で一番残忍な王様でした。


世界で一番のものをこんなにたくさん持っているのに、いつも心が渇いて渇いて仕方がありませんでした。

どんなに立派な宝物を手に入れても、いつも何かが足りません。

その何かこそ、きっと『本物の宝』に違いないと王様は考えました。


そのため、王様は世界で一番と言われる宝物があると聞けば、それがどこであろうと、どんなことをしても手に入れました。


世界一の宝石があると聞けば、その宝石がある、帰る人のいないという恐ろしい森にたくさんの人をやって取りにいかせました。


世界一の馬があると聞けば、親子の絆よりも強く結ばれた飼い主を殺して手に入れました。


世界で一番の書庫があると聞けば、その書庫を守る学士たちを全員殺して手に入れました。


世界で一番の美女がいると聞けば、その夫を殺して手に入れました。


世界で一番の山があると聞けば、その山のある国を攻め滅ぼして手に入れました。


けれどどんな宝物を手に入れても、王様が満足することはありません。

宝を手に入れれば手に入れるほど、足りない気持ちが強くなるのです。

『本物の宝』が手に入らない怒りはそのためますます強くなり、王様は日ごとに残忍さを増していきました。


宝がある先の人々は皆殺しです。

宝を奪いにくるかもしれないし、宝のことを知っている人間を残しておくこともできません。


最後に手に入れた山の中に、世界で一番賢く強い魔力を持っているという魔女たちの村がありました。

もちろん王様はその村で一番強い魔女をひとりだけ残して、あとの人々は全て殺し、村は灰も残らないほどに焼きつくしました。


けれど王様の心の渇きが癒えることはありませんでした。

王様は激怒して魔女に言いました。


「お前は世界で一番賢く、魔力の強い魔女だ。

本物の宝を教えろ」


魔女はすぐに答えて言いました。


「この水晶の玉をのぞけば、そこに本物の宝が見えます。


その宝はどれほどの金銀財宝や美貌や力をもってしても、必ず手に入るとは限らないものです。

その宝はどんな人間も虜にして、喉から手が出るほどに渇望せずにはいられないものです。

その宝はどんなものにも代えることのできない、唯一無二のものです」


王様は魔女から水晶の玉を奪い取って、その中をのぞいてみました。

するとそこには美しいひとりの娘がうつっていました。


「この娘が本物の宝だというのか。

居場所を教えろ」


魔女は水晶の中の娘を一目見ると、気が狂ったように笑いだしました。

その笑い声に王様は激高して魔女に命じました。


「この娘を手に入れろ!」


「私は宝を教えろといわれたから教えただけだ。

手に入れろという命令は聞けない。

そもそもこの娘を手に入れることなど、例え天人であろうと絶対にできないことだ」


「それ以上そのような口をきけば、お前を殺してやる」


「好きにするがいい」


「このような小娘が本物の宝なわけがない。

余をだますような愚か者が楽に死ねるなどと思うな。

手足を切り落とし、目玉をくり抜いて地下牢に入れろ。

苦しむだけ苦しめ」


しかしどうしたことでしょう。


水晶の玉をのぞいたその日から、王様はひどく苦しい胸の痛みを覚えるようになりました。

それは今まで経験したことのない、つらく苦しい痛みでした。


そしてその痛みは不思議なことに、水晶の玉の中の娘を見ると強くなるのです。

水晶を見ないようにすると、ますます苦しくなり、夜も眠れません。

しかし水晶の中を見ればより一層痛みは増し、つらくなるのです。


これは魔女の呪いにちがいないと考え、王様は地下牢の魔女の元へ行きました。

呪いを解けば牢から出してやると言う王様の言葉に、魔女は笑いました。


「確かにそれは私の呪いだ。

だが私にも、その呪いは解くことはできない。

呪いを解くには水晶にうつった『本物の宝』を手に入れる以外に方法はない」


「宝はどこだ?

在り処を教えろ!」


「例え天人であろうとそれを手に入れることはできない」


「偽りを申すな!」


魔女はもう人間のものとは思えない、世にもおそろしい声を出して笑いました。


「その娘は私の妹だ。


お前が殺した魔女の村の者のうちのひとりだ。

妹は私の目の前で槍でつかれ、剣で切り刻まれ、村に放たれた火の中で燃えていった。

もうこの世のどこにもいない」


魔女はその言葉を最後に息絶えました。


王様の手から水晶の玉がすべり落ち、地下牢の床の上に砕け散りました。

王様はその場に膝から崩れ落ちました。

そして自分でも理由が分からずに、地下牢の石の床に這いつくばって、水晶のかけらを拾いつづけました。



  *    *



やがて周辺の国々は連合を組み、一気に王様の国へ攻め込んできました。

四方から一挙に押し寄せてくる軍勢に、さすがの世界一の軍隊もかなわず、都は数日で陥落しました。

攻め滅ぼされようとするお城の中で、世界で一番残忍だった王様の元に駆けつけてくる家来はひとりもありませんでした。


世界で一番美しく立派な玉座の間に兵士たちが押し寄せてきたとき、王様は玉座にうずくまるように座ったまま、何かを抱え込んでいました。

何本もの槍に体を貫かれ、王様の腕から零れ落ちたのは、粉々になった無数の水晶のかけらでした。

王様の体はさらに剣で切り刻まれ、首を切り落とされました。

お城に放たれた火の中で、首から下の王様の体は灰も残さずに燃えていきました。


その後、町中に首がさらされました。

世界一の王様だったその首は、ひどく虚ろで、けれどもひどく哀しい顔をしていたということです。



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