第3話 歴史
このあたりに本当に来たことあるっけ……。
小さいころにここに来たことがあるって聞かされたけど、そんなこと憶えていない。
だってあの頃は赤ちゃんだったときのことだから。
昔のこのあたりの写真を見せてもらったことがあるけど、その写真の景色と
今のこの景色とは全然違う。再開発とかいろいろ進んでいたのかな。
そういえば見せてもらった写真は、工事が途中のところが多かったような憶えが。
あの時はすごかったらしいから、今の景色を見ると復興した、ということなのかな。
確か、晴香お姉ちゃんが佐々木のおじさんにお世話になる前の話だったっけ。
佐々木のおじさん曰く、あのときはしんどかったそうだ。
電気・ガス・水道・電話などのライフラインは寸断されるし、公共交通機関は不通になるし、建物は崩落するし、その崩壊した建物のせいで道路は寸断されるし、液状化現象も起きたそうだ。
話はいろいろと聞かされている。それは晴香お姉ちゃんも、僕も例外じゃない。
「晴香お姉ちゃん、よくここだってわかったね」
疑問に思ったことを伝えてみる。
「そりゃあわかるよ。このあたりにあるのはここしかないからね!」
そういうと晴香お姉ちゃんは、駅舎の方へと指差す。
『新諏訪駅 - Shin Suwa station - 』
そう書かれてあった。
「さすが晴香お姉ちゃん!このあたりのことはわかってるね!」
「そ、そんなことないよ……」
珍しく晴香お姉ちゃんが照れてる。照れてる晴香お姉ちゃんかわいいっ!
「晴香お姉ちゃんかわいい!」
直観で感じたことを晴香お姉ちゃんに言ってみる。
「わー! わー! わー!」
大きい声を出して照れを隠そうとする晴香お姉ちゃんは、やっぱり昔とは変わっていなかった。晴香お姉ちゃんらしいや。
――― ――― ――― ――― ―――
そういえば……。
「ねぇ、晴香お姉ちゃん」
「んー?」
晴香お姉ちゃんらしい返事が返ってきた。
「場所までは伝えてなかったけど、よくここだってわかったね」
ずっと気になっていたことを、今この場で晴香お姉ちゃんに聞いてみる。
「まぁ、この辺で大きな駅ってここしかないし、瑞穂は人ごみが苦手だろうから新幹線で来ると思ってたのよ」
さすが晴香お姉ちゃん。僕のことはよくわかっているらしい。
「実際、ここまで来るのにずっと座っていられるのと、楽なのは新幹線しかないと思っていたからね」
うっ……、確かに。
「在来線とかだと乗り換えが大変なはずだからね」
うっ……。何も言い返せないのが悔しい。
「まぁ、経路にもよるけど、在来線を使った方が早いときもあるけどね」
……ふーん。 ……って
「えっ!? そうなの!?」
「なんでそんなに驚いているの?」
晴香お姉ちゃんは僕の反応に驚いているみたい。
でも……、知らなかった……。晴香お姉ちゃんに前もって聞いておくんだった……。
ちょっと後悔。でも、今さら後悔しても変わらないか。
新幹線の方が楽だったし、在来線は、あまり使いたくない。
「もしかして瑞穂……」
あっ。いけない。ついはしゃいでしまった。
「あっ…… ごめんなさい……」
何を思ったのか晴香お姉ちゃんは、僕の頭を撫で始めた。
「……ありがと、晴香お姉ちゃん」
やっぱり晴香お姉ちゃんに頭を撫でられると落ち着く。
晴香お姉ちゃんと一緒に居ると、なんだか元気になる。
僕の大切な人。ずっと一緒に居たいな……。
「よしっ、瑞穂。そろそろ行こっか。ちょっと雨脚も強くなってきたみたいだし」
『バサーッ』
あっ、本当だ。晴香お姉ちゃんの言うとおり、さっきより雨脚が強くなってきている。
「あっ、うん。そうだね」
本当はもうちょっとお話しておきたかったんだけど、今のこの身体はいろいろなことに気を遣わないといけない。何しろこの身体は他の人より弱いのだから。
『晴香お姉ちゃんと一緒に歩いてる』ということを感じておきたかったので
一緒に歩き始める前に、晴香お姉ちゃんと手を繋ごう。
そう思って手を差し出す。恥ずかしいので、そっぽを向く。
「やっぱり瑞穂はかわいいね!」
あっ、またはじけた。
「う、うるさいっ!」
……多分今の僕の顔は真っ赤だと思う。自分でもわかるほどに。
だって顔の周りが熱いんだから。
「さっ!行くよ!」
晴香お姉ちゃんが走り出す。
「あっ! ちょっと待ってよ晴香お姉ちゃん!」
置いて行かれるのは嫌なので、晴香お姉ちゃんに追いつくように僕も走り出す。
そして気付かれないように、そっと手を繋ぐ。
晴香お姉ちゃんは、何も言わず繋いだ手を握り返してくれた。
……ありがとう、晴香お姉ちゃん。ずっと一緒に居ようね。