第一歩
初めて長いものを書き上げたときのものをあげてみようと思います。
完結していますが、徐々にあげていきます。
時は10月。人は皆この月を旧暦で『神無月』と言う。
だがとある場所では『神無月』ではなく『神在月』とされている。
所以などは多々あるが有力な説としてその場所では『縁』に関する会議が開かれ、そのために全国の八百万≪ヤオヨロズ≫の神々が集まるから、というものがある。
これはそんな『神在月』に起こった『縁』にまつわるちょっとしたお話。
大鳥居の前で俺は深呼吸をする。
「ここが出雲大社か」
目の前に広がる神聖な空気が俺の心を浸食していく。
「今日からここで仕事するんだよな」
今でもこれが現実かどうか疑ってしまうほどだ。だが俺の胸にくっ付けられているプレートに書かれた俺の名がこれは現実だと伝えてくれる。
「奈良県代表……か」
そう。俺は奈良県代表なのだ。つい先日任命されたばかりだが、仕事はきっちりやってやろう、そう誓ってきた。
「そんじゃ一つお仕事開始といきますか」
気を引き締めなおして一歩を踏み出す。
その一歩は俺の伝説の始まり。
そんなことは夢のまた夢であったことを数秒後に思い知らされるのであった。
「なんじゃこりゃ~!?」
ありきたりなツッコミと思いながらも神聖――――などではなく淀みきった空気に俺は声を上げる。目の前に広がる光景。それは『娯楽』を現実≪リアル≫に表したようなものであった。
「こんな…………こんなことがあってたまるかよ」
怒りが体を突き抜けていく。そして脳天に到達する寸前、隣で叫び声を上げる神がいた。
「なによこれ~!?」
俺と同じような言葉を言っている。そのことに俺は親しみを感じ、隣を見た。ボーイッシュな髪形に黄色い半そでのTシャツ。そしてショートパンツにスニーカー。元気ハツラツ、夏到来などといった言葉を具現化したかのような女の子がそこにはいたのだ。そんな姿を眺めていると急に俺の方を振り向いて話しかけてきた。
「こんな光景ひどいと思いますよね!?」
「あっ、あぁ。そうだな」
突然のことに戸惑いながらも何とか受け答えをする。
「全く。こんなんじゃ、みんなで集まって会議なんてする意味がないじゃない!」
「へぇ。なんだかだいぶ気合入ってるんだな」
「えぇ。なにせ私、京都府代表の神ですから」
そう言って胸につけてあるプレートを見せてくる。
「あんた京都府代表なのか」
「はい。今年初めてこの出雲大社の集まりに参加するのに選ばれちゃって。でも選ばれたからにはしっかりやろう。そう誓って来たんです」
「奇遇だな。俺と全く一緒じゃないか」
「え? それってどういう――――」
彼女の言葉を遮るかのようにして俺は自分のプレートを見せつける。
「『奈良県代表・一神敬護≪イッシンケイゴ≫』って。あぁ!! あなたも代表なんですか」
「まぁな。それに俺もここに来るのは初めてだ」
「それって……。ホントに同じなんですね!!」
「あぁ」
親しみを感じたのもこういった似た雰囲気があったからかもしれない。そんなことを思いつつ相手のプレートを見る。
「『京都府代表・天原雫≪アマハラシズク≫』か」
「はい。よろしくお願いしますね、一神君」
「あぁ。だけど敬語はやめてくれよ、天原」
「え? あ、そっか。私たち同期だもんね」
「そういうこと。じゃ、よろしくな」
そう言って俺はその場を離れようとする。
「どこ行くの?」
「え? どこって、静かな所に」
「この空気どうにかしようと思わないの?」
そういえば俺は最初この空気に怒り心頭だった。だが、なぜだか今はめんどくさいと思っている。
なぜか? 考えなくとも分かる。
「天原が何とかするだろう?」
「そりゃもちろん」
「じゃあ、俺はいらないな」
「うん! …………ってそんなわけないじゃない!! ちょっと、勝手に行こうとしないで~」
「だって「うん」って言ったじゃないか」
「言ったけど、冗談だって」
「ったく、わかったよ」
そう言って折れたフリをする。
「じゃあ、ちょっと手伝って」
天原の手が離れる。その瞬間を俺は狙っていた。
「任せたぞ、天原!!」
そして全力でダッシュ。
「えっ? ちょっと、一神君!?」
後ろで俺を呼ぶ声が聞こえるが完全に無視する。振り返ったらめんどうごとを手伝わされるに違いない。
「一神君!! もぉ~!!! 覚えときなさいよ~!!!!」