第51話 「四つに分かれた街の階級制度」
「魔法さ」
おばさんが断言する。
「魔法? それだけなの?」
セロンは食い気味に訊いて、おばさんの方に近づく。
「そうさ。魔法が使えるかどうか。それも、より強力な魔法が使えるかどうかで、階級が分かれるのさ」
「階級?」
「この街の人々は、皆、一人一人、階級が決まっているのさ。ほら、街の人達の胸元にバッチが付いていなかったかい?」
セロンはハッとした。
「見かけたことあるだろう? 階級をバッチによって、区別しているんだよ。全部で分けると四つさ。平民は【銅の丸バッチ】、並の貴族は【銀の星バッチ】、上級貴族は【金の星バッチ】、そして、街長は【虹の星バッチ】。これらのバッチは、特段の事情が無ければ、常に胸辺りに付けていなければいけないのさ」
セロンは、今まで会った街の住民が付けていたバッチを思い出した。街に来て、初めに会ったグロウ族の人は、たしか【金の星バッチ】を付けていた。宿舎のおじさんは【銅の丸バッチ】、貴族から逃げて来た男性と、階段の下で会ったおじさんは、【銅の丸バッチ】だった。追っかけて来ていた感じの悪い貴族の人は、【銀の星バッチ】。時折見かける街の人は、【銅の丸バッチ】だった。そして、街長ランデールは、【虹の星バッチ】と【金の星バッチ】をローブの胸に付けているのを、チラリと見た気がする。
うん? でも、公園で会ったグロウ族の女の人は、何もつけていなかったような……。セロンは、どういう訳なのだろうかと思いながら、おばさんの方を見上げると、おばさんもバッチを付けていなかったので、首を傾げた。後で訊いてみようかなと思った。
おばさんの話は続いた。
「平民は、魔法を使えない証である【銅の丸バッチ】で、貴族は、魔法力が高い方が階級が上になってるのさ。平民は、魔法には一切抗うなんてできない。貴族に従うしかないのさ」
「だけど、だからって、何でもしていいなんて、残忍じゃない? 人って、こう、もっと思いやりがあるんじゃないの?」
「人ってのは力を持つと思い上がるものなのさ」
反論したい気持ちはあるが、言葉は何も出てこなかった。前の街では、おばさんが言った通り、立場が上の者は、比較的高慢な人が多かった気がした。
「けど、今の体制のままなら、魔法使えない平民は酷い仕打ちにあうんでしょ? どうにかできないの?」
「ランデールが街長として君臨している限りどうしようもないさ。そして、そのランデールは、平民に利がある話なんて聞く耳持たないさ」
「そんな……」
セロンはいたたまれない気持ちになり、視線を落とした。しかし、すぐに思いついた。
「街の人々が消えるっていう問題を解決すれば、わだかまりが解消されるんじゃない? 貴族の人も消えてるんでしょ? それに、いずれにしても人が消えちゃうなんて、どうにか解決しないといけないよ」
「なんだ? 解決したいのか?」
あっくんが異議がありそうな微妙な顔をしてる。
「したいよ。街の皆を助けないと」
「そうか……」
「あら、情け深いのね」
「世界一優しい竜を目指してるからね」
セロンは堂々と答えた。
「それなら、ここから別行動になるな」
「どうして?」
「俺は、優先してPマナリスを探さなければいけないからだ」
「あー、なるほど」
「それなら、俺は、先に行くぞ」
淡々とした言葉だった。セロンは頷いた。あっくんは目の前に来てしゃがみ、セロンが下げている機器を指さした。
「いいか、危ないまねはするなよ。もし危険が迫っていたら、【救難信号機】で知らせるんだぞ。あと、スクミ―にも頼れよ」
セロンは自分が首から下げている救難信号機を見て触った。
「うん、わかった」
あっくんは、セロンが頷いたのを目に留めると、立ち上がり、出口の扉の方へ向かった。ドアを開きならセロンの方を向いて、思い出したかのように告げた。
「どんなに遅くても、陽が沈むまでには、宿舎に戻って来るんだぞ」
「うん」
あっくんは、店の外に出て行った。ドアの呼び鈴が激しく踊って、荒々しい音を奏でる。セロンはおばさんの方に向き直った。まだ自己紹介してないのでしようと思った。
「今更だけど、僕の名前はセロンだよ。おばさんの名前はなんて言うの?」
「フィルゲートさ。店の名前と同じだね」
「それなら、フィルゲートさん、どうして僕達に親切にしてくれるの?」
「そりゃあ、見かけない顔が店の前を通り過ぎて、気になったからさ」
フィルゲートおばさんは朗らかに答える。セロンはそれにしても親切すぎやしないかと訝る。セロンは、さらに先程から気になっていたことを訊いた。
「フィルゲートさんはどうしてバッチを身に着けてないの?」
「今はしまってあるだけさ」
フィルゲートおばさんは、微笑んではっきりと答える。セロンは腑に落ちてはいなかった。しかし、それほど追及するものでもないので、セロンは、問いたださなかった。
セロンは、フィルゲートに挨拶をして、魔具店を出た。その後、店に来る前に行った公園の方へ向かった。次確認したい事は決まっていた。問題を解決する前に、真っ先に行っておきたい場所があったのだ。それは、グロウ族の女の人が子供に訪れるように言っていた場所である。
広場よりは狭く、周りの店や住居よりずっと大きい公園に辿りつくと、またシェルクお兄さんを発見した。裏路地に居る。今度は仰向けになって、子供達に接近していた。セロンは、兄の奇妙な行動に釘付けになった。徐々に子供達との距離を詰めている。何をする気なのだろうか、とても怪しい。そうこう思いを巡らせていると、子供達に逃げられていた。さらに、屋根からグロウ族が向かって降りて来る。シェルクはグロウ族が来る前に、起き上がって、何処かに飛んで行ってしまった。
セロンは呆気に取られていた。兄の行動が全く分からない。腰に下げた巾着袋がもぞもぞと動く。スクミ―が絞り口から顔を出した。桃色でハート耳をひくひくと動かしている。
「お腹が空いたでしゅわ。昼食を取りにいっても良くて?」
「うん、いいよ。そうだ、ついでに頼み事してもいい?」
「なんでしゅ?」
「街から人が忽然と消える理由が分からないんだ。出来る限りでいいから調べてくれる?」
「承知しましたでしゅわ」
スクミ―は、巾着の口から這い出て、地面に飛びついた。ずんぐりした体を軽快に揺らし、建物の縁に沿って、駆けていった。
セロンは、グロウ族の女の人が指していた方向を思い出した。確か、横にある大きな通りに沿って、住居群の方を指していた気がした。その方向から逸れないように、セロンは道を進んだ。途中、方向が逸れそうになったら、軌道を修正する為に道を曲がったりした。また、貴族が通りすがる時は、脇に避けて、頭を下げるようにした。なんだか、ジロジロと見られている気がしたが、ことなきを得た。
かなり街の端まで来た。街の外壁の外では風の壁が見える。グロウ族の女の人が言っていた建物はすぐに分かった。一つだけ鋭利に黒く尖った屋根が遠くからでも目立ったのである。近くまで行って見ると、全体が白い教会のような建物だった。後から張り付けたかのように、屋根に青黒い板が奇妙に貼りついていた。それなりに大きい。
建物の入り口横には、銀縁でこう書かれていた。
「スティアの保護施設……」
セロンは聳え立つ厚木の丸扉の前に着き、立ち尽くした。中から、弾んだような話声が聞えてくる。




