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小さくて大きなわがまま  作者: しがない竜
第2章1節 施しの植木鉢 上

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第50話 「街長ランデール」

 店の窓の外には、大きな広場が広がり、中央に謎の銀のオブジェが(たたず)んでいる。その向こう側から、翡翠(ひすい)色のローブを(まと)って、渦巻(うずま)き模様が広がった黄金の仮面を付けた人が歩いて来る。ローブには紫のレースがヒラヒラと風に(なび)いていた。あまりにも特質していて、高貴な雰囲気を(ただよ)わせている。セロンはすぐにランデールだと分かった。


「じろじろ見るのは止めなさい。たとえ店の中だとしても、奴の目に映ったら、取り返しのつかない事態になるよ」


 おばさんが後ろから注意を(うなが)してくる。セロンは窓の側面に体を隠しながら、頭だけ出して、見るようにした。あっくんもしゃがんで隠れている。


 ランデールは、広場の道の中央を歩いている。居合わせた住民達は、ただちに赤色の線の外側に出て、膝をつき、頭を深々と下げていた。しかし、前を歩いていて、ランデールの存在に気づくのが遅れた少年が一人いた。慌てて、赤い線の外側に出ようとしている。もう既に遅かった。ランデールの気に(さわ)ってしまったらしく、今にも魔法で攻撃しようと手をかざしている。


 セロンはまずいと思い、思わず窓に顔を押し付ける。


 強靭(きょうじん)な風が少年めがけて、衝撃波のように放たれた。セロンは思わず目を(つぶ)った。少し経ち、薄っすらと目を開けると、少年が居た場所の石畳に大きな亀裂が入っていた。しかし、少年は無事だった。少年は赤い線の外に投げ出され、倒れていた。


 セロンは、ランデールの後ろから、グロウ族の女性が歩いて来るのを見る。仮面を付けていない、公園で会った女の人だった。彼女は、ランデールに何やら話している。セロンは耳をそばだてた。微かに建物の外から、二人の会話が聞こえてくる。


「少し除けるが遅れたからって、殺そうとするなんて、あんまりじゃないです?」


「下々に教訓を与えようと思っただけさ。平民はすぐに勘違いするからね」


「だとしても、殺すのはやり過ぎよ。少し(しつけ)をするくらいでもいいんじゃない?」


「全く、君は下々(しもじも)にあまいな。こいつ等は、いつ反旗(はんき)(ひるがえ)すかなんて分からないというのに」


「平民が逆らってきたって、私達なら、気にするほどじゃないでしょ?」


「それもそうだね。まあ、今回は気まぐれということにしといてくれ」


 ランデールが再び、歩き出した。グロウ族の女性は、少年の元に向かってる。


 セロンはほっと一息ついた。グロウ族の女性が何かしらの魔法を使って、少年を助けたんだと思った。貴族だけど、下町(しもまち)に住む人々にも優しいみたいだ。


「あの子は命拾いしたみたいだね」


 おばさんが口を開いた。


「この街はずっとこうなのか?」


 あっくんがおばさんの方を向いて訊いた。セロンは窓枠から降りて、おばさんの方を向く。


「あのランデールが来てからは、そうさ。それに、今ではもっと状況は悪くなっているね」


「どういうことだ?」


「二年くらい前か、この街で人が忽然(こつぜん)と消えるようになったんだ」


「人が消える?」


「そうさ、平民も貴族も問わず、何の前触れもなく街から姿を消してしまうんだ。二度と戻っては来やしない。

 初めは、竜の生贄(いけにえ)が復活したって大騒ぎしたものさ」


「竜の生贄!」


 セロンはおばさんの言葉に反応した。


「数十年も前から存在していたって言い伝えさ。街の近くにひと(きわ)大きく、暴虐(ぼうぎゃく)な竜がいたのさ。人々が束になっても敵わない、圧倒的な力を持った竜がね。人々は、もし街に竜が襲来してきたら、ひとたまりも無かったのよ。しかし、幸いなことに、竜は街を襲撃には興味を示さなかったみたいだね。人々は胸を撫で下ろしたさ。けどさ、それも束の間、竜は、生贄を求めるようになったんだ。もし拒むのなら、街を破滅させると(おど)してね。逆らえない人々は、月が半分に欠ける度に、生贄を山奥の祭壇まで連れて行って、(ささ)げていたのさ」


「それなら、誰が連れて行くのか、目撃されるんじゃないのか?」


「初めの内はね。次第に、竜の絶大な力に()せられた者達が現れたのさ。竜を(あが)めて、忠義(ちゅうぎ)を尽くす者達がね。彼らは、見境(みさかい)なかった。闇に紛れ込んで、狙いを定めた獲物を捕縛しては、竜の生贄にしていたんだよ」


「そいつらが再び現れたっていうことか?」


「二年前に、人が消えた当初はそう考えられていたのさ」


「今は違うと?」


「そもそも、竜は数十年も前から姿を現してないんだよ。竜狩りに、街の周辺を調査してもらっても、遺骸(いがい)痕跡(こんせき)も見つからない。結局、竜はもうこの地には存在しないって判断されたのさ」


 セロンはおばさんの話に少し違和感を覚えた。何か、引っかかるものがあった。しかし、それが何なのか、分からなかった。


「結局、何がこの街の状況を悪くしてるんだ?」


 あっくんは表情を変えずに訊く。


「何が原因で、人が消えるのか分からないから、結果的にランデールは下々に責任を押し付けたんだよ。下々が卑劣(ひれつ)計略(けいりゃく)で貴族を惑わしているってね」


「そんなの……」


 セロンは納得いかないという言い草だった。


「そうさ、平民達だって何人も消えてるんだ。いわれのない罪を着せられてるのさ」


「ひどい……」


「それだけで済むならまだましさ。ランデールは、平民が自由にしているから、奸計(かんけい)を巡らすんだって決めつけてね、一家族毎に使用人と(うた)って、奴隷を差し出させているのさ。それに……」


 その後の話は、少し前に貴族から逃げだした男性から聞いた内容と一緒だった。街長ランデールが支配する限り、平民達は貴族の玩具(がんぐ)同然だということだ。


「けど、どうして、そんな貴族と平民なんかに分かれてるの? みんな仲良くすればいいんじゃないの?」


「そんなの決まってるじゃないか。どんな場所だって、力が強いのが上に立つだろうさ」


「貴族はそんなに力が強いの?」


「そりゃあ、決定的な違いがあるんだから、強いに決まってる」


「決定的な違いって?」


「貴族が持っていて、平民にないものさ」


「何?」


「魔法さ」




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