第49話 「フィルゲートの魔具店」
シェルクお兄さんが、公園から少し先の路地の物陰に隠れて、幼い子供をつけ狙っている。ただでさえ、目立つ大きな体で、どうやってここまで入って来たのだろう、と不思議に思った。それに、隠れて子供を狙うなんて、本当に食べる気なのだろうかと、セロンは動揺の色が隠せなかった。
黙って見てもいられず、セロンはシェルクの元へ向かおうとした。しかし、セロンの行動は横からの声に遮られる。
「貴方たち、こんな所にずっといると貴族に目をつけられるわよ」
セロンは声の方を見た。紅色のマントを羽織った朗らかなおばさんだった。
「目をつけられるとはどういう訳だ?」
あっくんが訊いた。
「グロウ族よ。あいつ等は、常に屋根の上から下町の住民を監視してるのよ。さっきの小娘だってそうよ。あの子、貴族なんだから。関わってもロクなことにならないわ」
おばさんは、毛嫌いする口調でまくし立ててくる。
「あの人も貴族なの?」
セロンが思わず訊いた。
「そんなことより、早くここを離れるわよ」
セロン達の意志は完全無視されて、半ば強制的に、おばさんに引きずられて行った。セロンは、はたと気づいて、シェルクが居た方を見た。しかし、もう既にシェルクの姿はそこに無かった。
セロン達は、連行され、円形の広場まで戻って来た。おばさんは、その広場の一画で店をやっている人だった。外観は、立派な窓ガラスにアーチ状の看板が掛かっていた。〈フィルゲートの魔具店〉と書かれている。セロンは、自ずと気分が高まった。
おばさんの後について、店の中に入る。ドアの上に吊るされた呼び鈴が、陽気な音色を奏でる。店内に入ったセロンはさらに気分が跳ね上がった。
店の至る所に不思議な形の道具が並べられていた。セロンは知っている、これらは全部魔法アイテムだと。これほどの数の魔法アイテムが置かれているのは、初めての光景だった。山の白竜の住処でも、ここまでの量は見たことは無かった。壁に面した位置には棚が隙間なくぎっしりと設置されていて、中央にも棚が複数並んでいる。おかげで、通るスペースが狭くなっている程である。
セロンは連れて来られた訳も忘れ、アイテムを夢中になって眺めていた。四角いものから丸い形の物、セロンの大きさと同じくらいある物、そして……。
「あっ」
思わず声が漏れた。セロンは棚の中に見覚えのある魔法アイテムを発見した。それは、セロンの両手に収まるくらいの大きさで、持ち手があり、先端が丸くなっている。真ん中から引っかけるフックもついていた。前の街で唯一見たアイテム、カレンさんの店に置いてあったアイテムだった。手前に〈運搬用バルーン〉と書かれた銀縁プレートがある。
セロンは欲しくて堪らなかった。理由は明確である。このアイテムは空を飛べるから。そして、セロンには飾りのような小さい翼しかないからである。セロンは白竜なので、勿論、空を飛んでみたい。殆どの竜なら当然のように空を自由に飛べる。殆どの兄弟達も空は飛べる。けど、セロンは飛べないのである。だから、たとえ翼ではなくて、道具の補助であったとしても、空を飛べるのは嬉しいのである。
セロンは丁度、近くに踏み台があったので、それを使って登って、もっとまじかで見ようとした。目線の高さまで来て分かる。値段が、金貨二百枚だということが。カレンさんの店で売っていた額と同じ価格で、とてもセロンには思い切って買える額ではなかった。小さくため息をついて、セロンはあっくんのいる方を見た。
あっくんはカウンターの前に置かれた椅子に座って、おばさんと会話していた。セロンも話に加わろうと、傍に向かった。
「治安維持部隊が来て、街を開放してからはね~、まだ全然マシな方だったのさ。こんなにも街の体制が悪くなったのは、とにもかくにもあのランデールが街に来てからなんだよ」
「ランデール?」
あっくんが訊いた。
「ランデール・ストーランド。現街長のグロウ族さ」
「そいつがこの街を仕切ってるんだな?」
「仕切ってるも何も、やりたい放題さ。気に入らなければ……」
おばさんがチラッと窓の外を確認した。
「噂をすれば来たよ、あいつがランデールさ」
セロンとあっくんは店の窓の方へ歩いて向かった。




