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小さくて大きなわがまま  作者: しがない竜
第2章1節 施しの植木鉢 上

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第47話 「桃色のスクミ―」

 セロンは、目先に居る、(もも)色のネズミに釘付けになっていた。ずんぐりして、耳がハート型になっている。


「旅にヒロインがいないって聞いて、参りました。スクミー・アン・ファルムでしゅわ」


 ピンクのネズミはセロンに向かって、得意げに自己紹介した。セロンはまだ状況が呑み込めていない。


「これからの旅で、必要になりそうだから来てもらったんだ」


 あっくんが、もの書き机から、こちらに顔を向けて事情を説明した。


「へー、そうなんだ」


 セロンはスクミ―に再び向き(なお)る。


「どうも、僕は白竜のセロンだよ。よろしくね」


「こちらこそ、よろしくでしゅわ」


 二人は互いに軽く挨拶をした。あっくんはスツールから立ち上がり、(そば)にくる。


「スクミ―は、お前に付き添って、サポートすることになってる」


「僕を助けてくれるの?」


 セロンはあっくんに向かって()いた。


「そうだ。基本、お前の従者になる。頼めば、色々とやってくれるぞ」


「ミーは情報収集が得意でしゅわ。あと、お宝には目が無いでしゅわ」


 スクミ―は自信満々に甲高い声で言う。


「僕にもパートナーが出来るなんて、凄い心強いや」


 セロンは、眠気が一気に冷め、気分が嬉しくなった。


「ただ、スクミ―はがめつくて、金にだらしないからな。そこは注意しておけよ」


「ミーは欲望に正直なのでしゅ」


 スクミーは胸を張って、当然かのようにテーブルに立っていた。


 スクミーは常に持ち歩くセロンの巾着袋に入って、付き添ってもらうことになった。がめついと聞いて、巾着に入っている硬貨をくすねられないかと、心配になったが、(あるじ)のものは盗ったりしないと言うので、信用した。


 ただ、巾着袋はパンパンに詰まっているので、入れるのかと疑問に思ったが、スクミ―は「それは問題無いでしゅわ」と鼻を鳴らした。実際に、両手に乗るサイズのスクミ―が、全身が入りそうのない巾着袋の口に、頭を突っ込むと、そのままつっかえる様子なく、入って行った。


 朝食を済ませ、外出する準備支度をし、セロン達は宿舎の外に出た。すっかり朝日が昇り切っているのに、運河沿(うんがぞ)いの通りは(ほとん)ど人通りがない。


「取りあえず、街の内情を探るぞ」


 あっくんは静かに切り出すと、街の中心に向かうように歩き出した。セロンも同行し、ついて行くと、大きな通りに出る。両脇には石造りの立派な店が立ち並び、街の外壁まで真っすぐ続いていた。中心に向かう方向では、少し遠くにオブジェが見え、道が三又に分かれていた。


 セロンは、殆どの道の中央付近に、赤いラインが二つ入っているのを見た。赤いラインの幅は、両端と比べて広く、道を両端と中央で、三つに分けているようである。さらに、建物の隙間や道の先からは、建物一階の半分程度の高さの壁が、横一線にずっと続いて走っているのに気がつく。


「また壁があるよ。上にも街は続いているみたい」


 セロンは指をさしてあっくんに知らせた。


「どうやら街は、上と下で明確に分かれているみたいだな」


 セロン達は中心の壁に向かって、脇道に入った。煉瓦(れんが)や石造りの建物が立ち並び、壁に突き当たると、段差になった壁は、街の端から端までずっと続いているのが見て取れた。セロン達は、さらに中心に向かって歩きだした。


 すると突然、前の方から一人の男性が走って来た。死に物狂(ものぐる)いで、息を切らし、蛇行(だこう)している。その背後からは、(いし)(つぶて)が矢のように飛んでくる。男性は必死に避けようとしていたが、ついに背中に命中してしまい、勢いで前に転倒した。


 セロン達は駆け寄って、声をかける。


「何があった?」とあっくんが訊いた。


「大丈夫?」とセロンが心配した。


 男性は(おび)えた表情で口を開いた。


「助けてくれ! このままじゃ、殺される!」


 必死な訴えは、差し迫っている緊迫感を掻き立ててくる。道の向こうから、銀糸の縁取(ふちど)りがされた山吹(やまぶき)色のガウンを身に(まと)う、ぽっちゃりした男が、ゆっくりとやって来た。胸には銀の星型バッチをつけている。


「逃げちゃダメじゃないか。それとも、代わりに上質な代役を立てくれるのか、えぇ?」


 男は横一杯に弧を描くように口を広げていて、狂気じみていた。喉の奥から(こも)った野太い声が聞こえる。


「いやだ! もうあの中には行きたくない!」


 目の前の男性は、地べたに()いつくばって、顔を(ゆが)ませている。セロンは男性の肩に手を()えて落ち着かせようとする。


「大丈夫だから、落ち着いて。あの中って何なの?」


「お前達はなんだ、えぇ? 見かけない顔だ。さてはこの街の者じゃないな」


 山吹色のガウンの男が、(あご)をじょりじょりさせて、太い首をかしげている。


「旅の者だ。それよりも、ただ事ではないように見えるが、何をしてるんだ?」


 あっくんが毅然(きぜん)とした態度で訊く。


「働いてもらう為に(やと)ったのに、こいつが逃げ出すから困ってるんだよ」


 山吹色のガウンの男は、男性をゴミを見るような目で見下して答える。


「違う! 無理やりやらされてるんだ!」


「こいつっ!」


 ガウンの男は、男性を蹴飛ばそうとする。しかし、蹴りが入る寸前に足が抑えられる。あっくんが、右足で男の足を固定していた。


「何の真似だ、えぇ?」


 ガウンの男は、威圧的(いあつてき)な態度であっくんを睨んだ。あっくんは全く(ひる)まない。お互い硬直状態になる。すると根負けしたのか、ガウンの男が足を引いて、後ずさりした。


「へっ、そんなにこいつが欲しいならくれてやるよ。こんな間抜(まぬ)け、つまらん」


 そう吐き捨てるとガウンの男は、(きびす)を返し、通りの向こうへ帰って行った。浮かした小石を、壁に打ち付けているのが見えた。きっと、土のマナリスを摂取しているんだ、とセロンは理解した。


 目の前に座り込む男性はまだ震えている。


「どういう事情か教えてくれるか?」


 あっくんはしゃがみ込み問いただした。


「どうして逃げていたの?」


 セロンも寄り添うように訊いた。


「魔獣と戦わされそうになったんだ……」


 男性は小刻みに震えていた。


「魔獣なんて……魔法も使えない俺が、戦える訳がないだろう……」


 男性は、絞り出した声で経緯を説明した。


この街には平民と貴族が分かれている。貴族は平民に対して、一家族毎に一人の使用人を差し出すように、定められているらしい。それで、差し出された使用人が死んでしまった場合、次の使用人を要求される。もし、差し出す使用人がいないのなら、その最後の一人が使用人にならなければならない。そういう制度を()いているらしい。


それで、彼は、他に差し出す使用人が居ないから、身柄(みがら)拘束(こうそく)され、連れて行かれることになったそうだ。運が良ければ、人並に扱ってくれる貴族の元で、下僕程度で済むのだが、そうでなければ、悲惨な運命が待っている。それで、彼は、悪趣味な貴族の元に連行(れんこう)され、見世物(みせもの)として扱われそうになった。魔獣と試合をさせられるという情報を、小耳に挟んだ彼は、隙を見て逃げ出してきたという内容だった。


セロンは、貴族がどうしてそんな自分勝手で、残酷な仕打ちをするのか、不思議で仕方がなかった。


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